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1stのリウマ  作者: 真咲静
神様達との接点が出来ました。
22/113

22.ロドの禁呪(3)

まだロドから抜け出せない…

赤の月の日前日、ロドで馬車を借りると、中にクッションになるものを載せ、乗り心地を良くすると、竜真は御者台へ座った。

目的地はピピンとロドの中間地より若干ロドよりの場所。


「はっ」


ロドから覆面の男が飛び出した。



***



「ニャルマー、メノーラ、どうだった?」


集まってきた2人に報告をブロスが求めると、メノーラとニャルマーが次々と口を開いた。


「えぇ。3年程前から触媒が置いてある、おおっぴらに開店していない店で1回につき、少しずつですが、定期的に触媒を買いに来るローブの魔術士がいるそうです。店が中々見つからず、やっと見つけました。」


「これは私には分かりませんが、触媒の名前は紅硝石、蒼硝石、黄硝石、緑硝石。乾燥したバリアルの葉、シギダラの舌、ムリューラの耳、ガダブロの尾です。他にもかなり貴重な品も買っていったようです。」


メモを捲りながら、ニャルマーは困惑顔で聞けば、ブロスも肩を竦めた。


「俺にもわからんな。禁呪はマスタークラス以上の担当だ。まぁ、いい。緋色が帰ってきたら分かるだろ。」


「リウマ様はどちらに行かれたのでしょうか?」


ニャルマーは一緒に行動していたはずのメノーラに尋ねた。


「リウマさんですか?宿の仕度が終わってから姿が見えませんよ。」


「私事は最低だが、仕事に対してはプロ中のプロだ。何か単独行動での対策を行っているのだろ。何せ、奴以外に禁呪に詳しい者がいないのだからなら。」


ふんと、鼻を鳴らして、ブロスが吐けば、ニャルマーがうっとりと讃える。


「リウマ様は本当に素晴らしいお方です。」


「傾倒するのも程々にな。さぁ、ローブの人物の特定を急ぐぞ。」


「はい。」


「は、はい。」


ここまで竜真に傾倒する者を見たことがないブロスは、若干引き気味にニャルマーに忠告すると、

町中を歩きだした。



***




「詰所が騒がしいと思うたら、ブロス殿下がいらっしゃってるのか。」


プラチナブロンドの髪を腰まで流し、ローブだけを羽織った女がけだるげにカウチに寝そべる。


「リリィシュ。」


「なぁ〜に?ラウ」


空間が歪み、舌ったらずな返事と共に1人の少女が出てきた。

黒く長い髪を風もないのになびかせて現れた少女はカウチの上に寝そべる女の足元に座ると、女を見上げた。


「わらわの天敵が現われてのう。このままでは計画通りに赤い月ごとと言うわけにはいかなくなったのよ。」


「ふ〜ん。ラウがご主人様になるの、凄い楽しみなのに…じゃあ、やっちゃおうか?」


女が頭を撫でれば、少女は嬉しそうに目を細める。


「わらわは次の月の為に準備せねばならぬ。未通娘の血を浴び、無垢なる男を無垢なまま堕落させ、死んだ娘の屍を魔物に凌辱させる。美しきわらわは更に美しい存在にならねば世界の損失よ。」


