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「まずは1番目遠いところからと思うんだけど、何かいい案あるかな。」
竜真は斜め上に視線を向け、うーんと思案してから、三人をちらりと見る。
「リヒリヒの実、アザナの花、この二つは取れる季節が違うんだ。でも、リヒリヒはまだ貯蔵があるかもしれない」
「リヒリヒの実はとりあえず買うことにするよ。
アザナの花が咲くのは一つ季節が向こうになるけれど、乾燥しているのがやはり売っていたはず。
ブリリヒの肝臓とセジュの爪は魔物の部位。
ブリリヒはケルイウの根が好きだから、この二つは同じ辺りで確保できる。
セジュはアザナの花が咲くところの手前ぐらいにいる魔物だね。
ジウの葉とマリフの葉とイチキの蕾……ジウの葉はリヒリヒの実と近いかな。マリフが方向がどれとも被らず少し遠いね。イチキの蕾はセジュのいる辺りから、ちょっと東。
マリフは更に東だ」
「リウマさん、けっこう焦ってる?」
「いや、違うんだ。頭の中を喋りながら整理してる」
早口で喋り始めた竜真にロイが気になったのかたずねると、竜真は単純に手順を考えているだけだと告げる。
「二手に別れて行動するの?」
「その方が効率がいいと思うよ」
バレイラとロイが効率を口に出すと竜真は二人の頭を一撫でした。
「それも考えたけど、まだ3人に教えてないものがどちらの経路にしても出てくるから全員で行くよ」
「え? 効率的じゃないよ」
「そうだね。でも、実地で教えてあげることができるからね。しかも、貴重な薬草や部位の取り方、保存の仕方、これを覚えられる機会を効率で考えないように」
効率を考えるだけでは勿体ないこともあると竜真は爽やかに笑った。
仲間の命がかかってはいるが、三人が成長するよい機会だと
「さぁ、行こうか。まずはリヒリヒの実からだよ」
久しぶりの4人旅。
竜真の拠点の町であるシュミカの次の街以来だ。
旅装はミグに贈られたものを着ている。
各々のイメージに合わせた色の暗色の外套を纏っている。
竜真とバレイラは赤、シンは緑、ロイは青。
「さて、修行がてら気配を絶って行こう。今日の目的地はここ」
「五つ先の国境を越えた先の町ですね」
「名物は……」
「ククリアンコウの肝吸いって何だろう」
地図を片手に場所を示すと、ガイドブックを手にしたシンの手元をバレイラが覗き込む。
竜真が持っている地図は大陸東編とある。
この地図は市販品ではなく紅砂に調べさせたもので、市販品とは内容が異なり、市販品より細かく、国を越えて描かれていて、日本の地図のようにまずは大陸の東側全体、そして各国と細かく別れ、それぞれの都から第三都市ぐらいまでの大まかな地図描かれていた。
竜真と幹部、そして竜真の子ども達だけが使用できる代物である。
向かう場所を全員で確認すると旅立つ前にイナザの元へと向かった。
「うわっ」
「増えてる」
「昨日より二本増えてます」
「イナザさん、苦しくない?」
竜真、バレイラ、ロイ、シンの順に部屋に入って反応する。
イナザのもとに訪ねると一本が三本に。
腕から生えていた触手が増えていた。
蠢く触手はたまにイナザが憎いとばかりに首を絞めにくる。
それを撃退しながら賢者達は侃々諤々。
「思いの外、時間がないのかな?」
竜真の呟きにイナザを見守る水の賢者が返事を返す。
「そうかもしれませんね。どうやらこの触手は増えるごとに夢を見させられるようでしてね。過去夢といいますか、彼が今まで接触してきた相手目線の夢を見ることがふえてきたようです」
「それはゲスい」
「ことをしていたイナザさんが悪いから」
「仕方ないね」
追随して、最後に頷くバレイラ。過去の悪行が追って来るのは確かにイナザ本人がやらかしたから。
「とりあえず行ってくるから。イナザは天罰と思って甘んじて受けるように」
「すま……い、よ、た、む」
「発声も阻害されはじめましたね。早めの帰宅をお願いしますね」
「よし、マリフは外注にしよう。間に合いそうもなさそうだ。あとは僕達で行って帰ってこれるぐらいの時間はあるだろう。皆行くよ」
「はい」
竜真の掛け声に各々が元気よく返事をした。
こうして竜真達は賢者達に見守られたイナザを置いて薬剤の調合材料調達の旅へとまずは北の方向へと出掛けたのであった。