21.ロドの禁呪(2)
中々進みません。
早く抜け出したい…
「さて、ディアータ様からの助言で新たに調べることができた。」
いきなり出てきた使い魔とその直ぐ後にはディアータとの交信と、周りに度肝を抜かした竜真が、場を切り替えるように会議室にいるメンバーの顔を見回す。
「今回の禁呪と近しい術もあるとのことなので、それを判別するために情報収集をします。」
こんなにえげつない術が複数あるのかと、ブロス以外がどよめく中、竜真が指示を出す。
「ニャルマー、警備隊と遺体の少女達の生年月日を調べろ。他、失踪者の少女達もだ。同じ生年月日の者が居たら報告してくれ。」
「メノーラはニャルマーの補佐をしつつ、警備隊、ギルドとともに、やはり同じ年以下ぐらいの少年が失踪しているかどうかを調べてくれ。条件は無垢なる少年だ。」
ニャルマーとメノーラ、警備隊の隊長、副隊長が頷く。竜真はブロスに視線を移し、辟易とした感情のまま言った。
「さて、ブロス。僕らが1番嫌になる調べ事だよ。遺体の安置所に行こう。冷凍保存の少女達の遺体を調べようか。」
***
詰所の中を歩きながら、先程、誰にも説明しなかった術の説明をする竜真。
「ブロス、ディアータ様は不老不死の呪の他に2つの候補があると言った。人型の魔を使役する召喚術、その陣の中に入った者達を全て魔に変換する術だ。」
ブロスは心底嫌そうな顔をした。正義感の強いブロスは、こうして人を贄にする魔法に人一倍の嫌悪感を抱くのだろう。
「それを皆の前で言わなかったのは…」
「禁呪の知識を広めるわけにはいかないからね。君は前回で禁呪に触れているから話した。」
ブロスはこういうところは相変わらず堅いのだなと洩らす。
「知る必要のないものに、危険すぎる術を教えることは出来ないのは当たり前でしょ?」
何を当たり前のことをと竜真は洩らす。
「普段からその堅い態度で居れば、信用に値すると思えるのだがな。」
「仕事は仕事。私用は私用。真面目と不真面目を使い分けてこそ、大人ってものでしょうに…そんなんだから、アジールに遊ばれちゃうんだ。」
ブロスの兄であるディスキア国王アジール=ディノ=ディスキアは、ブロスをそれこそ可愛がっていた。
ただその可愛がり方がちょっと歪んでいて、ブロスで遊ぶことに生き甲斐を感じている。
アジールの名を出され、一瞬青ざめたブロスを見て、竜真が呟いた。
「アジールも程々にしないと弟に逃げ切られちゃうぞ。」
***
「ん〜…厄介だね。禁呪の3種混合かぁ。逆予防接種だな。これじゃあ、導士が4人じゃあ防ぎきれない。」
報告の結果、殺された少女の他、消えている少女のうち3人の生年月日が一緒な上、10歳程の少年が8人行方不明。
遺体の方も暴行の後が見られ、竜真は頭を抱えた。
「緋色…」
「ディアータ様に報告してくる。」
竜真が頭を抱えた所など、見たことも聞いたことも食べたこともない一行は、竜真が退室した後、複雑な表情をしていた。
竜真が洩らした禁呪の3種混合という恐ろしげな発言に魔術士ギルドに登録しているブロスは特に顔を引きつらせた。
***
ディアータは竜真からの報告を聞いて頭を同じく抱えていた。
《犯人は魔王にでもなるつもりでしょうか。使役と変化と不老不死の混合なんて荒技過ぎます。僕の考えていた方法では対処できないですよ。》
ディアータが受け継いだ賢者のオーブには様々な禁呪があったが、禁呪を混合させるやり方はなかった。
禁呪自体はマスタークラス以上の実力がなければ、本来なら防げない。
しかし、マスタークラスがそこらを歩いているのは稀だったりするので、竜真は四元素の導士を使い、対抗しようとしたのだ。
「確かに導士では無理ですね。…マスターでもどうかと…賢者がすぐにでもそちらに行けると良いのですが…」
《…ディアータ様、高いところ平気ですか?》
「何やら考えがあるのですか?」
《ジャラハラに乗れば4人なら簡単に…巨大な竜ですので、かなり目につきますが彼に任せれば大丈夫でしょう。》
竜真の声を発しているジャラハラを見つつ、ディアータは絶句した。高齢になった自分が竜に乗って移動すると言う。
《…賢者様方に来ていただくのは、あまり考えたくない手だったのですが、ジャラハラを控えさせていた“最悪のもしも”のようです。》
「そうですねぇ。私とアサムが竜に乗っても大丈夫でしょうか?」
