18.鬼畜な捕縛者
今回、微妙に残酷なので注意。
でも書いてて楽しかった…
竜真の出で立ちは、基本的に深紅に身を包んでいる。
緋色のリウマの二つ名に、竜真が面白がって赤系統の色に身を包んでいるからだ。
背中にはバックパックを背負い、左の腰には緋色の剣を、右の腰には5メートル程の鞭を巻き付けて持っていた。
今はリユカ帝国の南部に居ることも手伝い、外蔭は着ていない。
頭は覆面に包まれて見えていないが、額には額当てが付けられていて頭の防御率をあげている。
「残念。僕の防具はこの素材以上の物質じゃないと、傷つかないよ。」
左腕の小手で山賊の剣を受けとめて、剣で胴をなぎ払うと、逃げ出した最後の1人を鞭で捕まえる。
男は恐怖に顔を強ばらせ、徐々に引き寄せられるのを必死で抵抗していた。
「全く、僕が討伐クエストを受けてる時に来なよね。ただ働きは嫌いなんだ。しかも激ダサな真っ赤な服着たリウマさんがいるってどう言うこと?本人相手に脅すなよ。しかも怪力なところだけとって変装するから、身長2メートルとか…あぁ、完成度が低すぎる。情けない。」
「ひぃ」
引き寄せていた男の髪を掴み、顔を無理やり上に向かせる。
「襲撃に加わったので、お前等全員なの?」
「い…いや…」
「後何人?どこにいるの?」
「こ…こ…この、や、山の裏側の中腹にある廃砦だ。頼む。助けて。」
悪鬼のように山賊の仲間達を切り捨てていた男に捕まえられ、覆面越しに合う何ら感情がない目が山賊の男を見ている。
淡々と行われる尋問は、山賊の男に恐怖を与えていた。
「まだ、後何人居るの?」
「5、50人だ。」
「ありがとう。」
顔を蒼白にしながら答えた男を手刀で気絶させると、竜真はピピンの街に戻ることに決めると、同行人達に手を振る。
「リウマ様、お強いです。」
2人が近づいてきた。
ニャルマーが感激しながらも、竜真に水筒を手渡す。
「ミグ、ニャルマー。ピピンの街に戻るぞ。貼ってあった山賊ベラビ団討伐クエストを受ける。」
付き合いがニャルマーより長いミグは偽物とただ働きが気に食わないという竜真らしい理由がわかり、豪快に笑いだした。
「今回の偽物は出来が悪かったな。」
なんせ、本人とは似ても似つかぬ大男。しかも顔を隠すことすらしていない。あまりの出来の悪さに出会い頭に切り捨ててしまった。
「僕を腹立たせたこと、しばいてわからせる。」
「分かる頃には皆死んでるだろ。」
「まさか。残りの50人は生け捕りにしてやる。」
「50人を生け捕りですか?」
竜真の発言にニャルマーが驚いた。山賊討伐クエストとなる大抵は切り捨てることになり、捕縛するのは警羅隊等も一緒で山賊達に対しての人数が勝る場合が大抵だ。
「あぁ、剣の錆にする事さえ腹立たしい。」
気絶した男をひょいっと担ぎ上げると竜真はさっさと街に向かって歩きだした。
「ミグ様、50人を3人で捕縛するのでしょうか?」
不安そうに見つめられ、ミグは朗らかな笑みで答えた。
「まさか、50対1で捕縛するのさ。」
「は?」
答えるとミグも竜真の後を追った。
ニャルマーは1人、茫然と2人の後ろ姿を見たのだった。
***
ピピンの街に戻った3人は冒険者ギルドに向った。
3人が街に入ると人々は皆、驚愕の表情で見やる。
「あはは、やっぱり僕が担いでいるからかなぁ。」
「だから俺に貸せと言ったのに」
大中小、もとい、ミグ、ニャルマー、竜真の3人の中で1番小さい竜真が軽がると別の男を抱えて、すたすたと歩いているのを住人達が見送った。
***
ギルドに入った瞬間、その男の顔色が一瞬だけ変わったのを竜真は見過ごさなかった。
