19.蒼騎士ブロス
もう1人の1st登場
―えぇっと…1stが2人も揃ってます。何が起こるのでしょうか?
ニャルマーは緋色のリウマ、蒼騎士のブロスの間に挟まれて右往左往していた。
***
ピピンの街から2日、次のロドの町が見えてきたところで、竜真が足を止めた。
「よし、この町は迂回しよう。いや、街道を外れて夜営しながら先に進むか…」
竜真が前を向いたまま、後ろ向きな発言を呟いた。
ミグとニャルマーは滅多に見ない竜真の後ろ向きな姿勢に竜真を覗き込む。
「り…」
名前を呼ぼうとした瞬間、ニャルマーの口は竜真によって塞がれた。
「黙れ、僕を呼ぶな。」
切り付けるような厳しい小声で竜真はニャルマーを叱咤した。
ニャルマーの口をふさいだまま、そぉっと、そぉっと、気配を消して後退していく。
「リウマ…」
ミグがうっかり名前を呟いた。
その瞬間、ロドの入り口に入ろうとした男が振り向いた。
「げ!」
「緋色のリウマ!今日こそは私と勝負しろ!」
その大きな声は3人のところにまで充分に届いた。
「「あれは…」」
ミグとニャルマーの声が被る。
大多数の冒険者にとって憧れの地位にいる男の1人、蒼騎士のブロス=ディスキア。
ディスキアの王弟にして、1stの称号を持つブロスは竜真が苦手な人物の1人だ。
「ほら見つかった!あぁ、面倒くさい。それにしても、なんつー地獄耳なんだ。」
がっくりと肩を落とす竜真にミグとニャルマーは不思議そうにその場に佇。
「あの馬鹿ブロスは、目が合う度に僕に勝負を挑んでくるんだ。」
蒼騎士ブロスを馬鹿呼ばわり出来るのは、この世界で竜真とブロスの兄であるディスキア王、それと侍女から冒険者に身を落とす羽目になった、ブロスの相方である2ndのメノーラだけだ。
「ブロス、メノーラはどうしたんだ。お目付け役なしに出歩くんじゃない!」
口を塞がれたニャルマーを挟んで、2人しかいない1stが並び立つ。
知る人ぞ知る、豪華な顔合わせなのだが、1人は猛り、1人は心底嫌そうな顔をしている。
ニャルマーはハラハラと動向を見守っていた。一方、ミグはただ成り行きを見守る。
「メノーラは先に町に入った。今日こそは勝負しろ。」
「いーやーだ!面倒くさい。」
「緋色!男同士の真剣勝負を面倒くさいで終わらせるな。」
「何が真剣勝負だ。男同士の真剣勝負程下らなく面倒くさいものはない!」
「真剣勝負を馬鹿にするのか!」
「金にもならんことに命をかけたかない!冒険者が騎士道精神の奴だけしかいないと思うなよ。ってこんな会話を合う度にしてることこそ不毛だ。馬鹿たれがお前の都合だけで勝負出来るか!僕は今、目的を持って旅をしている。いらんことで怪我をするなんて、それこそ馬鹿げたことだ。」
そこまで休みなしにブロスに向かって叩き斬るように言うと、ニャルマーの口を未だ塞いだままロドに向かい歩きだす。
不自然な姿勢のままニャルマーは暴れることも出来ず、着いていき、ミグも終わったのかと歩きだす。
ブロスは竜真に言われたことをじっくり噛み締めると、歩きだした竜真に言った。
「パーティーを組んだようだな。ならば勝負はお預けだ。仲間が居る奴を斬るわけにはいかん。」
真剣勝負についての議論からズレた回答に竜真はミグとニャルマーが居なかったら問答無用で勝負になり、ロドが焦土になりかねなかったと、内心、お預け発言をしたブロスに安堵した。
***
宿の入り口に着くと、蜂蜜色の髪を緩くみつあみにした女性が立っていた。
「なんてこと!」
竜真達の後ろから歩いてきたブロスを見て、メノーラは逆毛を立てた猫のようになった。
「リウマさん、申し訳ありませんでした。いつもの如く大変ご迷惑をおかけしました。」
「いや、僕がパーティーを組んだから戦わないってさ。メノーラもいつまでも騎士道な王子様の保護者は大変だね。」
ブロスが蒼騎士と呼ばれ、1stにまで成れたのには、紛れもなくメノーラの優秀な補佐があったからだ。
「そんなことございませんわ。ブロス様もかなり庶民的になられましたわ。」
笑っていない目でブロスを睨んだまま、にこやかに笑うメノーラにミグとニャルマーはうわぁぁと、心の中で呟いた。
「メノーラは相変わらず素敵だね。今夜一緒にどう?」
「あら、また私を誘って下さるのですか?ふふ、リウマさんでしたら喜んで」
メノーラの手を取り、さり気なくエスコートして宿に入っていく竜真。メノーラと竜真から無視をくらい、尚且つ何年も一緒に居る想い人であるメノーラをいとも簡単に攫っていく竜真に対してブロスが吠えた。
「いつか必ず殺してやるぅ〜」
「「ブロス様、宿に入りましょうか。」」
わななくブロスを生暖かい目で見ながら、ミグとニャルマーは両側からブロスを抱えて宿に入って行った。
2人は脳裏で竜真はブロスを面倒くさがりながらも、徹底的にブロス‘で’遊んでいるのだなと思ったのだった。
酷い扱いのブロスさん登場(笑)
ブロスはメノーラが好き
メノーラはブロスが自分を好きだと知っているが、放置プレイ(笑)
竜真はそんなブロスをいじるのが好き(笑)
歪んだ三角関係です。