40.狩りの始まり
なんだか設定が増えました…作者もそうなの?とビックリ(οдО;)
「バレイラ右から、シン左へ真ん中は私が行きます。ロイ君は風の攻撃をお願いします。」
ニャルマーの指示に3人が動く。ロイは詠唱し、ニャルマーが次に出す合図を見計らう。
***
「ホント楽だね。」
「楽だな。」
「あなた達は戦わないの?」
のほほんとひなたぼっこをしている竜真とミグをリーシャが呆れたように見ている。
「「あいつらの修行にならない」」
「…あなた達、相思相愛よね。」
異口同音にリーシャは目を見張り、弟に仲の良い友人ができたことを微笑ましく思う。
「それほどでも」
「竜真とは気が合う」
「呆れた。ところで1stとか3rdとかって冒険者ギルドのランクよね。」
「そうだね。」
「具体的な強さってどうなの?」
門外漢であるリーシャにとって冒険者ギルドとは謎の存在だ。
現に目の前の2人以外の4人が必死で戦っているのを余裕で見ているのを疑問に思うのだ。
ミグが答えた。
「あいつらが戦っているのはランクBの魔物だけど、ギルドランクBで1対1で勝てるという意味で、Aなら万が一でも死なないで勝てる。3rd以上なら秒殺できる。」
リーシャは黙って聞いている。
「俺でも1分かからない。竜真なら10秒」
「まさか。5秒だよ。」
本当に秒殺するようだ。
説明を竜真が変わって続ける。
「基本的に3rdなら1人で街を落とせる。2ndで砦。」
「1stなら?」
物騒な話にリーシャは緊張してきた。震える唇で問う。
「国を落とせる。」
あっさりと言い放つ竜真だが言っていることは滅茶苦茶だ。
しかし、それは事実であり、真実だ。
「それだけに数字持ちになるにはかなりの壁がある。数字持ちになってからの壁は更に厳しい。」
ミグは3rdだが、2ndに上がるには鍛練が足りない。
1stに至っては教養から何からが違う。
竜真の動きはけして粗野ではない。
貴族、王族の家庭教師もできるのだから、優美優雅気品等も条件に上がる。
強さといったら、竜真1人で国を壊滅させれるだろう。
「僕ら数字持ちはある種の兵器でもある。先日、ブジュルムとバナハスの戦争に対してギルドは数字持ちに関わるなと指示を出した。もし、傭兵として数字持ち達が関わるようなら、僕か蒼騎士が出ることになるね。ただし蒼騎士は王子の側面があるから、きっと僕がギルドから使命を受けるだろうね。待っているのは虐殺か調和か…ふふ。もしかすると、大会の期間中、ミグに彼らを任すかもしれない。」
数字持ちは着く街ごとにギルドに行かねばならない。
それは力ある数字持ち達を管理するためでもあるし、難題を減らすことも重要事項だ。
そして、1stとはギルドに冒険者達の管理監督、生殺与奪を任された狩人でもあった。
「そうならないことを祈ってる。魔物と違って、僕は人を斬るのが大嫌いだ。」
人殺しをしたことがないとは逆立ちしても言えない。
日本に生まれ育ってきた竜真にとって、冒険者になった最初の試練は人殺しだったのだから。
「ミグ、リーシャさん、終わったみたいだよ。」
竜真の口調はあくまで穏やかだったが、その中にある意志の強さを感じてリーシャには目の前の小柄な人物がミグよりも大きな存在に見えた。
***
「さて、君らの実力は見ることはできた。全員ランクCは間違いない。」
戻ってきた4人が一息ついた所で竜真は切り出した。
「で、君らには全員ランクBに上がってもらうため、今日から2日かけて獲物になってもらう。」
4人はそれぞれにおののく。
獲物とはなんぞや。
その疑問も竜真の次の言葉で判明した。
「ちなみに追い掛けるのは僕だ。僕から死に物狂いで逃げろ。もちろん1人でだ。範囲はこの森の中。つまりはランクBまでの魔物がうろちょろするこの森の中、最初の1日で逃げる隠れる。2日目から僕との追い駆けっこだ。」
「竜真…」
竜真の意図に気が付いたのは、ミグだけだった。
ミグが追い駆けっこ経験者だからだが、他の皆は大いに困惑している。
「僕の時は2ndの魔物使いシェナビア相手に10日間逃げることだったかな。」
「俺は2ndの死の教授マイナー相手にやはり10日逃げ切れだったな。…だがお前相手に2日はつらいだろ。」
「そうでもないよ。相手は4人だし、4人に対してそれなりに時間を裂く気ではあるから。」
周りは話の内容はよく分からないが、逃げなければいけない4人は話を真剣に聞いている。
これはこの2人に付き合うようになってから、学んだことだった。2人の会話にはヒントが隠されている場合が多い。
「確かに今の実力で大会は無理だからな。いつ指令が下るかわからないなら、今やるのは鍛えることだな。」
「さぁ、今から2日間だ。頑張ってね。」
ミグとの話が済んだところで、頑張ってねと言われても、納得がいかない。
耐えかねて、シンが手を挙げた。
「シン、どうしたの?」
「リウマさん、意味が分からないです。」
「短期間に強くなるための訓練だよ。本来なら数字持ち上がるためのテストで、2ndから10日間逃げ切るものなんだけど、相手は僕だし、2日逃げ切れば上出来でしょ。」
「なぜ3rdテストを我々が?」
ニャルマーは竜真と離れるのが嫌なため悲しげだ。
「まずBランクの魔物を1人で倒せるようになること、食料や水の配分を見極めること。気配を消す技術を身につけること等様々な技能をマスターしてもらうためだよ。君達は正式にはEランクとDランクだからね。Bランクの試合は甘くない。」
「お前らが竜真とともに旅を続けるなら必須だ。なんせ1stの仕事は国の存亡や世界の存亡に関わるものも多いからな。早く数字持ちになってやれよ。」
竜真のためと書いてニャルマーの生き甲斐。
ニャルマーは自分の荷物を持って森に消えた。
「ミグ、ニャルマーの操作、上手くなったね。」
ミグを見上げ竜真は笑う。
「ニャルマーさん、あれでいいのか?」
「いいんじゃないですか?幸せそうだし。シンさん、行きましょう。」
《頑張って逃げます。》
三者三様に荷物を持ち、森に消えたのだった。
その様子を見てから、竜真はすとんと座る。
「リーシャさん。2日間退屈かもしれないけど、よろしくね。」
「待つのは私の仕事だわ。それにしても、リウマさんは綺麗ね。覆面していても物腰、立ち振舞い、姿勢、マナー、どれをとっても美しいと分かってしまう。ミグは丁寧止まりでまだまだ洗練しきっていないわ。」
竜真を見ながらリーシャは感心すると、ミグはため息をついた。
「1stと3rdの差だ。2ndのテスト迄には竜真を見て勉強するつもりだ。2ndになれば王族の家庭教師も可能になるからな。」
「ふ〜ん。」
「竜真、笑うな。」
ミグの意図に気が付いた竜真は覆面の中で笑うが、ミグはそれに気付いて耳を赤くして怒る。
リーシャは不思議そうに2人を見ていた。
ミグとリーシャをくっつけたい真咲です。
リーシャをその気にさせるのは難しそう。
ミグ頑張れ。
次回は追いかけっこ編