3.弟子入り希望
リウマのファンが1人増えました。
BLにする気はありませんよ。
「リウマさん」
「…師匠」
「まっ、頑張って」
真っ赤な髪の少年が竜真に弟子にしてくれとヨルの店、夜更けのアリアに訪れていた。
少年の名はフルウルと言い、シュミカで鍛冶屋を営むグラフの息子で今年十四歳になる少年だった。
先週のバムズ孅滅を見ていたフルウルは、それからというもの竜真の後を雛鳥のように付きまとっていて、竜真も辟易していた。
ヨルはその状態をにやけて見ていて、竜真はそんなヨルにイライラを隠さない。
「ガラフさんにもよろしくって言われてるんだろ?」
ヨルに言われて、竜真は一層肩を落とした。
鍛冶屋のガラフには、いつも世話になっていて、フルウルのこともそれなりに可愛がっているので、追っ払うわけにもいかず、竜真は悩んでいたのだ。
「十四歳かぁ。…フルウル、ギルドには登録しているのか?」
「一応、十二歳になった時、父ちゃんと歩き回るために登録しました。レベルEです。」
それだけ聞くと竜真は頷いた。
「……一度だけだ。一度だけなら、お前がいける範囲のクエスト(依頼)に着いていってもいいよ。」
フルウルは飛び上がらんばかりに感激興奮して、竜真の手を掴んだ。
「負けたな。」
ケタケタ笑うヨルが竜真の肩を叩く。
「うるさいよ。師匠。」
「フルウル、ニ日以内にクエストをとってきて。内容は盗賊討伐や商人護衛とかは駄目な。」
ヨルにしっかり肘鉄を食らわせると、フルウルに説明を始めた。
「出来れば、採掘、採取、採集がいい。とってきたクエストに応じて準備をしてもらうから、ここにきてくれ。」
「はい。」
フルウルは一目散にギルドに走っていったのだった。
***
「リウマさん。あんがとよ。」
「なるべく無傷で済むように善処します。」
フルウルはすぐに鉱物採掘クエストをギルドから持ち帰ってきた。
内容は青硝石と言う青く透き通った石を10キロ採掘してくること。
とりあえず、フルウルと一緒にクエストに出ると言うわけで、竜真はガラフの鍛冶屋に挨拶に着ていた。
「フルウル、今から準備して、明日の朝、太陽が出る前に出発したい。正門に3時待ち合わせね。準備としては、鉱物が入る入れ物。携帯食ニ日分、水、武器防具。携帯つるはし、着替え。何をどう持ってくるかも、フルウルにお任せするから、ちゃんと考えて持ってくるんだよ。」
ことなげなく準備する物を言ってのけた竜真にガラフは手強い師匠だと、にやけて息子を見ていた。
「それじゃあね。」
竜真が手を振っても、復唱していたフルウルは呟いていて、竜真とガラフは視線だけで笑い合いっていた。
フルウルの一点集中はガラフと良く似ていると、竜真は口に出さずに店を後にした。
***
「一応、及第点だね。」
フルウルの持ち物をチェックして、必要最低限の物はきちんと確保している。少々、携帯食料のバリエーションが少ないのは仕方ないだろう。
携帯用のつるはしはガラフのものなのか、使い込まれていて、良いものだった。
「で、青硝石を取りに行く場所は決まってるの?」
「はい。父ちゃんに聞いたんですけど、南のアラムナ湖の周辺に良い場所があるらしいです。」
「ん。場所はだいたいわかった。さぁ、行こうか。」
「はい。」
そんなやりとりをしていた夜明け前、今は日が上がって、そろそろ目的地につくかというニ人は、その前に腹ごしらえの休憩を取っていた。
ただ珍しいことに竜真は覆面を外していた。
「フルウル…あまり見ないでくれないか?」
恥じらうように視線を反らす竜真にフルウルは、はっとして俯いた。
