46.芸術家
また変な人が出てきた…
美しい…
魔なのか…
森の中の清らかな泉で身体を清める美しき人。
「…いつまで舐めるように人のこと見てるの?」
息を潜めていたのに、こちらを刺し殺すような鋭い眼差しで見ている。
ドキッとしていると、その人物が近づいてきた。
どうやら男らしい。
顔から見ると少女、しかも極上の美少女なのだが…
「ねえ?お金取るよ?」
均整の取れた細身の上半身に薄く肌のラインが出る衣を纏い、かの人は残酷に美しく微笑んだ。
***
「リウマ様、そちらは?」
ニャルマーが早速食い付いたのは、竜真が引きずってきた1人の男だった。
「覗き。全く失礼しちゃうよね。僕の顔見て失神するなんてさ。」
竜真が水浴びをしていると気配を押し殺した視線を感じた。
視線を辿った所に居たのが竜真が引きずってきた男だった。
「竜真…」
「リウマさん…」
「「とうとう顔で人殺しを…」」
「ミグ!シン!」
リーシャとロイがクスクス笑っていて、バレイラは何故か嘆いているニャルマーを慰めている。
「ニャルマー、何に嘆いているんだ。その前に鼻血なんとかしなよ。」
そう言って、竜真は鞄から覆面を取り出した。
やがて起きた男は複数に囲まれていることに気が付いた。
「起きましたね?」
柔らかい微笑みを持つ水色の髪の美少年が男が目を覚ますのを確認すると、複数の人物の視線に男は貫かれた。
それなりに整った顔の人達に囲まれて男はぎょっとした。
そして次の瞬間、男はロイの手を握り締め、こう言った。
「俺の女神はどこに?」と…
さめざめ泣きながら…
帰ってきたのは一行の爆笑だった。
「竜真…洒落にならん。」
「ミグ、笑い事じゃないよ。ニャルマー、泣くな。シン、ロイ、バレイラ、リーシャさんも笑い事じゃありません。切実なんだって」
覆面の人物が頭を抱えた。
「あなたが女神様ですか?」
「男だから女神じゃないよ。覗いてたんだから分かるでしょ?」
「俺、僕、私、彫刻を生業にしているザドニデスと申しま「嫌です。モデルはしません。」
「そこをなんとか」
途中まで一行が見守る中、ザドニデスと竜真のやりとりは朝まで続いたのだった。
***
覆面を外せば、なだらかな背中に黒い髪が舞う。
人外な程の美しい顔が現れた。
均整の取れた肉体に傷らしい傷はなく、白い肌がまた美しい。
物憂げな表情はどこか投げやりだが、それがまた美しかった。
「3時間だ。3時間だけ時間をあげる。僕を見て覚えろ。皆は先に行ってて。」
そう言って竜真が上半身を脱いだところ、ニャルマーが首を振った。
「ニャルマー、鼻血の出し過ぎで死ぬぞ?」
「本望です。」
―本当に残念なイケメンて居るんだよね。
竜真と離れたがらないニャルマーの腹に1発食らわせ気絶させるとミグに預けた。
「先に行ってて。これ以上予定を後らせたくない。」
「あぁ、わかった。」
ミグに促され、竜真を残して一行は歩を進めたのだった。
***
「はい、3時間だ。泣くな。え?お礼?…そうだなぁ〜ロベルのシュミカにある夜更けのアリアにリウマ宛てに出来上がった作品を1つ送ること。」
時間切れとばかりに身支度を整えてしまった竜真をザドニデスは泣きながら引き止めようとしたが、竜真にぴしゃりと叱られる。
それでも自分の目の前にある竜真の顔を網膜に焼き付けんばかりに見ているザドニデスは時間を稼ごうと必死だ。
「僕のコレクターもそこそこ居るから、売り上げの1割も一緒に送ること。」
竜真の言うことならば、何でも聞くとばかりに顔を振る男を苦笑しながら袖にして竜真は先に進んだ一行を追い掛けた。
もちろんザドニデスがその別れに号泣したのは言うまでもない。
のちにザドニデスは名匠として世界に名を上げたのだった。