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1stのリウマ  作者: 真咲静
教育の旅が始まりました。
110/113

110.不穏な影

「人間の癖に生意気な」

「はっ。お前らの傲慢さにつける薬もない。滅びろ」


 竜真の剣と男の扇が硬質な音を立てる。

 互いを見る目は互いを侮蔑する。


「竜族の装備とな。奴等も繁殖も適わず、お主らに狩られて哀れな生き物よ」

「少なくともお前らより可愛げがあるさ。それに、これは狩って作ったものじゃない」


 生意気なと竜馬に苛立った男は口端に嫌な気配のする笑みを浮かべた。

 男は袖に手を入れて戻すとその手の内には小さな玉が一つ。ヘドロが固まったようなソレ。


「のう。お主の仲間はまだ私の手の内よ。どうじゃ。取引をせぬか?」

「へぇ。僕に勝てないから命乞いか?」

「仲間の命乞いをお主がするのよ」


 そういうと男は愛しい物を見るようにうっとりとして、その玉についての説明を始める。


「これはお主の仲間の下へと流れているこの世のありとあらゆる苦しみの素よ……あ……ぁあ? ぬし」

「あのねぇ。君らは油断しすぎなんだよ。戦いの最中に僕から視線を外したら、それは破滅だよ」


 男の腹部に竜真の剣が納まっていた。

 そして、その剣を上へと引き上げると、男の口から血が噴出した。

 荒い息になり崩れる男。何が起きたか理解できないらしい。生まれてからこの方、追う方になっても追われることはなく、一切被害者になることはなかった。常に勝者であった。だが、負けるのはほんの一瞬の出来事。


「お、の……れ……」


 こうして男はこの世界から消えて行った。そして、男の手に合った玉はころりとその場に落ちた。

 互いに名乗ることなく、互いの存在を敵と認識し合い、そして殺し合った。


「シン……解毒ってできるかなぁ」


 竜真はその玉を切れに包んで仲間の下へ帰った。

 激しかったであろう戦いの跡が見える町はずれから自分の養い子たちのもとへと急いだ。


 ***



「あれが神の御子みこか。ベルヒウムも雅を気取ってはいるがただの脳筋。だけど、あの回収された珠は面白うそうなものだったね。これで奴に倒されたのは五人。そろそろ御子の存在を隠蔽するのも難しいか」


 竜真の背後。山を一つ隔てた上空にそれは居た。

 王宮に住まう王の玉座と言っても過言ではない豪奢な椅子。それに優雅に座る男。それがどこぞの謁見の間であると言うのなら納得できる構図だが、上空にポツンとその男は座っていた。


 ***




「うがぁぁ!」


 この世のものとは思えない苦痛に囚われて、苦痛の末に気を失ったはずだった。美しい男に捕まって、なんだかよく分からないものに閉じ込められていたはずだった。


「シン。起きたね。良かった」


 いつも優しく、そして厳しく接してくれている養父の声にシンは声をした方を向いた。

 いつもつけている布を外しているリウマ。そして、仲間と言うより家族のロイとバレイラがそこに居た。新しい仲間のイナザ。リウマとロイは安堵の。バレイラとイナザ心配の眼差しでシンを見ている。


「え……なに……が」


 喉が渇きに突っ張り声が思うように出ない。

 それに応じるようにロイが吸い飲みに入れた水を手渡し、リウマがシンの背中にいくつかのクッションを入れて飲みやすくしている。

「ここから飲んで」と飲み口を口元へと近づけるとシンは渇きを自覚したのか、勢いよく飲み始めた。


「さて、飲みながら聞いて。シンは五日前敵に捕まっていて、ひどい目にあったんだ。助け出したけど、思いのほか治療に手間取ってね。治療を終えても中々君が目を覚まさないから。……とても心配したよ」


 竜真の安堵が分かる。バレイラは恐る恐ると言うようにシンの側に近寄ると、優しくその頬に手を添えた。


「死んじゃうかと思った」


「ごめん。心配させたね」


「本当に難しい治療だったんです。四賢者様のご協力があって、やっと」


 ロイもシンの横たわる寝台のべレイラと反対側に立ち、その肩に手を置いた。


「この世の負を全て集めた存在。人間には到底かなわない毒、いや、もう呪いかもしれない。あの下種野郎」


 竜真はシンの頭を撫でた。


「四賢者様方も相当頭を悩ませていらっしゃった。この町が塔のお膝下で僕が居た。本当に運が良かった」


 三人に抱きこまれ、シンは自分が本当に危険な状態だったことを知った。

 それからシンは一人居ないとばかりにイナザを見てぎょっとした。滂沱の涙と言っても過言ではない程にイナザは泣いていた。


「えっと、イナザさん?」


「……かった」


「イナザさん?」


「良かった! シン! シン!」


 イナザが寝床に居るシンに飛び込んできた。竜真、ロイ、バレイラの三人はサッと避けるとシンはその直撃を食らった。

 号泣する男を抱きとめたシンは宥める様に背中を叩いたのだった。

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