34.リラックスに
今日が水曜だと忘れてました。
「まぁ、こんな感じでヨルと出会って、まずは冒険者ギルドに登録したかな。」
うふふと笑う竜真は捜し出してきた取って置きのワインを取り出してきて開封した。
「これは?」
「父さんのワイン。因みにワインは向こうのお酒の一種ね。僕の産まれ年のもので、向こうでは20年ものだけど、父さんがいつこちらに置いたかが問題なんだよね。長ければ軽く百年以上ものとか言う話だもの。」
と、いいながらも楽しそうに開封作業にあたる竜真。
ミグは呆れ、苦笑いする。
「あくまでも現実的に前向きなんだな。」
「そうだねぇ。僕の世界では書の文化が物凄い発達しているんだ。こちらで紙と言うと基本的に城での重要書類なんかに使われて、黒板にチョーク、もしくは木片に炭が庶民の普通だよね。だけど…」
竜真は鞄を漁るとルーズリーフと読み終えた小説を取り出す。
「向こうではこれが庶民の最低でも使える紙なんだ。因みにこれが本ね。」
ミグが絶句しているのを確認しながらも話を続ける。
「この書の塊である本は様々な分野や思想、娯楽で溢れるように世に出てきているんだよ。そんな本の中には僕みたいに異世界に来てしまうなんて言う話も沢山あってねぇ。これら話は作者による想像上のものでも、擬似体験的に考えることによって、僕がこれからをどうしようかと想像もできる。まぁ、想像だけであり、《事実は小説よりも奇なり》と言う言葉もあって僕は僕の好奇心や探求心のままにここにいるんだ。」
ワインをグラスに注いで、飲みながら話は続いていく。ミグは匂いを確認しながらワインを飲み、目を輝かせた。
「竜真の世界は魔法がないが、こちらの魔法ある世界よりも発達しているのだな。」
「魔法がないからでしょ?それに魔物も居ない。」
「それにしても竜真の魔力の色よりも深い赤だな…そして美味い。」
ワインを気に入ったらしいミグが杯を空ける。
竜真はその様子を見ながら、再び少し前を思い出した。
***
出会ってからしばらく経ったある日、ヨルが竜真の見たことのない鳥を捕まえてきた。
「師匠?それどうするの?」
「食べるに決まってんだろ。」
「なんだ、食ったことないのか?バルマフって言うんだが、これが中々美味くてな。」
竜真の目の前でさっさと捌いていくヨルをじっと見て、持ち前の前向きさにより、これをどうやって捌くのか、料理するのかを観察する。
こうして野生動物を捕まえて捌いて食べるということは当たり前にならなければいけない。
熱心に見る竜真を誤解してか、ヨルはケラケラ笑いながら竜真の背中を叩いた。
「そんなに腹が減ってたのか!」
「違う!」
***
当初、武器はなく、護身用に習っていた体術が戦いのメインだった竜真が初めて使えるようになった武器は剣ではなく鞭だった。
武器屋で得物を物色していたところ、面白そうだと鞭を手に取った竜真。
何度か試しているうちに、意外と上手くコントロールが効くと気が付き、隣の店で買い食いしていたヨルが持っていた骨つき肉に照準を合わせ掠め取る。
それを一口食べると、唖然としていたヨルが怒りだした。
「あ、美味しい。」
「リウマ、てんめぇ〜」
「おじさん、これ貰うよ。」
「おう、ありがとさん。」
憤るヨルを無視して武器屋の親爺に代金を渡し、竜真は逃走したのだった。
***
「竜真とヨルは最初から竜真とヨルなのだな。」
「そうかもね。なんせ師匠は遊び心の塊だもの。さて、今日はここでおしまいにしようか。」
そう言って、竜真は自分の手元を片付け始める。
「わかった。明日はどうする?」
ミグもこれ以上は竜真は話さないと判断し、自分の手元を片付け始めた。
「父さんに奈美恵のことを聞いておきたいし、父さん待ちかな。」
2人は片付けをしながら、衝撃から出来上がった1日をリラックスした片付けでおしまいにしたのだった。
ヨルと竜真はだいたいバカなことをしている。
いつまでも男は少年なのでした。
ミグは聞き役に撤してます。