43.縁は異なもの
「…」
竜真が目を覚ました時、視界に入ったのは複数人の下卑な笑いだった。
本日も絶好なかくれんぼ日和と竜真はミグとリーシャを除いた4人に隠れさせていた。 そして、ミグとリーシャに昼御飯を頼み、竜真は池の辺で昼寝していたのだが、どうも熟睡し過ぎたらしい。
「覆面なんかしてお嬢ちゃんはどんな顔をしているんだい?」
竜真はそう言って覆面に手を伸ばして来た男の好きなようにさせてみる。
想像以上の反応だった。
1人は拝み、1人は恐怖を浮かべ、1人はまるで媚薬を打たれたように興奮しとバラバラの様子に竜真は呆れた。
「私をどうするつもりですか?」
―僕は女神の仮面を被る。と、念じてからイメージで女神と言う威厳と落ち着きと女性の温かみある声を出してみると2人が土下座した。
―女神信仰があるのはどこだっけ?
そんなことを考えていると、1人の男が興奮しきって、ナニをこれでもかと立たせ、血走った目で近寄ってきた。
―あんときの馬鹿なみか…
あんときの馬鹿、もといリーシャを身請けしようとし、竜真に性格矯正された男を思い出し、竜真は…悲鳴をあげてみた。
すると、土下座していた男達が慌てて竜真の傍に近寄った男を取り押さえる。
しかし、暴れる男に2人は吹っ飛ばされた。
「そろそろ、かくれんぼの時間だから、相手してられないや。」
次の瞬間、竜真の左拳が男の腹部にめり込む。
右の拳が顎にヒットし、だめ押しに回し蹴りが側頭部にあたり、男は森の巨木にめり込む形になった。
「君らは盗賊?」
何もなかったかのように振り返った竜真は艶やかさを念頭におき声音を操ると、戦慄に固まる2人の男に尋ねた。
「お、俺達はビダル山賊団…」
「そう…かくれんぼにはちょっと邪魔だね。」
次の瞬間、2人は地面に崩れ落ちていた。
手刀で気絶させたようだった。
「力と技と団結が合図だね。」
全くその場の状況と噛み合わないことを呟いた竜真はまずはシンを探すために辺りの気配を探ったのだった。
***
「皆、確実に進歩してる。」
夕食を取りながら、竜真は満足そうに笑っていた。
「竜真相手にあれだけ時間が稼げるならAランクまでなら軽く騙せるな。」
ミグも嬉しそうに笑っている。
柔らかな雰囲気が流れているようだが、竜真とミグ、気が付いていないリーシャ以外は険しい顔をしている。
「さて、問題です。何人いるでしょうか?」
リーシャはきょとんとしているが、その言葉で竜真とミグ、リーシャ以外は臨戦対戦に入っている。
「ビダル山賊団の皆さんようこそ。」
竜真の声に周囲からの気配が変わる。
そして、1人の男が出てきた。
男は右目を黒い眼帯で覆い、鋼色の洗いざらしな髪が野性的で雄だと主張している色男だった。
「納得だ。相手は1stのリウマだったんだな。」
皮肉な笑みがまた似合う。
男は一行の近くまで来ると、その場にあぐらをかく。
「俺はビダル山賊団のミックだ。副頭目をしている。部下が手酷くやられたようだから、様子を見に来たんだが…」
やられるのが当たり前だなとミックは爽やかに笑う。
ミックが笑っていると、森の中から数人の男がやってきた。
「副頭目、何笑ってるんすか。」
「いい女も居るし、やっちまいましょうよ。」
囃し立て、リーシャを値踏みする男達に、ミックは一喝した。
「やめておけ。…ただし、死にたいなら勝手にしろ。俺はこの方に恩がある上に実力も知っている。お前ら全員が瞬殺されるのが落ちだ。」
一同が反発するか引くかの見極めをしていると竜真が首をかしげた。
「ミック…前にあったか?…」
「まぁ、あんたにゃ何でもないことさ。そうだな、シュミカでバムズの時と言えばわかるか?」
竜真の頭を過った光景はバムズと戦う4人の男女。
「鋼色の髪の男がそう言えば居たな。あれ?確かパーティー組んでただろ?」
「あぁ、あの後、アナって女剣士とちょっとあってな。俺だけ放り出された訳だ。でもって、ここまで来たのはいいものの、結局は山賊にスカウトされて、気が付きゃ副頭目よ。」
悲哀と不真面目の境目の表情で答えるミックに竜真はニヤニヤ笑う。
「どんなことがあったにせよ、その眼帯、いかしてるよ。男臭い色気が5割増だ。」
竜真の冗談にミックが豪快に笑いだした。
「なぁ、俺もあんたに付いていっていいか?」
「「副頭目」」
男達はぎょっとして、
「わりぃな。やっぱりガラじゃないんだよ。「ミック、中々いい人材でしたのに…残念です。」
「「頭目!」」
場違いな涼やかな声に一行が目を向ければ、金髪の蠱惑的な美女がそこに立っていた。
山賊の頭にしては些か美女過ぎる。
「ロアン、わりぃな。」
「ミック、気にするな。」
ミックの肩を山賊の頭目ロアンがバシンと叩く。
「ロアン…ロアン…ロアンナ・ビダル…ロアンナ・ビディ」
それまで傍観していたミグが、山賊の頭目を見、名前を聞いた時から反応していた。
ロアンが驚いているとロアンの脇から男が出てきてミグに刄を向けた。
「…ジグ、よせ。皆、今日はしまいだ。ねぐらに帰れ。」
ロアンが号令をかけると、山賊の一団はその気配を消した。
場に残ったのはロアン、ミック、ジグと言う男と、竜真達一行だった。
「やっぱりか。ロアンナ・ビディアル。現ビディアル公爵の異母妹じゃないか?前ビディアル公爵の恋人ハンナ様に良く似ている。」
リユカ帝国の良き父と言われていた前ビディアル公爵には冷めた関係の妻と温かい絆を作った恋人が居た。
しかし、一昨年に前ビディアル公爵が他界してからハンナとその娘ロアンナの行方が不明になっていたのだった。
母の手前、公に捜せなかった現ビディアル公爵は前公爵夫人であったソフィアが去年に亡くなってから、ハンナとロアンナを捜すように命じていた。
現公爵にとっては美貌を鼻に掛け、プライドに固執する産みの母よりも温かく抱き締めてくれたハンナを母と思っていたのだった。
ミグも城を離れた時には捜すようにとお願いされていた。
「アデイルはハンナ様とロアンナ様を懸命に捜している。」
「3rdのミグ様でしたか。失礼しました。前公爵デイビッド様の護衛をしておりました。ジグドと申します。以前1度だけお会いしました。」
ジグもといジグドは剣を引き、ミグに謝罪した。
副頭目は竜真と、頭目はミグと妙に縁ある山賊とかかわり合いになった一行だった。
ミックは2話目に出てきたあの人ですよ。