《ジャラハラは火竜王。アサム様なら嬉々として乗られるかと…乗せろと騒いでいたので…ジャラなら、風圧も気温差も感じさせない技量を持っていますよ。》
「…そうですか。」
嬉々とはしゃぐアサムを思い描き、しょうがない同僚に苦笑した。ジャラハラに対する他3名の興味津々な発言で、ジャラハラに乗ると言えばついてきそうだと苦笑いが続く。
《何か用意するものがありましたら、こちらで用意しますが…》
「今から賢者の会を開きます。準備はこちらで出来るだけします。必要なものがあれば、お願いするかもしれません。」
「陣を敷き始めたと言うことは、魔術の発動が開始されたと言う事。きちんと止めなければ、歪みが生じます。歪みはやがて災いとなってロドに降り掛かるでしょう。」
《僕らが魔術が完全になる前に来たのは幸いでした。》
「えぇ。反則だらけのリウマさん。ジャラハラも反則ですが、火のマスターだけでなく、実は4つの元素全てにおいてマスタークラスだとか、しかも1stで…私も長いこと生きてきましたが、希有な存在です。あなたに野望がなくて、本当に良かった。」
《風来坊が1番気楽ですよ。だから、どのギルドに所属しても、役職にはつかないのですよ。野望があるとすれば、時々美味しいご飯が食べれて、時々美人さん相手に遊べれば文句なしです。》
「男性としての平凡な夢を語るには、実力がありすぎるのが無欲に見えるのでしょうね。四元素のリウマ、弟子のあなたのために我ら四賢者は必ず行きますからね。次の赤い月の前に…」
《ありがとうございます。》
「そうそう。犯人は必ず触媒鉱石を大量に買い占めていると思われます。これだけの術を触媒なしにできるわけありませんから。」
《失念してました。触媒…確かに触媒は必要ですね。自分にあまり必要ないものだと忘れがちになってしまいまして…ご教授ありがとうございました。》
「それではロドでお会いしましょう。」
《お待ちしております。》
口を閉ざして魔導書の片付けに戻ったジャラハラを見ながら、他の賢者に通じる通信玉に手をやり、通信玉を見る。
「お聞きの通りです。」
《さて、何を支度するかの?》
《我ら禁呪の防護は中々行うことはないのでお教え願えますか?
《火竜王に乗れるなんて、好奇心を刺激しますね。》
***
「ブロス、君に頼みたい。次の少女の遺体が見つけるより先に犯人を特定したい。ニャルマー共に触媒鉱石の流れを調べてほしい。」
「そうか、そうだな。触媒なしにこれだけの術を組むのは難しい。わかった。警備隊とともに調べよう。」
ハッとして、ブロスは竜真の覆面の中の表情を見るように見つめて頷いた。
「よろしく頼む。メノーラは僕と宿に行くよ。」
「何故メノーラを連れていく…」
顔をしかめて、自分の好きな人物を連れ立って行こうとする竜真を止めた。
返ってきた答えは、竜真が面白がって笑いながらで、だが、ブロスが目を見張るものだった。
「お客様をもてなすのに、女性の感性は必要事項でしょ?なんせロドには二度とない行幸だ。」
「まさか」
行幸の一言で、ブロスは息を呑んだ。
「正解。四元賢者様方が乗り出される。つまり、ロドに賢者様方が来るのさ。」
賢者が現場に出てくる自体はそうそうない。
しかも4人が揃ってなど聞いたことがない。
竜真が次代賢者と名高いマスタークラスと言えど、4人全員を呼ぶパイプがあることにブロスは驚いたのだった。
「君を含めて集まる4人の導士は四元賢者の手足になってもらうつもりだから、早めに情報収集をよろしく頼む。」
一導士でしかない自分が賢者の手足になれることに、魔術士として、これ以上ない喜びを感じてブロスはニャルマーを促す。
「わかった。ニャルマー殿、行きましょう。」
なにやら力強く息まいて、ブロスはニャルマーを伴い部屋から出ていった。
「それから隊長さん、副隊長さんは賢者様方の訪れを内密にお願いします。」
とりあえず、隊長と副隊長に釘をさすと、竜真はメノーラを連れ立って、会議室から出た。
残された2人は顔を見合わせ、片田舎で想像以上の大事件が起きている時に、1stが、竜真が来たことを喜んでいた。
ディアータ様、何爆弾置いてるんですかぁ〜!と叫びたくなりました。
反則のリウマさんだって………………………どんな風呂敷広げるですか。
はい。
ピジョンブラッドな魔力玉以外にも属性色を出せるのですよ。
あえて人前では火属性しか出していないチートぶりをディアータ様暴露…
いやんです。