109.捕らわれたシン
知らせなきゃ
シンは町を抜けるべく駆けていた。
向かう先は紅砂の支部。そして塔。
リウマに伝言を託された。与えられた仕事を全うしたい。
シンは走っていた。
だが、その足を突如として止めた。
なぜ止めたのか。それは町を抜ける門が見当たらない。
普通の町なら門から門まで短くて五分、長くても一時間も走れば、シンのスピードなら駆け抜けれた。
町に入る前に与えられたリウマからの情報からしても、この町なら端から端まで十分程度で駆け抜けれるはずだった。五分、十分、そして十五分。
おかしい。
おかしい。
確かに何かがおかしい。
町の風景画一切変わっていないと言うわけではないが、気味が悪いと言う直感でシンは足を止めた。
走ってかいた汗に冷や汗も上乗せされて落ちる。
「何がおかしい」
そう呟いて後ろを振り向こうとして、振り向けない事実を知る。
物理的に振り向けない。
シンを後ろから羽交い絞めにする誰かが笑みと共に零した言葉にシンは自分が囚われたことに気がついた。
「リリィシュの残り香がすると思ってきてみれば、ほんに威勢がいいではないか。少しお眠り」
シンは心の中で竜真にごめんなさいと謝り、襲い来る眠気に抗えずに意識を刈り取られた。
次にシンが目覚めた時、シンのはどこかの室内で竜真達と対面していた。ただし薄いガラスの壁に阻まれて。
何かの球体の中に閉じ込められている。シンは狭い球体を内側から触った。
シンを浚った男が竜真達に何かを話していた。シンにはその音は聞こえないが、男が何かをしたのか球体の中の気温と湿度が変わり、更に鼻の奥や口の奥が焼けそうな異臭がした。
まずい。
まずい。
シンは味わったことのない苦しみの中に立たされていた。
***
「シン!」
シンには竜真の声は聞こえていない様子だった。
「こんに狭いところでは暴れられぬなぁ」
男が数度手を振る。竜真達がいる部屋の壁が次々と崩壊して行く。
あくまでも竜真達に攻撃が当たらないように壁や天井を壊しつくす男。
「ほれ見よ。少しは広くなったろうに」
あちらこちらからうめき声がした。
ここは叡智の塔に近い町。相応に旅人も商人も多い。夕飯時ともなれば宿を取っているものも多いはずだった。
巻き込んでいる。こんな町中で人を巻き込みながら戦うなどと。
竜真の背中に汗が流れた。男との間に緊張感が走る。
「皆、後を頼む」
一言だけ言うと、竜真は剣を抜刀しながら男に切りかかり、その華奢な体に見合わぬ力で謎の男を上空に吹っ飛ばした。同時に自身もジャンプして更に男に切り、更に町の外へ飛んで行けと言うように男を力任せに吹き飛ばす。
「ぐっ」
男は町の門を通り抜けた街道に着地した。男の足元に土煙が上がる。
「おのれ、忌々しい」
自分の後を追ってくる竜真に五十個の力の塊をぶつけるが、それは竜真の剣により切られていく。
「お主、何者じゃ!」
口の端から流れた血を拭った男は怒り心頭に竜真を誰何する。
今までこんなことはなかった。人間とは自分の遊び道具であり、暇つぶし程度の存在だった。泣き叫び絶望する様を愉悦していた。
なのに、なのに、目の前の小柄な人物が男の今までを覆した。こんな屈辱。今まで味わったことはなかった。
「お前らを消滅させれる人間の一人だよ」
涼やかな若い男の声で答えが返ってきた。そのすぐ後には紅い一閃。
軽そうな一閃は思うよりも速く重い。
「消滅? 消滅ですってぇ」
男はその一閃を懐から出した扇で受ける。
人間とは矮小で良くも悪くも細々増える玩具。ただの玩具がこんな抵抗をしていいはずではない。扇を振るえば相手の覆面は簡単に防いだ。
「お前らは碌な事しないからな。会ったら消滅させるに限る」
やけに余裕そうにその声は響いた。
自信満々な覆面の男の声に男は苛立った。
シンの身に何が……
リウマさんがノリノリで指がすべる。
男が吹っ飛ぶ。