「でも、君があまり驚かないで居てくれて、とても嬉しいと思うよ。」
そう言ってた微笑んだ竜真の顔が、街中でも滅多に見られない美少女の可憐な笑みに見えて、フルウルは高鳴る胸に戸惑っていた。
「り…リウマさんが、隠しているのは当然だと思います。漆黒なんて初めて見ました。ボクも驚かなかったわけではないんですが、命の恩人のリウマさんに対して失礼なことはできません。」
なぜ、リウマが覆面を外したのかと言うと、昼前のフルウルが水辺でランクCのモノフと言う水の属性で蛇に似た魔物に襲われ、水に引き込まれたことが原因だった。
モノフを倒したまでは良かったのだが、触手がきつく巻き付いたためにフルウルが泳げなかったので、藻掻きながら動かぬモノフの触手と共に水に沈んでいくフルウルを慌てて竜真は助けたのだった。
助けたのは良いが、覆面が水を吸い、竜真も窒息し損ねた。
しかたなしに覆面を取って、フルウルを見る。
フルウルは意識がないのか動かなかった。
「うわぁ。えっと、脈、呼吸………ヤバい。なんだ、気道確保」
とりあえずの応急措置でなんとか意識を取り戻したフルウルが目を覚ました。
目を開けた瞬間、目の前に居る美少女にフルウルは驚いた。一般的な女性よりは短いが漆黒の濡れた艶めかしい髪。心配そうに見つめる鳶色の瞳。半開きの薄い紅色の唇は柔らかそうだ。その唇と自分の唇の間は僅か10センチ。
「おい。大丈夫か?」
フルウルがあまりに自分を見つめて惚けているので、竜真は眉間にシワを寄せて声をかける。
「はっはい。っつッゲホゲホッ」
慌てて返事したものの、フルウルは咳き込み、水を吐き出した。
「慌てなくていい。モノフは始末した。」
魔物が持つ核と呼ばれるギルドでの判定部位もきっちり回収した。
魔物退治の場合は、コアが無ければ、基本的に依頼完遂判定されない。また、コアを集めてギルドに持っていくことによって、ランクアップと換金がされる。
今回のモノフはランクCのためにフルウルには荷が重すぎると判断し助けたが、竜真は敵が弱ければ手を貸すつもりはなかった。
「リウマさん。ありがとうございました。」
「フルウル、お礼はいらない。ただ、俺の顔のこと内緒な。ヨルしか知らないんだ。」
首をかしげて、唇に指をあてた竜真に見つめられ、フルウルは頷くしかなかった。
***
規程量の青硝石をニ人で分けて持つ。良質の青硝石が割と多い穴場だった。
「フルウル、行こうか。」
「はい。」
「これなら夜までに帰れそうだ。無事に帰ることが冒険者の第1条件だからな。」
竜真に頭を撫でられ、覆面の下の顔をフルウル思い浮かべた。
「本当にありがとうございました。」
「その言葉はガラフの前に立ってからにして…シッ」
瞬時に変わる竜真にフルウルは頷いて、あたりを伺う。
竜真もあたりを伺い緊張感を高める。
「上だ。」
竜真はフルウルの腕をとり、その場から横に飛び退いた。
竜真達の居た場所には青く固い鱗の巨大な生物。
「ど、ドラゴン。」
フルウルの口から小さく驚愕に震えた声がした。
「あぁ、餌場だったのか。」
一方、竜真はあっさりと言い放った。
だが、その直後の行動にフルウルは何もできなかった。
身動きすらさせてもらえなくなった。
「フルウル、行くぞ。叫ぶなよ。」
竜真はフルウルを小脇に抱え、荷物を更に抱え、全力で走りだした。
フルウルは叫ぶどころか、口が開けば舌を噛みそうだと歯を食い縛った。
***
「フルウル、生きてるか?良かったな。好戦的な奴じゃなくて」
