37.変態と偶然
サブタイトル…あぁ何も言わないで
村から出て半日、夜営を始め、皆で火を囲む。
日が暮れてきて辺りを暗闇が覆ってきた。そんなおり、シンが半日感じていた違和感を呟いた。
「なんつーか…リウマさん、変わったな。」
「どこが?」
竜真が首をかしげ聞けば、シンはうーんと考え込みながらも答えた。
「雰囲気つーか、気配つーか…近寄りがたい…でも近寄りたい?夜の帝王つーか、でもいかがわしくなくて…」
「へぇ〜…ミグ。」
「そこまで的確だと驚くな。」
竜真は目を見張り、ミグも感心する。シンは照れたように頭を掻いたのだが、ニヤニヤしながら竜真がぞわぞわするようなことを言った。
「ニャルマーさんなんか、目が合わせられないみたいだぜ。」
「ニャルマー…」
残念な男ニャルマーがそこに居た。
そう言えば、今日はニャルマーが久しぶりに会ったのにもかかわらず、まとわりついて来ないと竜真が思い至る。
「り…リウ…マ様…」
「ナゼ赤くなる?」
動悸息切れ赤面。
ミグは若干引いた。
「拝むな!」
「ニャルマーさん、鼻血鼻血!」
ロイが慌てて近場の布を押しあてた。
ボタボタと鼻血を垂らしながら、止まらぬ涙を拭いもせず、覆面の竜真に対して拝む残念な男ニャルマーに竜真は全身に鳥肌を立たせた。
「泣きながら鼻血出して拝むとか、立派な変態になりやがって…『治癒』!」
「ミグさんは、リウマ様とご一緒していて、何も思いませんか?」
竜真がニャルマーの鼻血を止めると、ニャルマーは食い付くようにミグに迫る。
迫られたミグはニャルマーから視線を外し、竜真を見る。
竜真は鳥肌を撫でて宥めていた。
「俺は竜真がそんなに変わったとは思えんが、変わったならその原因も知ってるからな。別に何とも思わん。ただ、覆面をしていても色気がだだ漏れになったからには、覆面を取ったらどうなるやら。」
「確かにね。怖いもの見たさにやってみる?ミグは凄いね。僕ら親子を見ても平然としているなんて奇跡だね。」
竜真の口からふと出た言葉がニャルマーの琴線に触れる。
ニャルマーはミグに迫るように近づいた。
「…………のですか?」
「ニャルマー?」
いきなり目の前に顔が近づき、咄嗟にミグはニャルマーの顔面に手をやり、ニャルマーとの距離を強引にとる。
そのまま力任せにニャルマーを座らせると、ミグは火から離れて座った。
「リウマ様のお父上様を御覧になったのですか?」
「落ち着け!まぁ…竜真の何倍か知的でカリスマ性があり、色気過多な美形壮年だった。」
「父さんのことをそんな評価してたんだ。」
「み…見たかった。」
「「泣くなニャルマー。」」
嘆くニャルマーに鳥肌を立てた竜真とミグが怒鳴る。混沌としている大人組を余所に、シン、ロイ、バレイラはマイペースにご飯の支度を終えていた。
***
4日ほど野宿が続き、久しぶりに街に一行はたどり着いた。
「ここは華やかな街だね。全体的にいかがわしい感じ…情操教育上は通り過ぎたいかもぉ〜。」
「リユカの花街と言われる街、サーナターナだ。」
竜真が覆面の中で眉間に皺を寄せていると、ミグは溜め息混じりに答えた。
「あの寂れた村の次の街がここって何か間違ってない?…あれ?でも…前の村にやたら色気過多な熟女が多かったのって…」
「花街の女は、ある程度歳が行けば、近隣の村に下げ渡されているらしい。……………」
リユカでも随一の歓楽街サーナターナ、昼から男も女も客引きにせっせと働いているが、ここが更に盛るのは夜が更けてから。
露出の高い衣装の女達が店の入り口に並び、男性旅人を引き込もうとし、女性旅人には軽薄そうなみめ麗しい男が誘う。
子ども達3人を真ん中にし、3点で囲むようにして街を過ぎようとしていたところミグの足が一軒の店の前で止まった。
「ミグ?」
先頭から離れ、竜真がミグを覗き込む。
「………義姉さん?」
ぽそりと小さく声が漏れたのを竜真は聞き逃さなかった。
「お姉さん?」
「いや、まさか…しかし…あっ待て竜真!」
戸惑うミグを余所に、ミグの視線の先に居た女性の下に竜真が行けば、ミグは慌てて静止した。
「この人?」
青ざめた顔を突き合わせたまま動かないミグと女に竜真はため息をつく。
竜真は一瞬の思案ののち、振り返って皆に伝える。
「ニャルマー、この街で泊まる。3人から絶対に目を逸らすな。シン、ロイ、バレイラ、絶対に僕かミグが居ない時は出歩くな。絶対にだ。宿は…冒険者ギルドの施設を借りよう。ところでお姉さん、1晩いくら?」
ミグの姉らしき女に尋ねるも反応がないため、ちょうど通りかかった店の男に聞くことにした。
「あ、店の人?この人いくら?」
「ミグリース?彼女なら1晩金貨5枚だ。売れっ子でこの店の3位だからな。それにもうすぐ身請けも決まりそうだから、ミグリースを買うなら今だぜ。」
「じゃあ倍払うから1晩2人でよろしく。」
「うちは1対1しか受けてない。」
「抱くの1人だけならいいだろ?見てるだけって興奮するんだ。ね?金貨10枚。」
「仕方ないなぁ〜。話つけてくるよ。」
そう言って男は立ち去り、ミグは呆然と男についていくように奥に入った女を見つめていた。
竜真はミグの背中をポンポン叩く。
竜真は店の中に顔を入れ、受け付けで年季の入った女と軽く話をし、店から出た。
「さて、ギルドに行こうか。」
まだ呆然としているミグの背中を叩くと一行はギルドに足を向けたのだった。
何故か人気があるニャルマーです。
ニャルマー…それ以上の進化は竜真に嫌われるぞ。