20.ロドの禁呪(1)
シリアスです。
残虐な表現があります。
ご注意ください。
「緋色、どう思う?」
ロドのギルドにて、1stの2人が数字持ち専用の依頼書ファイルを覗いている。
数字持ち自体の人数が少ないので、数字持ちはギルドに立ち寄ると、請ける請けないはともかく、必ず依頼書ファイルを見るように義務化されていた。
「そうだねぇ。ゼナダで淫魔狩りしたから、今、懐は暖かいんだよね。ブロスが受けたら?」
ブロスの持つ依頼書を確認せずに返事をする竜真にブロスが声を大きくする。
「そうではない。この事件をどう思うかだ!」
「え〜と“ロド警備隊と魔術士ギルドゼナダ支部の依頼”か…“女3人の惨殺体が発見された、いずれも乳房、子宮が抜かれ、髪を切られて、ロドのいたる場所に捨てられていた。”…“有資格は3rd以上もしくは魔術士ギルドマスター以上”」
依頼書を読み上げる竜真の声がだんだんと堅くなる。
かなり大きな事件性のある依頼書に竜真は先程までのだらけた雰囲気を捨て去り、臨戦態勢に入った。
ミグはそれを見て、珍しいと目を見張り、ニャルマーは何事かとミグを見る。
ブロスは頷き、メノーラはブロスを見る。
「………禁呪だな。…ブロス、禁呪の知識はあるか?」
「いや、俺は導士だからな。禁呪は詳しくない。あの時の状況で少し学んだぐらいだ。」
禁呪とは強大な力を持つ呪文が多く、尚且つ他人の命と引き替えにする倫理的に外れた魔術で、基本的には土のマスター以上が詳しいのだが、マスタークラスに上がると同時に講習を受けるため、どのマスターでも一応対応が可能なのだ。
依頼はミグ、ニャルマーと受けるが、更に手が欲しいと判断した竜真がブロスに頼む。
「火のマスターとして、君に協力要請したい。水の導士ブロス、僕の補佐にまわってくれ。」
「わかった。」
ここに1stの共闘が決まった。
冒険者ギルドでは並び立つ2人だが、魔術士ギルドではマスターである竜真といち導士でしかないブロスの間には越えられない壁がある。特に竜真は現ギルド長である火の賢者アサムの次代賢者とされていた。
竜真は受けると決めた瞬間から決めていた指示を混合チームに出すのだった。
「ギルドに請ける手続きをしたら、ミグ。今から書く手紙をゼナダ支部に持っていって欲しい。後、ミグは通信玉を1個置いていってくれ。」
「メノーラ、ブロスと僕、ニャルマーは警備隊詰所に移動。僕とブロスは遺体の置場を確認に行く。メノーラはでロドの町の地図に遺体の置場を印付けて、情報収集。」
「ニャルマーは…資格がないんだよな。僕とブロスでギルドに掛け合ってやるから、多分受けれるとして…一応僕についてきてくれ。多分それが1番危険で安全だ。」
竜真とブロスは1st、メノーラは2nd、ミグは3rd、そしてランクDのニャルマーはロドの禁呪事件に挑むのであった。
***
ロドの警備隊詰所で、その隊長と依頼について、話を交わす。隊長は1stが2人もいることに驚き、全面的に竜真らに協力することを約束した。
警備隊の隊長、副隊長、竜真らが会議室の机を囲む。
「とりあえず3ヶ所見てきたが、意外に往来が多い場所もあった。メノーラが書き入れた地図を見ると弧を描いている…はい、ニャルマー。これで気が付く事は?」
「えっと等間隔に弧を描くと言うことは、円になるということでしょうか?」
ニャルマーの答えに満足したのが、竜真の声が楽しげに弾む。
「多分、正解。メノーラ、警備隊やギルドで聞いた情報は?」
「死亡した女性達は年齢が15歳前後で半年前から随時行方不明になった少女です。ロドだけではなく、この現場の少女はピピンで行方不明になっています。ロド警備隊では行方不明者が他に居ないか探しています。冒険者ギルドでも少女探しの依頼を優先的に冒険者達にクエストとして配布しております。周辺冒険者ギルドにも協力要請しておきましょうか?」
「…多分、これが円になると考えると後5人は最低でも行方不明者が居そうだ。因みに発見された間隔は?」
