32.出会い
「また竜真の1人勝ちかよ。」
「九十九、うるさいよ。」
三島竜真はその日、合コンで来た女子軍の視線を総なめにして、1人入れ食いののち、友人、九十九忠昭とともに、駅に向かって歩いていた。
「竜真…キミ、最高何股したことあんの?あのモテ方異常だよ?」
「15股。いきなり女子に囲まれて、私達と付き合ってくださいって…」
「…俺、なんてコメントしたらいいのか分からない。」
アルコールもそこそこに入り、陽気に友人と語り合い、駅前で別れる。
竜真は駅の反対側の入り口に向けて歩き続け、駅を抜け、商店街を抜けようてしていた。
人気は既になく、竜真は颯爽と歩いていた。1歩1歩と足を進めていったのだが、一瞬、階段で足を踏み外したのと同じ感触がした。
目の前には普通の住宅地を車2台がギリギリに通り抜けれる程度の真っすぐな道が続いている。
足元は―ズブズブとアスファルトに沈んでいく足。
「突発的一部液状化現象?」
膝まで沈んだ時、異変が起きた。
竜真を6色の光が囲み、竜真は眩しそうに目を閉じた。
***
「夜が昼に、街が森になった…」
日本にはない植物群に囲まれて、竜真は頭を抱えた。
「時差ボケ起こしそうだ。」
先程まで道を同じくしていた九十九が居たら、気にするのはそこなのかと突っ込んだだろう。
気に入った人にはボケ倒す性分としては九十九の突っ込みは楽しくて仕方がないが、すでに九十九とは別れているし、あたりに動物の気配がない。
竜真はどうするか思案した。
―――太陽…は、ある。空気も申し分なさそうだ。顔が変わって…たりもしないかな。
気配は…少ない。
さて、見たことのない植物だ。
虫は……うん。見たことない。30センチの蛾はちょっと微妙。
ここはどこだろうか?
太陽が中天ならば昼だと推測できる。
「とりあえずは水の確保かな。」
竜真は適当な方向へと歩きだした。
***
「綺麗な池だ。」
アクアマリンのような水面に植物の緑が写り込み、えもいわれぬ美しい風景が目の前に広がっており、竜真は純粋に感動を味わっていた。
「水浴びして、仮眠をとるか…」
あくまでも現実的な竜真としては、水の確保、睡眠による意識の覚醒と体力回復、適当な武器(先程拾った先の鋭い棒)に食料の確保(鞄の中にチョコと飴に栄養補助食ゼリーがあった。)だった。
とりあえず目的は果たしたので、後は体力回復が問題だった。
何せ授業が6限までフルに入っていた上、体育教科もある日で、脳と身体を使った1日の締めくくりは合コン。
夜まで積極的に活動し、後は帰って寝るだけ…のはずなのに、また昼からサバイバルでやり直し。服を脱ぎ、池に入る。
半身まで浸かったその時だった。
がさがさと茂みが揺れ、1人の男が現れた。
「…」
竜真と目が合った男が、無言のままに剣を抜き放った。
竜真は一切視線を逸らさず、じっと見つめる。
「まさか人型に会うとは…」
―言葉は聞こえるのか。話しても通じるのかなぁ。
「僕は人間なので、もちろん人の形をしているのですが、とりあえず、剣をおさめていただけませんか?」
「お前…その容姿で魔物ではないと言うのか?」
魔物とは黒を纏う異形のこと。
時として国を滅ぼしてきたのは黒を纏いし美貌の人型の魔物。
この世に気紛れに関わる彼らを倒すことは、ある種、冒険者達に目標とされてきた。
「僕は産まれてから20年、この容姿で人間として過ごしてきたんだけど…」
池から覗く半身は細身で色白く、濡れた黒髪が張りつき、ちらりと見える美貌は男が今まで見たこともない美少女とも言えた。
「とりあえず、服着ていい?寒くなってきた。」
「あぁ、すま………………」
了承を聞き、さっさと池から出た竜真の全身を見た男が驚愕に固まる。
「…男…なのか?」
「女の子に普通はこんなご立派なのついてないでしょ。」
顔とブツを見比べて固まる男に、竜真は呆れたように苦笑した。
これが師匠、シュミカの3rd、ヨルとの出会いだった。