13.ついてきちゃった人
「うん。10日で1人頭金貨200枚…美味しい仕事だったね」
金貨1枚は銀貨10枚、銀貨1枚は銅貨10枚に換算出来き、銅貨1枚は100円程の価値らしく、1日銀貨1枚あれば、人1人慎ましく暮らしていける。
「奈美恵の味方も出来た上にお金も貰える。ホント冒険者はやめられないよね」
隣からクスクス笑う気配がする。街中を歩いているため、覆面で顔が隠れていても喜色満面な気配が隣を歩くミグには駄々洩れに伝わってくる。
「……2頭を追えば、2頭を。3頭を追えば、3頭を得るのがリウマらしいと言うか。シグルド様からの信頼を得て名を売るのも、得るものに入っているならば、一石四鳥か……」
「やだなぁ。そんな損得尽くで行った訳じゃないよ」
嬉々としている声に、ミグは絶対狙っていたはずだと思う。
「ところで、何故シグルド様なんだ?」
視点を変えて質問してみたら、竜真の気配が変わる。
「別にシグルド様はどうでも良かったんだ。奈美恵が目的だったんだから」
ミグは頭を傾げる。
「奈美恵は俺と同じだ。ならば、絶対に何かしらに頭角を出すはずなんだ。あの街で噂を聞いた時、ツーン……じゃなくてピーンと来た」
「じゃあ、最終目的は?」
「先行投資だ」
きっぱり言い切った。
足を止めて、自分を見上げる竜真の目が、覆面の合間から獰猛に光るのを見て、ミグの背筋に緊張が走る。
「ミグ、奈美恵はきっとリユカで何かをしでかす。楽しみにしてろよ」
からからと笑い歩きだした竜真の後ろ姿を見ながら、ミグは領主館がある方角に顔を向けた。
***
フェブカ領主の館を出てから3日、次の目的地アルシュラの神殿に向かって順調に歩いていたのだが、前の街から着いてくる気配がした。
昼飯を食べてから、付いてきた気配を確かめるためにミグから離れ、フラムの街をぶらぶらと歩いていた。
向こうが追っている相手が自分だと確信すると、竜真は路地裏に入り、相手を待てば、その男はすぐに現れた。
「僕に何かご用ですか?」
「あっ……」
「あまりに古典的なことに引っ掛かるとドンビキぃ〜」
男は驚きに絶句している隙に、剣を取出し首筋に突き付けた。
「あれぇ?見たことあるかも……執事君かなぁ?フェブカ領主館の……」
それは竜真の顔を見て、書類箱を落とした執事の男だった。
「リウマ様。私を旅のお供にしてください。お願いします」
「無理」
突然の土下座に戸惑うこともなくすぐさまに却下を出すと、男は竜真にしがみつかんばかりの勢いで懇願しようとした。
「そこを何とか「嫌」」
「リウマ様」
たまにこの手の輩が現われては、竜真にきっぱりと振られて去って行った。
「執事してなよ」
「貴方に出会った後で執事なんてしていられません」
「……無理だ。帰れ」
―この男はかなりしつこいタイプかもしれない。
竜真は遠い目をして、明後日を向いた。
「リウマ様……」
捨てられた子犬のような瞳に見つめられ、竜真はこの男を諦めさせるにはどうしたら良いか頭を抱えた。
***
「リウマ、何だって?」
「僕と旅したいんだって」
ミグは食堂で竜真が戻ってくるのを待っていた。
戻ってきた竜真の後ろから現れた男に怪訝な顔をすると、竜真に聞いた。
「盗賊ギルド頭目のニャルマーと申します。3rdのミグ様、どうかわたくしを旅のお供に」
男が初めて名乗った瞬間、竜真の頭の中には甥っ子にせがまれたゲームに出てきた猫の形のとあるモンスターが頭に浮かび上がったが、それを頭から振り切り、疑問を1つぶつける。
「盗賊ギルドの奴が領主の館で執事していたの?」
焦がれている竜真からの質問にニャルマーは嬉々として答えた。
「はい。盗賊ギルドに入ったのは、領主様のためなのです。盗賊同士の情報やギルドの情報で館の警備の強化をし、なおかつ、シグルド様の密偵としてのスキルを研くためでした。しかし、首領のリウマ様に初めてお目にかかり、どうしてもリウマ様の下で働ければと、執事の任を解いていただいたのです」
竜真の頭の中に盗賊ギルドの組織図が浮かぶ。
下から三下、小頭、頭目、首領、大首領となっていて、竜真は面倒でしないが、ギルドの支部長は首領以上となっている。冒険者ギルドより階級自体は少ないが、頭目から首領に上がるには冒険者ギルドで言う、ランクAから2ndになるぐらいに難しいのだ。
ニャルマーは頭目と言うことで、そこそこの腕前であることがわかる。
「首領ったって、僕の部下は今受け付けてないし、ギルドの仕事もしてないしねぇ。頭目程度が俺達についてこれると思うなよ。ミグ、行こう」
竜真はさっさと店を出た。後を追うミグが竜真の隣に並び、小声で聞いた。
「リウマ、いいのか?」
「諦めさせるから、手伝ってくれ」
竜真はただでさえ秘密が多い。すでにニャルマーには顔を見られているが、その程度のかかわり合いの奴を連れ歩く訳にはいかなかった。
2人の後ろをそろりそろり着いてくるニャルマーを気にしつつ、2人は速度を上げ始めた。
「え?」
その速度は馬並みにまで早くなり、ニャルマーがはっとした時にはすでにフラムの外れに後ろ姿があったのだった。
***
フラムの街の次の次の街、ルシアナまで走り抜けたリウマとミグは宿をとり、軽く走った汗をさっぱりと流し、食堂で夕飯を食べていた。
「そう……簡単に、撒けると、思わない、でくだ、さい」
ぜぇぜぇと息も絶え絶えに机の脇まで来たニャルマーに2人は、ついつい拍手してしまった。
「着いてくるとは」
「まさか、着いてこれるとは思わなかった。それじゃ、また明日も追い駆けっこしような。ご馳走様でしたと」
にっこりと笑って、食器を片付けると竜真はさっさと自分の部屋へと去って行った。
その後ろ姿をニャルマーは切なげに見ていたのだった。
***
翌朝、竜真とミグが宿を出ると、すでにニャルマーが待ち構えていた。
「こりない?」
「全く。俄然やる気になりました」
闘志に湧くニャルマーに軽く視線を向けてからミグを見上げた竜真は、ため息と共に提案した。
「仕方ない。ミグ、今日も軽く走っていこうか」
「旅の日程が巻き返せそうだな」
「ホントにねぇ」
ロスした10日を巻き返すようなハイペースに、もっとのんびりお気楽旅のはずなのにと、ミグにすまないとだけ謝る。
「気にするな。久しぶりの走り込みで、体力を鍛え上げれると思えば、それも良しだ」
「ホント、ミグって良い奴だよなぁ」
竜真に可愛い小物や服さえあてがわなければ、比較的良識人な分類にミグは入る。
ルシアナのメインストリートを進行方向へ顔を向けると、竜真はミグの背中を軽く叩いた。
「よーい。ドン!」
掛け声と共に2人が走りだす。
ニャルマーは頑張るぞと、気合い充分に追い掛けるのだった。
また妙なキャラクターが出張ってきたよ。何者なんだニャルマーめ…ポケットなモンスター臭い名前のくせに…