「1ヶ月に1度、赤い月の日だそうです。次は10日後になります。」
次々と質問を飛ばしていく竜真に答えるメノーラ、そのやりとりを隊長と副隊長、それからニャルマーはボーっと見ている中、竜真は難しい顔をしていたブロスを見る。
「ブロス…僕と君が出会った事件覚えてるよね?ディスキアでの連続少女失踪事件。ディアータ様のお供で3rdだった時だったかなぁ?軽く3年前。」
身の毛もよだつ程の、一言で言えば、いやらしい事件だった。
「犯人を取り逃がしたからな。ディアータ様の弟子で土のマスターだった女だ。確か不老不死が目的で、少女達の一部を食っていた奴だ。ディスキア内で直ぐに検問を敷いたが逃げ切られた。」
当時ディスキアの花と呼ばれていた絶世の美女が起こした残虐でおぞましい事件。
「元土のマスター、ラウラーラ=ブリグスタ」
「ディスキアの有力貴族、現ブリグスタ公爵の妹だ。プラチナブロンドを血塗れにした姿は未だに忘れられない。俺は当時2ndとしてディスキア内を出歩いていたが、あいつを追って国を出た。メノーラ。どうやら国に帰れそうだ。」
ラウラーラを捕まえるまでは国へは帰らない。そう宣言して出てきたブロスはメノーラに笑みを見せる。
「ラウラーラの可能性…やはりディアータ様と連絡を取る必要があるな。…全く、1つの街ごとに支部があればいいのに…賢者との通信は支部でしか取れない。次に動けるのはミグとの通信が取れ次第だが…とりあえず、これが円になるなら、ポイントごとに1度見ておく必要があるな。警備隊に見張りも頼んでおくか…」
竜真は翌々日にミグから通信が来るまで、情報収集に勤しんだ。
***
翌々日、20件以上に及ぶ少女の失踪事件に、近場の人買いの摘発、たかだか3日だが数字持ちが3人も居ることが影響して、かなりの活躍だったのだが、さほど情報は集まってきていない。
詰所に集まって情報整理をしているところにミグからの通信が入った。
《リウマ、何がわかったか?》
「収穫は良くないな。ミグ、ディアータ様へ連絡取れたか?」
《ディアータ様は今、賢者の会合に出ていられるらしい。》
賢者の会合とは、火、土、風、水の最高位である4賢者が魔術士ギルドの総本部、叡知の塔にて集まることである。
賢者の会合中にたかだか1支部の通信は通らない可能性が高い。
「ミグ、ゼナダのギルド長に手紙を渡したな?導士を2人程借りて来てくれ。火と風が居るといいんだが…ミグは大地でブロスが水…4大元素の同じレベルでなければならない。宜しく頼む。」
《分かった。全速力でそちらに戻る。》
ミグとの通信を切った竜真に視線が集まる。
「あまり裏技過ぎて使いたくなかったんだけど…『我の影、我の僕、赤き血潮で結ばれし我が手足、火竜ジャラハラ、我が内より召喚』」
魔と呼ばれる中で、竜はかなり特別か存在だった。
最近では魔物と竜は別なる存在ではないかと魔術士ギルドでは見解を改めている。
竜の中でも特に4元素に沿った竜を竜王と呼ぶ。火竜ジャラハラは竜の中で火の王と位置付けられる超が付くほどの大物である。
呪文を唱えた竜真の前に現れたのは、竜真の装備している小手と同色の髪をしたミグ並みの長身の男で、金を帯びた縦長の瞳孔が人との異質さを醸し出す。
端正な美貌で竜真を慕っていることが全面でた笑みを浮かべて膝間付いた。
「ジャラ、アサム様は覚えてるな?今からアサム様の所に行き、僕と賢者様方の目と口となってくれ。」
「かしこまりました。我が麗しの主よ。」
瞬時、ジャラハラが消えると、あまりのことに驚いた一同は何も言えなかった。
「次の赤い月の日までに間に合えばいいが…」
そんな中、何を気にするでもない竜真はポツリと呟いた。
***
叡知の塔の最上階に4人の人影があった。
長く白い顎髭を蓄えた赤いローブの老人。
穏やかな雰囲気を身に纏うプラチナの髪の白いローブの中年女性。
ブロンドの緩やかな流れを持つ髪を独特に結い上げた黄色のローブを着た老女。
この中では一番若い40代の淡い水色の髪の蒼いローブの男。
