4.旅立つ前に
名指しの依頼が着たようです。
前回の旅から一ヶ月、竜真はヨルに旅に出ると告げた。
「今回はシャロルのミグからの依頼。ミグの依頼だと二ヶ月は軽いかな」
「ミグかぁ。また変なもの見つけたんだろ」
「遺跡だって、時代的にはリユカ帝国の初期か出来る前みたい。久しぶりの遺跡発掘に腕がなるよ」
リユカ帝国はこの世界では一、二を争う程に大きく発展している。
その歴史は三千年続き、飲まれ飲み込まれ、盛者必衰、様々な国が起きて沈みゆく中で権勢を誇っていた。
長い歴史の土台となる発見になるのか、リユカの歴史研究者でもあるミグから、かなり興奮しているらしい文面の手紙が届いたのは一週間前のこと。
「フルウルは置いていくのか?」
「なんで連れていく?」
フルウルを当然のように連れていくと思っていたヨルに竜真は驚いた。
「弟子だろ?」
「弟子にした覚えはない。一度だけクエストを手伝っただけだよ」
「あんなに懐いてるのに」
可哀想にと首を横に振っているヨルに竜真は少しだけイラッとした。
「リユカ帝国の古い遺跡は、特に魔物が強いから駄目だ。一年前に潜った所には古代神竜が居た」
「でも、その古代神竜と友達になって帰ってきたのだぁーれだ?」
ヨルの鼻の下が微妙に伸びているような気がした竜真はヨルに向かって手に持っていたナイフを投げつけた。
「マリシュテンのことは特殊事例。不測の事態にフルウルとミグの二人を守るのは面倒くさい。それにミグは遺跡馬鹿の変態でも一応3rdだからいいとして遺跡に初心者を連れて行きたくないんだって。」
***
一年前、偶然に発見した帝国の古代遺跡に軽い気持ちで入ったのだが、最下層で古代神竜マリシュテンに遭遇した。
まさかの遭遇。それまでの遺跡内に出てきた魔物達との戦いで相応に消耗を始めていた矢先のことだったので、竜真は生きて帰れるかとたっぷり三秒は悩んだ。
悩んだところで始まらない。竜真は剣を構えた。
戦いの最中、ボロボロになり、視界の邪魔になってきた覆面を外した時にそれは起こったのだ。
《いや〜ん。かわいい〜》
ピンクの思念が竜真の脳内に突き刺さった。
《うっそ、やだぁ。男なのに可愛すぎる。ねぇ、あなた、私とお友達にならない? もう少し早くその顔見せてくれたら良かったのにぃ》
日本での女子高生のノリにそっくりな思念は、どうやら目の前の巨大な古代神竜から来ているらしいと、そう判断した竜真はあまりの脱力感に目の前が暗くなった。
直後、まばゆい光が室内に満ち、竜真の目の前には紺より黒に近い青の髪の長身美女が立っていた。豊かな胸に括れた腰。正面にスリットが入ったロングスカートからは完全なる美脚が見えていた。
「あたし、マリシュテンね。あなたは?」
「竜真=三島。」
「リウマ=ミシマね。そうそう居ない迄の漆黒。綺麗ね。人間なのよね。珍しいわ」
そう言ってマリシュテンは竜真に詰め寄るといきなり唇を奪っていった。
「リウマってドストライク、ど真ん中なのよ」
「……いきなり舌までは驚くよ。マリシュテン」
絡み付いてくる魅惑的な肢体に一応、リウマも男の子なわけで、竜真は反応してくる自分に別の意味で食われるかもと、古代神竜とどうお友達になるのか、頭を抱えたい気持ちになったのだった。
***
「それに、最後の敵がマリシュテンみたいだったら、尚更、フルウルは連れていけない。食われる」
「美人なお姉様に食われるのは男の本」
カッ!
「本望だろ」
カッ! カッ! カッ!
一本目を躱し、ニヤリとした瞬間、顔を回るように三本のナイフが通り抜けて、壁に突き刺さった。
「師匠の鍛練のお付き合いが出来て、僕も本望ですよ」
「お前も本当に容赦ないよな」
「用事があれば、今日の内にしてください」と、そう言って竜真は出ていった。
すっかり面白くなった弟子に、ヨルは帰ってきたら、どういじくり倒そうかと出発前から楽しんでいた。
マリシュテン:古代神竜。
イメージはノリカさん。
かわいいものが好き。
嫌いなものはむさ苦しいもの。
その点、竜真は大ヒットらしい。
(2012、1,21改)