2.ランク1st
初の戦闘シーンです。
さらっと行きます。
「バムズの群れが来るぞ」
シュミカで休暇状態の竜真がヨルの店で遅い昼御飯を食べていた時だった。
アリアはシュミカの入り口にあるため、慌て焦る大声が良く聞こえる。
バムズとは、Dランクの依頼書に良く出てくる魔物で、八枚の羽の生えた緑色で五メートル程の幼虫だった。
羽化するとバルマズと言う、一体でBランクの蝶のような魔物に変態する。
バムズは一体ならDランクだがそれ以上になると多いだけランクが上がった。
冒険者には魔物に村や街が襲われる時、問答無用で武器を取らなければならない義務があり、せっかくありつけた昼ご飯を前に竜真はため息と共に剣を取り、店を飛び出した。
「群れの規模は?」
馬車の御者台で叫んでいた男に竜真は尋ねた。
「バルマズとの混合だから繁殖期の餌狩りだ。五十体規模だった。護衛に雇った冒険者達が戦っている。この先の街道沿い五百メートルの場所だ」
「あんたはギルドに行って、緋色のリウマが行ったと伝えてくれ」
叫んでいた男は竜真の伝言に頷き、御者台から降りてギルドへと走っていく。それを見てから竜真は戦闘をしている場所に駆け出したのだった。
***
「ミック、ハユルドさんは逃げ切れたかなぁ」
「ついでに街に知らせていてくれると生存率は上がるんだけどっと」
赤毛の女は鋼色の髪の男に叫んだ。
鋼色の髪の男ミックは大剣を振り回し、バムズを切った。
「アナ、セザム、カザイン、戦線を五十メートル下げるぞ」
ミックが叫ぶと、仲間の三人は頷きあい、バムズの攻撃を避けながら駆け出した。
「あっ!」
アナが小石に躓き、転んだ。
「アナ!」
アナの後ろにバムズが触手を出して迫っている。
ミックが反転して、アナの近くに戻ろうとしたその時だった。
紅い風がその触手を細切れにし、バムズを三枚におろしていた。
「まだ、死人は出てない?」
アナを越して、バムズに対峙した覆面の男の問いにアナは首を立てに振って答えた。
「このぐらいなら僕一人で十分なので、シュミカで雇い主さんと合流して下さい」
覆面の男はその言葉を言う間に簡単に十匹のバムズを切り捨てる。
「近くにいられると切り捨てそうだから、なるべく遠くにいてね」
まるで今からボール遊びするからと言うような気軽な口調でそう言った覆面の男は、バムズの群れの真ん中に突っ込んだ。
それを見たミックが呆然としたままのアナの側により、アナを立たせた。
その間もバムズの中心でバムズの巨体が千切れて飛び散り吹き飛ぶ。
いつの間にかアナとミックの側にセザムとカザインも寄ってきていた。
「忠告に従った方が良さそうだね」
おっとりとした物言いが特徴のセザムが皆に提案すると、その光景に圧倒された3人はそれぞれに頷いたのだった。
***
商人のハユルドはシュミカの入り口で、シュミカのギルドマスターと一緒に、バムズが現れた方角を眺めていた。
ハユルドがギルドでバムズ発生を伝えると、中にいた冒険者達が騒めいたが、すぐにギルドマスターが現れたことにより、騒ぎはやや終息した。
「緋色のリウマが行ったのですね」
マスターはハユルドにあっさりと、それはもう安心だと言う笑みを浮かべて、入り口で待ちましょうかと告げた。
***
「ハユルドさん。無事でしたか」
ミックの声にハユルドは駆け寄った。
ミック達のパーティは疲労からか、ゆっくりめに近寄ってきた。
「無事で良かった」
善人な依頼人であるハユルドは護衛を務めるミック達に対して丁寧な対応でいたために、ミック達からの信頼も厚い。
「君達のおかげで商品も無事だったよ。ありがとう」
ミックとハユルドが握手を交わしていると、ミックにギルドマスターが話し掛けた。