火のアサム、風のフューリ、土のディアータ、そして水のクリシュナである。
歓談の最中、叡知の塔に魔術の気配がして4人が臨戦態勢に入るが、アサムがその気配に覚えありと、他の3人を宥めた。
「おや、我が麗しの弟子が用事の様じゃ。使い魔を飛ばしてきおったわ。」
火の賢者アサムが長く伸びた白い顎髭を梳きながら、50センチ程の竜体に小さく姿を変えたジャラハラを呼び寄せた。
「火竜ですか…火のマスターリウマは高位の魔の使役まで行えるのですね。」
おっとりと風のフューリが言えば、アサムがかんらかんらと笑う。
「出したら餌を与えないといけないからと、普段は面倒くさがって中々見せてくれないのじゃよ。しかし、あの面倒くさがりが魔を寄越す程の事があるとはな。ジャラハラよ。リウマと繋ぎなさい。」
アサムが促すと、ジャラハラは人型をとる。
無表情のジャラハラの口から竜真の涼やかながら、艶っぽい声が聞こえてきた。
《賢者様方、お久しぶりです。》
「つれない弟子よ。たまには顔を見せに来なさい。」
《アサム様、面白い発見があったので、今度お知らせに行く予定でしたよ。ところで、そこにディアータ様はいらっしゃいますか?》
「おるぞ。」
「久しぶりです。リウマ。」
ジャラハラが優雅に一礼してみせると、また無表情に話しだす。
《ディアータ様、ご無沙汰しております。禁呪の事件が発生しました。お知恵を拝借させてください。》
歴代の賢者は賢者のオーブと呼ばれる水晶に記憶を残している。中でも土の賢者のオーブには他の賢者のオーブより禁呪の知識が詰め込まれていた。
歴代の土の賢者はまたの名を禁呪の監視者と言う。
「禁呪?どのようなものですか?」
《町の中で円を描くように、少女の遺体が破棄されており、その遺体には乳房と子宮がこざいません。蒼騎士ブロスとともに現在、状況を把握に奔走しております。対策として4大元素の導士に結界を張らせる予定です。本来ならばマスターが4名揃えば効力としては有効なのですが…次の遺体の遺棄は恐らく5日後、赤い月の日です。場所はリユカ帝国、ロド。既に3名が殺されていて、最低でも後5名が被害にあう可能性があります。私、ブロスともにある特定人物を犯人だと想定しています。》
ジャラハラの口から語られる残虐な手口に他の賢者達の表情が険しくなる。
ディアータの表情は失望、絶望、諦め等を宿していた。
「ラウラーラ…ですか?」
《そうです。しかし、想定しているだけであり、確実ではないのです。一昨日から関わっていますが、情報がまだ少なく…少女の失踪情報等鋭意捜査中です。》
「わかりました。…町の形、それから陣の張り方等をこちらに伝えられますか?」
《ジャラハラを通じて可能です。》
「少女達は乳房と子宮を切り取られていたと…確かにラウラーラのしていたことと類似しています。ですが、他にそういった類のものが使われる禁呪もあります。人型の魔を使役する召喚、その陣の中に入った者達を全て魔に変換する。勿論、不老不死の秘術…他に情報が欲しいですね。不老不死なら同い年、同じ日に生まれた無垢な少女達を、魔の使役なら、同じ数の無垢な少年も居なくなっているはずです。魔への変換ならば、少女達の遺体の損傷に秘部への裂傷、つまり暴行された後が残っています。次の手掛かりを見つけたら、教えてください。」
《ご教授ありがとうございました。ディアータ様には申し訳ありませんが、ジャラハラを常に通信出来るようにお側に置いてもらえますか?》
「いいですよ。」
《ジャラハラ、ディアータ様にしばらくお仕えしなさい。次の命令を待て。…それではディアータ様、次の報告まで》
「土の、羨ましいのぉ。ジャラハラに竜の生態について教わりたいのだが」
「それならわたくしもです。」
「私だって」
アサムを筆頭にジャラハラに詰め寄る3賢者をディアータは困ったものですねと呟くのだった。
4賢者が登場です。
ついでに使い魔君も…
使い魔君の餌、気になりますねぇ(笑)