傲慢過ぎる女の嘲笑は少女、リリィシュに心地よく聞こえる。

リリィシュが人間であるにも関わらず、主と慕う女は、人を捨てるため念入りな準備をしてきた。

3年前は失敗したのは当時師弟関係にあったディアータに勘ぐられたことから始まった。

今、ディアータはここにはいないと女はほくそ笑む。


「リリィシュねぇ、ラウの世界を敵に回しても、自分の為だけに動くところが好きよ。」


「リリィシュ、世界はわらわの為にあるのよ。」


「じゃあ、リリィシュはラウの敵を抹殺してきまぁす。」


あくまでも軽いノリの少女は、妖艶な笑みを浮かべた女に満面の笑顔を見せると空間の歪みに身を沈めた。



***



少し時間が遡る。

風吹く丘の上で竜真は待っていた。

馬車の御者台で寝そべり、雲の流れをのんびりと見ていると、知った足音が聞こえてきた。

台から降りて、足音が聞こえた方に歩き出す。


「ミグ。待っていた。この2人が火と風の導士だね?」


ロドにいると思っていた人物が目の前に現れ、ミグは驚いたが立ち止まり、連れてきた2人を紹介した。


「火の導士オリエンと風の導士キュルアだ。冒険者ランクは双方Bだそうだ。彼らは2人で旅をしているらしい。」


「ん。好都合だ。1stのリウマだ。宜しく頼む。」


突如現れた覆面が1stと言う大物だったことに2人は驚いた。

求められた握手にオリエンは興奮し、キュルアは冷静を装いつつも緊張した面持ちで答えた。


「今、かなりの大事件に関わっていてね。君達には手伝いをしてもらいたい。ミグと通信した時より事情がかなり変わって来てる。待ち人をここで待つ間、説明しよう。」


***



「えっと…すると、私達の仕事は賢者様方のお手伝いでよろしいのですか?」


キュルアが確認の意味を含めて問う。


「そうだよ。本当はもっとメインの仕事だったんだけど、導士では太刀打ちできない。それに、魔法の素養のないものを賢者様方のお側には置いておけない。こう言ったことでオリエン、キュルア、宜しくお願いします。ミグも事情が変わり済まない。」


