45.結局のところ
「で、話は決まったの?」
竜真達が朝御飯を食べていると、ミックがやってきた。
「決まったんだが、1名だけ問題児がいるんだ。」
「あぁ、アレね。」
アレとはもちろん竜真に襲い掛かった命知らずのことである。
「で、つい最近、うちに来た奴が少し前にサーナターナで1stのリウマが誰だかの性格矯正をしたって話をしたんだ。」
「僕にあいつの性格矯正をしろと?」
2人の間に妙な緊張感が湧いてくる。
1人事情を聞かされていたミグは明後日を向き、リーシャは首をかしげ、他の4人は興味津々にこちらを見ていた。
「ダメか?あいつを警らや騎士団に出すと、こっちもやりにくくなっちまう。かと言って、今のままだとなぁ。放置も危険だし、連れていくのも危険なんだ。」
「…確かにギルドにパーティー登録するのに、犯罪者が居ると不可出されるからね。いいよ。連れて来なよ。」
竜真はいつもの軽い口調で言い、ミックはホッとした顔になった。
***
連れて来られた男は挙動不審な状態で竜真の前に座らされた。
ミックが傍らに立ち見張っていると竜真に危険だからミグらと居ろと言われ、ミックはしぶしぶながら一行の側に寄る。
「さぁ、始めようか。」
爽やかに優しく諭す声が男にとっての地獄の始まりだった。
竜真が覆面を外し、男に何かを呟いているうちに、男はガタガタと震えだし、恐怖に身を固めて涙を流していた。
一行やミックからだと竜真の背中と男の青ざめた顔しか見えないため、何が起こっているのか分からないが、男が今にも気絶しそうなほどに怯えているのは確かだった。
***
「おわったよ〜。彼、これからは真面目に暮らしていくってぇ。それと、皆が耕してきた田畑は彼が引き継ぐそうだから労ってやってね。」
竜真は振り替えると、ミックに向かって言ったのだが、初めて竜真の顔を見たミックは茫然自失に陥り、固まっている。
「………あぁ!ゴメン、ゴメン。」
世にも神々しすぎ、美しすぎる美少女が微笑んでいるのを見て動かなくなったミックをミグが慌てて竜真に背を向けさせ、その隙に竜真が覆面を取り付ける。
他にもリーシャは息を呑み硬直していたし、ニャルマーは天に昇ってしまいそうな顔をしていた。
流石に子ども3人も驚いていたが、ニャルマーをヤバく感じたのか、正気に戻すために必死になっていた。
「顔面凶器もここに極めり…かな?」
竜真は諦め半分に少し落ち込んだのだった。
***
竜真達が支度を整えていると、ビダル山賊団が現れた。
「ミグ殿、兄上によろしくお伝えください。それではいずれまた。」
「ロアンナ様、お先に帝都でお待ちします。」
ミグとの話を終えた竜真は金貨を20枚ロアンナに渡す。
ロアンナは驚いた顔で竜真を見つめる。
「大した金額じゃないけど、皆で町まで行って稼ぐだけのクエストをって言うとかなりかかる。だから、少しだけ新たな冒険者にカンパだよ。それと、これ。」
ロアンナに手紙を差し出す。
ロアンナは手紙をじっと見つめてから竜真に視線を戻した。
「紹介状だから、登録する時にギルドマスターに渡してね。きっと融通をきかせてくれるはず。」
「重ね重ね、お世話になりました。」
「気にしないでいいよ。新進の冒険者育成も僕の仕事だから。」
ロアンナの礼に竜真は答えてミックに向かう。
「ミック、数字持ちへの昇格審査を受ける準備が整ったら、審査前に僕へ連絡してきて。」
「融通効かせてくれるのか?」
「いやいや、審査を僕がするから」
竜真の楽しそうな声にリーシャを除く5人がミックを哀れそうに見る。
「なっなんだ?」
ビビるミックの肩をまず何も言わずにミグが2度叩いて、森の出口に向け歩きだす。
シン、バレイラも同様に歩きだし、ニャルマーは一言、「頑張ってください。」と告げ、歩きだした。
「ミックさん、知ってる?数字持ちへの昇格審査は普通2ndがやるんだよ。」
「え?」
「更に目が肥えた1stが審査するって大変だね。」
普通の美少年であるロイがかすかに笑いながら去っていくのを呆然と見ていると元凶がミックの肩を叩いた。
「早く実力上げて来なよ?ふふっ、楽しみだなぁ。」
去りゆく偉大な1stをミックは泣き笑いに見送った。
ミックは竜真一行に加わることはできず、さらにはロアンナを助けてやれと言われてしまったがために、結局はロアンナ傭兵団に加わったのだった。
のちにミックが受けた数字持ちへの昇格審査は竜真により2回程落とされ3回目で合格。
2ndへの昇格は史上3人目の早さで上がり、2ndの赤い彗星ミックとして活躍したのだった。
***
「さぁ、思ったより時間がかかったから次の街まで走るよ。」
その言葉に反射してシン、ロイ、バレイラ、ニャルマーが疾走し、ミグはリーシャを抱えた。
竜真はそんな様子を見ながら、後ろの森を振り返った。
「新たな冒険者に幸あれ。」
呟いてから先に走りだした一行を見る。
「次は何があることやら。」
そんな呟きは風に乗ってあたりに散らばったのだった。
そう…ミックは3倍速い。