「シュミカのギルドマスターのハアンです。バムズを食い止めてくれて、ありがとう。」
「お礼は私達ではなく、今戦っている覆面の男性に言って下さい。私達では食い止められませんでした」
悔しそうに、でも強い者への憧れに似た視線にハアンは苦笑して、罪作りな人だと笑った。
「ですが、あなた方が時間を稼いでくれなければ、ここまで群れがたどり着いたかも知れません。ありがとうございました」
再度、礼を言われるとミック達はくすぐったそうに笑った。
それを見て、ハアンは語り掛けた。
「彼は強かったでしょう。是非、彼を目指して頑張ってくださいね。彼は冒険者ならば一度は憧れる1stですから。」
1stと目を見張ったミック達が絶句したのを悪戯が成功した少年のような笑みを口元に浮かべて、ギルドマスターのハアンは、どちらで待つべきでしょうかと、夜更けのアリアを見つめた。
***
「師匠、ただいま」
竜真はバムズを掃討し、身体中についた粘液を自分の家で綺麗に落とし、着替えてから、夜更けのアリアに向かった。
「おかえり」
「服一式ダメにしたよ」
「そこは普通なら、装備一式って言うんだぞ」
剣一本だけを持って飛び出した竜真は帰ってくる時も剣を一本だけ持って戻ってきた。
「粘液塗れになると、防具の手入れが面倒でしょ。バムズ一万体とかならちょっと考えるけど」
五十匹は敵にならない。それだけの実力が1stにはあったが、そんなことは当たり前なヨルはツッコミを入れることなく笑っていた。
「洗い流してから来たの正解。直帰したら店に入れないところだった」
「だから、ご飯くれる?」
「その‘だから’の使い方はどうかと思うぞ」
「ふふっ……あっすいませんね。お2人の掛け合い漫才はいつ見ても面白いものなので」
笑い声か聞こえて、ヨルと竜真は笑い声と言い訳をした壮年の男を見た。
「ハアンさんが待っていたのを忘れていた。リウマ、ハアンさんが用だとよ」
ヨルが竜真に告げると、ハアンが奥の席から竜真に寄ってきた。
その口元はいつまでも少年の心を忘れていない男の笑みを浮かべているが、目元には息子程の年齢しかない竜真への年長者からの生暖かな眼差しだった。
「リウマが居てくれて、助かりました。ギルドを代表して感謝します」
「気にしないで下さい。僕的には、今街中にいる冒険者に戦ってもらいたかったんですから」
「ただ、リウマの業がちょいと派手で、バムズなら半径十メートル内は一瞬で掃討するから、他の冒険者がいると危ないし、ギルド規約上、最も強い1stが今回の件を無視もできない。面倒臭い奴だね。」
「ですから、冒険者達にはギルドの屋上で、リウマさんの動きをちゃんと観察するように言っておきましたよ。見学も勉強ですね。ただ今回は最も強くてAがおニ人しかいませんでしたが、その方々を含めても、残像すら見えなかったそうですよ。」
1stの戦いぶりなんて、滅多に見れるものではない。
まだ数字持ちになっていない冒険者達には、かなり強い刺激になったみたいだったが、1stの実力に誰しもが呻くしかできなかったことについては、彼らに数字持ちに上がれる期待をかけてはいけないなと、ハアンは微笑む顔の裏で、人材の不足を嘆いていた。
憮然としている竜真を面白がるヨルにハアンが笑いながら付け足した一言で、ヨルが爆笑して、竜真は空腹と脱力感でガックリとうなだれたのだった。
ハアンさんは50歳程の方で、2ndです。
当初、アハンさんでしたが、書いているうちに微妙な気分になり、ハアンになりました。
ヨルはかるーく命懸けで竜真をからかってます。
そんな2人の漫才はファンが多く、竜真が居る時には客が増えます。
常連客はそーっと吹き出さないように見守ってます。