「構わないが………もしかして、待ち人とは賢者様方のことか?」


ミグが引きつって聞いた。途端にオリエンとキュルアが顔を青くして固まった。

それを見て、竜真の口元がニィっと笑う。


「正解。ジャラハラ、降りておいで。」


竜真は簡単に言ったが、地が揺れることなく、それは降りてきた。あまりに巨大であまりに美しく、恐ろしいもの。

ミグもオリエン、キュルアも口を開けて街道を降りてくる恐ろしいものを見て固まっていた。


「ド…ドラゴン」


3人とて旅先で竜と遭遇したことがある。しかし、通常サイズより5倍はある。


「で、でかい」


キュルアとオリエンは腰が抜けて、へたりこんだ。


「僕の使い魔だから気にしないでいいよ。ジャラハラ、ご苦労だったね。この事件が無事に終わったらご飯上げるからね。」


竜真に頭を下げた巨大な竜の頭を撫でてやると竜真は賢者達を下ろすよう命じた。



***



「このような場所でお迎えすることになり、申し訳ありません。」


頭を下げる竜真によいよいとアサムが顔を上げさせる。


「よいよい。火竜王に乗るなど出来ぬ経験じゃ。」


「敵に見つからぬようにするにも、この方が良かったのでしょう。」


ディアータが竜真の意図を汲み取り、微笑んでいると、人型に戻ったジャラハラにフューリが絡んでいた。

風の賢者だけあって、ドラゴンの背中が気に入ったようだ。


「乗り心地が素晴らしかったですわ。ジャラハラ、ありがとうございました。」


「水の賢者よ。腕を離してもらえぬか。」


「リウマ、今度は僕の所に弟子に来てほしいな。これで全員制覇だよ。」


「フューリ様、ジャラハラを離してください。クリシュナ様、次に叡知の塔に向かった時には是非にお願いいたします。」


少し混沌としたやり取りをしているのをミグとオリエン、キュルアが呆然と見ていた。


「1stのリウマは本当に凄い方なんですね。」


「いや、俺もこれほど迄とは思わなかった。」


ミグはここにニャルマーが居たら、大興奮に竜真を大絶賛しているだろうと、つい最近仲間入りした男を思い出し、はぁっとため息をついた。



***



ロドまでもうすぐと言った場所まで来て、突然馬車が止まった。

荷台にいるミグに竜真が声をかけた。


「ミグ、すまない。御者を変わってくれ。行き先、ロドの詰所だ。」


「どうした?」


「町中で戦いの気配がしている。ゆっくり来いよ。敵に賢者様方を気取らせたくない。」


ミグが御者台に来ると竜真が降りた。

その時、ミグの耳元で頼むと聞こえた気がして、竜真が降りた場所を見た時には、竜真はそこに居なかった。




***




「ブロス。メノーラ。」


竜真が駆け付け、敵と対峙していたブロスと敵の間に入り、剣を向ける。


「緋色。クッ…」


剣を杖に立つブロスを確認して、前を向けば、そこには見たことがある人物の面影があった。


「あらぁ?その気配。知ってるぅ。」


「僕ももう少し大きかったけど、君を知っていそうだ。ゼナダでの一夜は楽しかったでしょ?」


竜真の不謹慎に楽しげな声に後ろで聞いていたブロスとメノーラが同時に非難の声を上げる。


「緋色…」

「リウマさん…」


覆面の竜真に覚えがある少女は憤慨した。


「リリィシュの吸淫を封じたでしょ。それにラウの為に集めてきた淫力取っちゃうから、集め直しもできないし、大変だったんだからぁ。」


「いやぁ、何か悪用されそうだったし?名前、リリンじゃなかったの?リリィシュちゃん」


ゼナダで出会った淫魔とまさかここで会うとは、依頼は受けておくものだなと、竜真がのんきにしていると、リリィシュが逆毛立てた猫のように聞いた。


「そういうアナタの名前は何なのよ。」


「知りたければ、僕に着いておいで。」


竜真は町の外に向かって走り始め、リリィシュもそれを追った。

それまでのやり取りを見ていたブロスらも町の外に走りだした。



***


ブロスらが竜真達に追い付いた時、竜真がリリィシュの懐に入り、突き刺していた所だった。


「もぉ、たかだか人間にここまでにやられるなんて、リリィシュ、ラウにいらないって言われちゃうじゃない。」


「たかだか人間…言ってくれるじゃないか。僕はこう見えて、人型との対戦経験が、それこそ人間にしては多めなんだ。ちょっと前もリビエダって言う胎児を食べてたのと戦ったよ。しかも今回は1人じゃない。」


町の外に出るまでにそれなりの接触があったのだろう。

互いの服が所々破けていた。

前回は1人で懲りたが、今回は1stと2ndが居る。

それだけでも竜真の心の中には余裕があった。


「リビエダ…リビエダ…あれ?チムチャックのご主人様がそんな名前だったような…」


「チムチャック…確か戦いの最中にリビエダが喚びだして、食われてた人型がチムチャックだったような…」


ゼナダ以外の共通点があったことに竜真は驚いたが、それは人型の少なさを考えれば、当然かもしれないと戦闘中に気の抜けたことを考えている。


「ご主人様に食べられるなんて、なんて素敵なのぉ。リリィシュもラウに早く食べてもらえるように…ラウの邪魔する奴、やっつけちゃわないと」


身悶えて、戦闘意欲が増したリリィシュが、黒々とした光を両手に纏わせた。


「メノーラ、ブロス、ちょっと下がってないと危ないよ。リビエダは接近戦、チムチャックは遠距離戦…君は何戦が得意かな?」






「さて、リリィシュを倒したことだし、ラウラーラもやっつけちゃおうか。」


戦いの最中のやり取りでラウがラウラーラと分かった竜真がまたも簡単そうに言う。

その竜真の覆面が裂けて、目から下が晒されていた。


「緋色…貴様、女だったのか!」

竜真の顔を初めて見たブロスが天然を発揮した。


「違うから、ボクっ子とか言うジャンルじゃないしぃ〜。れっきとした男。ね?メノーラ。」


そこでメノーラにふるのは竜真の愉快犯ぶりが如実に現われるところだった。


「はい。リウマさんは大変“ご立派”な男性ですわ。」


竜真の意図を汲み取り、ブロスをからかう辺り、メノーラもいい性格である。


「緋色、やはり貴様は殺す。絶対殺す。」


ブロスの雄叫びを軽く流して、竜真はロドに向かって歩いていった。

メノーラは生暖かい眼差しでブロスを見守るのであった。


ニャルマーとブロスはオチ担当です。


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