44.選択肢
ロアンナは前公爵が付けてくれた2人の騎士と母ハンナと共に前公爵が死ぬ前に帝都から逃げ出したのだが、途中、無理がたたってハンナが他界した。
他界した場所から程遠くない、この森の中で隠れ暮らしていたところ、いつの間にやら30人からなる山賊団になったのだと言う。
「私はここでの山賊稼業が合っている。ここで暮らしていくよ。」
「「ロアンナ様」」
ジグドと話の途中で合流したもう1人の護衛騎士ザナンが悲鳴染みた非難の声を上げる。
前公爵が生きていた時には、立場上愛人の娘と言えど、上流貴族としての暮らしをしていたロアンナに、畑仕事をさせたり、狩りをさせたり、商人に通行料と脅してみたりと割と真面目ながらも山賊生活をさせていることでさえジグドとザナンには耐えられないのだ。
「私がここにいなければ、誰が奴らの面倒をみる。今なら畑仕事をさせたり、狩りをさせたりで本当の山賊らしきことはあまりさせないでいられる。だが、私が居なくなれば、この森は旅人の殺戮現場になりかねない。無責任なことはできん。」
なかなか真面目な女傑であるらしいロアンナの説得できないものかとジグドとザナンは頭を掻き毟った。
ミックがジグドとザナンを見るに見兼ねて口を挟んだ。
「じゃあ、あいつらを雇ったらどうだ?本当に犯罪者なのはリウマさんにぶちのめされたやつぐらいだ。後は俺みたいな冒険者の行き倒れやらをあんたが保護してくれたのが始まりだ。あんたへの恩と敬意は並じゃないぜ?雇ったとしたら責任と言う意味は取れるだろ。」
「お前らを雇うような金銭的余裕なんぞない。」
「…」
ミックの提案にジグドとザナンが首を縦に降っているとロアンナはぶったぎる。
3人が提案し、ロアンナが却下するそんなやり取りが続いていると、眠気に負けてか竜真とミグ以外の5人は夢の世界へ旅立った。
「はい。ちょっといいかな?」
竜真がどう話に入ろうかと、とりあえず手を挙げてみる。
その場の起きている全員の視線を竜真は集めた。
「君らが話している内容をちゃんと彼らも交えて話した方がいい。」
竜真の視線はビダル山賊団幹部を通り越し、木々の中を見ている。
ミックは出てこいと声をかけた。
申し訳なさそうに出てくる男達にロアンナは深い深いため息をついたのだった。
「頭…」
「…………お前ら、山賊辞めて、私の騎士になるか?自由になるか?」
情けない声で自分を呼ぶ男達に僅かな沈黙の後、ロアンナは選択肢を投げつけた。
ロアンナはこの森を出ることを決めたようだが、先程の面倒を見るだけの金はないと言ったばかりなので、男達は首をかしげた。
「お前らの大半が冒険者だ。元奴隷も居るが、この1年で体力も気力も学問の力もかなり基礎ができていると思う。それでだ、もし私と来るものが居るなら組織的な冒険者となるのもありかなと思ったのだがどうだ?ついてこない者は自由にしてくれ。」
言うだけ言うと、ロアンナはアジトに向けて歩きだした。
その場に残された男達はどうしたものかと一同うなだれている。
竜真はそんな彼らに静かに語り掛けた。
「好きならついてく、嫌なら離れる。途中着いていけないくなったら暇を請う。行くか行かないかは個人裁量。それだけの話じゃないか?彼女は選択した。いつまでも、こうしていられないと気が付いているからだ。君らはどうする?人間とは“もしも”を考えながら選択して生きていくものだよ。もしも彼女がここにいる選択をしたら?年若い彼女がこのまま森のなかで野郎に囲まれて過ごすのが健全だと思うか?人間、良くも悪くも選択をし続けていかなければならない。常に岐路が道に置かれているんだ。あの時こうしておけば良かった、あぁしておけば良かった、後悔してもいいが、その時に後悔に捉われて、最善への道に進めない間違いを犯してはならない。こんなことは人に言われるまでもないことだけど、言ってもらわないと気付けないことでもある。僕らは冒険者だ。冒険者だからこそ、1つ1つの選択が大事に至る。元奴隷と言うなら、彼女の保護下にいることをお薦めするよ。」
竜真の言葉をじっと聞き入っていた男達は考え込んでいる。
しばらくはそれを見ていた竜真だが、苦笑して、また男に声をかけた。
「アジトに戻って、ゆっくり一晩考えなよ。こんなにたくさん人が居ると、彼らが深く眠れない。」
仲間を気遣う竜真にミックが代表して謝罪と感謝を述べると男達は去っていったのだった。
竜真はそれを見ながら、ふぅっと一息ついて、気配が無くなるのを確認してから、その場に横になった。