呑気な声にフルウルに声をかける竜真にフルウルは1stってスゲーと感動した。ただ、スゲーしか頭に浮かばないほどに混乱もしていた。
フルウルと竜真の身長差は10センチ程。抱え込まれると、フルウルの目の前には地面があり、すれすれをもうスピードで走っていることにドラゴン遭遇以上の恐怖があった。これに加え、装備品や荷物を全て持ち帰ってきた竜真。
フルウルの体重は43キロに10キロの青硝石、さらに互いの荷物。
どう考えても竜真の体重より重いものを持っての逃走に改めて、1stは凄い存在なのだと、ちょっと勘違い気味に感動し、興奮しているフルウル。
フルウルから、何となく妙な興奮を感じて竜真はやらかしたと、うなだれたのだった。
***
その異能に気が付いたのは、ヨルに出会ってしばらくしてからだった。
俺のことは師匠と呼べと竜真に言った男は、とにかくお調子者でイタズラ好きだった。
「ねぇ?師匠、それは新しい遊びですか?」
ヨルのイタズラを受けて、怒り狂う猪に追い掛け回されているヨルを呆れて見ていると、ヨルは助けろと言いながら走り回る。
その時、なんとなく、なんとなくだが、走り回るヨルをひょいっと持ち上げ、後ろに飛びさると、猪は木にぶつかって気絶した。
持ち上げられたヨルは驚いて、持ち上げられたまま固まった。
一方、竜真は自分の行動に驚いて固まった。
因みにヨルと竜真の身長差はニ十センチ、体重差はニ十五キロある。
「――俺スゲー。」
「……リウマスゲー。」
声がして互いに視線が交わると、竜真はそっとヨルを降ろしたのだった。
「なんかここに着てから、俺色々変わったかも…」
「リウマ」
しんみりとした空気が流れる。
「今の内に猪を捌いちゃおうぜ」
「……うん。なんか残念な感じだよ、師匠」
ヨルの能天気な態度に場の空気は一転した。
気絶した猪に止めを刺すと、さっさと捌きだしたヨルはまだ落ち込む竜真をチラッと見た。
「リウマ、異能は剣が巧くなるまで隠しておけ。でなければ、お前はこの世界で生きていけない」
「……ありがとう、師匠」
***
「で、色々ばれたのか」
面白がるヨルをジト目で見る竜真を尊敬の眼差しで見つめるフルウルと妙な三角の図だった。
帰ってきたニ人はギルドでの換金を済ませ、鍛冶屋に帰宅した。
竜真はフルウルと別れて、夜更けのアリアに行く予定だったのだが、フルウルが付いてきてしまったのだった。
「フルウル、美人だったろ?」
「生まれて初めてこんなにも美人な人を見ました。」
「いいなぁ。濡れ濡れなリウマ見たんだ。」
「濡れた黒髪って、エロですね。」
カッと気持ちいい程の音を立て、ニ人の手元にナイフが刺さる。ヨルの手元は若干切れていた。
「そろそろ怒っていいですか?変態オヤジと馬鹿ガキ…」
「怒った時や嘲笑う時は敬語になるよね。」
ヨルはあらぬ方向を向き、初めてナイフ投げを食らったフルウルは凍っていた。
「フルウル、僕の容姿や身体能力については秘密だからね。」
ニ人は覆面の奥に氷の微笑が見えた気がして、壊れたように首を縦に振っていたのだった。
フルウル:14歳・赤毛・鳶色の瞳
150センチ、42キロ
目鼻立ちがくっきりした素敵少年。
あらゆる竜真の魅力に魅せられ中(笑)
普通に女の子が好きですが、竜真の顔を見てしまったがために、つい比べてしまい落ち込んでいる。
ヨルが猪にやらかしたこと。
眠る猪に気配なく近寄り、耳元に息を吹き掛けると言う意味不明な遊びをした。もちろん、猪は怒り狂い追い掛けたが、軽々しく逃げるヨルは猪に更に火に油を注ぐ存在だった。