11.希代の風使い候補
本日もしごかれてます。
領主館の中庭に竜真と奈美恵が居た。
爽やかな風が吹き、緑が揺れ、ナーナの大きく白い花が咲き乱れている。
ミグは何かしら起こった時に対応できるように、少し離れた場所に立っていた。
領主館に来て6日目、竜真は奈美恵に異能があるかどうかを判断するために先ずは魔力測定と魔力の使い方から始めることにした。
「基本は感じること。手の中に小さなボールを思い浮べるんだ。体の中心から肩へ、腕を通り、手の平に…」
「…綺麗な赤ね。」
20センチ程離した状態で、手の平を内側に向け、前に出し、集中しだした竜真の手の内には深紅の丸い固まりが浮いている。
まるで極上のピジョンブラッドのルビーの塊のようなそれに、奈美恵は感嘆しながら呟いた。
「見えるなら、奈美恵にも素養はある。真似してみて…先ずは体の中心から肩へ、腕を通り、手の平に何かを通すイメージをして、手の平から手の中に小さなボールを作るように…あぁ、君は柔らかな緑色だね。属性は風…治癒…防御…ってところかな。次は、そのボールを小さくするようにイメージする。手の平に戻す。戻されたものは体内に拡散させるよ。」
奈美恵も竜真に習い、同じようにしてみれば、奈美恵の手の中には、柔らかく光る翡翠のような光の塊が出現する。
それを観察してから、竜真は塊を無くす方法を練習させる。
「はい。良くできました。やっぱり魔法に関する能力値はかなり高いね。これを1回で出来る人はまずいない。」
自分も能力値はかなり高い方だが、奈美恵はそれを上回る能力値がありそうなのを感じている。
奈美恵は今まで感じたことのない疲労感に、地べたに座り込んだ。
「次は作ったボールを身体の周り回す。」
「ま…待って、体に力が入らないの。」
すかさず、次の練習に移ろうとする竜真に奈美恵は待ったをかけた。
今日、初めての魔法学ということもあるので、竜真は休憩を告げた。
「30分休んでいいよ。ミグ。」
「なんだ。」
ミグの側に寄った竜真は奈美恵の才能について聞いてみた。
「普通の能力ある人間では1回であそこまで到達するのに、どんなに早くても3日はかかる。色が出るのはそれだけ属性が強いと言うことだ。あれだけの風属性の強い人間を見たことがない。」
「…希代の風使いの誕生かな。冒険者になれば、1stになれるのに…シグルド様には魔術士ギルドへの登録をするようにお伝えしておこう。」
力強いならば、なおさらに登録しておいた方がいい。
力のコントロールは短期間過ぎて、教えることが出来ない可能性があるが、魔術士ギルドの同僚に教師に適役の人物がいることを竜真は知っていた。
ようやく立ち上がった奈美恵の側にミグと竜真が戻った。
「あぁ、しんどかった。」
「そうだろうね。呪文なしの20センチ、純粋な魔力玉を作るのに必要な魔力は呪文ありの同じ物に比べて5倍かかる。この20センチの純粋な魔力玉が作れることが魔術士の認定を受ける最低条件なんだ。奈美恵はその点は既にクリアできた。しかも色付きだ。魔術士のマスターの1人として、是非とも魔術士ギルドへの推薦状を書きたいぐらいだ。」
短期間に冒険者ギルドにおいて1st、魔術士ギルドにおいてマスター、盗賊のギルドでは首領の称号を得た希有な人間の竜真の審査は非常に厳しい。
単一ギルドだけでなく、複数ギルドに所属していることが更に極めて竜真を偉大な人間と他者に認定させていた。
そんな竜真が手放しで褒め称えることは1年に1度ぐらいしかない。
「竜真さんに誉められるのは嬉しいな。何せ滅多に誉めないもの。」
誉められて、奈美恵は嬉しい気持ちにで微笑む。
「奈美恵には才能がある。きっと風の賢者の称号は君の物になるはずだ。今日の練習終了後にシグルド様に魔術士ギルドへの登録について話します。」
領主館に来てから覆面を解いてあるので、竜真の表情はそれは良く見てわかる。
奈美恵の才能が嬉しかったのか、満面の笑みを浮かべている竜真だが、遠くで皿が割れる音がした。
中庭にいる3人が音がした方を見ると、真っ赤な顔をした女性の召使が棒立ちになっている。
「顔面凶器って俺のことかな。」
「落ち込むなリウマ。俺は美人だと思うぞ。」
「そうです。竜真さんは美人さんなだけです。」
喜色満面の笑みは少し萎れたような苦笑に変わり、それがまた守ってあげたくなる儚い風に見えて、別のところでカシャンと音がする。
男性の執事が書類箱を落としたようだった。
「…」「…」「…」
「さっさぁ、練習を再開しましょう。」
「あっ、あぁそうだな。」
―変な空気が流れた。
サブタイトルを顔面凶器にしたかった…