「ミグ、左奥、ランク受付の近くに座っている青い外蔭の男だ。」
「ちっ。」
男が舌打ちし、逃げようとすると、ミグがそれに立ちはだかった。
「くそっ」「きゃっ」
受付に座っている女性を男は人質にする。剣を首に突き付けた。
「…」
その場の空気が残念感に染まる。周囲の男を見る目は、お気の毒にと言っていた。
「なっ、なんなんだよ。」
「うふふ。冒険者ギルドの職員は最低でもAクラスからって決まってるんですぅ〜。」
「い゛っ!がぁっ」
腕を取られ背中に固定されると、机に体が押しつけられる。
受付嬢はにこやかに、その上にひらりと乗った。
「荒くれ相手の商売ですのでぇ。」
あくまでも笑顔を絶やさない女性に周囲の男はこえぇと脳裏を同じくしていた。
「さて、ベラビ山賊2人が捕まったわけだ。」
気絶した男を担いだままクエストボードに向った竜真はベラビ山賊討伐クエストを剥ぎ取ると、クエスト受付に持っていく。
誰もが動きを止めてしまった中、全身を赤の系統色に身を包んだ竜真が進んでいく。
それはまるで火の化身の様だった。
「1stのリウマ、3rdのミグ、ランクDのニャルマーが受ける。俺達は数字持ちだが、ランクDのニャルマーがいる。Aクラスの仕事は出来るだろ?」
「はい。承りました。ベラビ山賊、やっつけちゃって下さいね。」
人質になった女性と同じ顔の受付嬢が笑顔で書類に判を押す。
周囲は竜真が自分の名前を名乗った辺りから騒めいていた。
「さて、ミグ、ニャルマー。いこっか!」
それは今からピクニックに行くような気軽なノリだった。
***
「本当にリウマ様お1人で捕まえてしまうのですね。」
竜真の進んだ後を長い縄を5本持ったミグとニャルマーが付いて、気絶したベラビ山賊団の一味を片っ端から武装解除し縄で繋いでいた。
竜真が通った跡には死屍累々、否、気絶した男達がゴロゴロと転がっている。
すでに竜真の後ろ姿すら見えなくなっていた。
「僕は赤を纏うと言っても、材質や色のグラデーションとかに気を遣ってるんだよね。それをあんな完成度が低すぎる偽物を使って、なりすまそうとするなんて思わないでよね。」
側近達が次々と竜真の振るう鞭の餌食となり、残りは長だけとなっていた。
「そっそんな長い鞭を建物の中で使うなんて…」
砦の中でも謁見の間だったろう広間で、自分だけを避けて鞭が次々と周りの人間だけを妙に色目気だった声を挙げさせて屠るのは恐怖以外の何者でもない。
たまにもっととねだる声が聞こえたのは気にしてはいけない範囲だと長の脳が拒絶する。
「腕だよ。う・で。だって剣だと切っちゃいそうなんだもん。捕縛って決めてるからさ。」
「ばっ化け物。」
「そう、1stって化け物なんだよ。」
それが耳元で聞こえた瞬間、長は首に衝撃を受けた。
竜真の手刀にベラビ山賊団の長が沈んだのだった。
***
「あぁ、楽しかった。」
ピピンの街を出て、竜真は覆面の中で満面の笑みを浮かべていた。
「久しぶりの鞭は楽しかっただろ。鬼畜だからな。」
「いやだなぁ。ミグったら誉めないでよ。」
「誉めてない。呆れてる。」
その会話を聞いて、ニャルマーは改めて、竜真を素敵だと認識していた。
「リウマ様は素晴らしいのです。」
「ニャルマー…鞭で打たれたいとか言いだすなよ。自分の属性が変わるからな。」
うっとり呟くニャルマーにミグは諭したのだった。
こうしてベラビ山賊団の生き残りは竜真に捕まえられた男とギルドにいた男、長の3人以外は属性を変えられ、鞭を求めるようになりましたとさ…
竜真こえぇ
ギルドのお姉さんはピピン名物、ランクAの三つ子の受付嬢でした。