108.どいつもこいつも変なんだ
喧騒。
夕暮れ時の喧しさ。
人々の今日の嘆きと歓喜が入り混じる時間の姦しさ。
叡智の塔のお膝元に近いこの町は騒がしすぎると言う程ではないが、それなりに人通りも居住者も多い町。叡智の塔に居たわずかな期間でも竜真にとって、この町はそれなりに馴染みの町であることには違いない。
竜真達は夕食を屋台で買って帰ると、二部屋とった部屋のうち竜真とバレイラが寝起きする予定の部屋へと集まった。
「リウマさん、どうしたんですか」
「うん。いつもと違うよ」
ロイとバレイラがいつもと様子が違う竜真を心配気に見る。イナザはロイとバレイラの様子に不安げな様子だ。
竜真は胡坐をかいて何かを考えている。
「それを今考えてるんだよ。何が違うんだろう。どう変なんだろうか。夕暮れ時にふさわしい雰囲気だった。帰宅を急ぐ人、仕事上がりに町にくりだす人。買い物をする人。叡智の塔へかえ……そう。帰る学生だ。塔への帰還は年齢によって違う。この時間に帰らなくてはならない子達がいないんだ。今日は何日だ……彼らが居ないのは余計におかしい。まるで遅くまで必修講義がある日のようだ。……ロイ。宿の人に今日の日付を聞いて来て欲しい」
一人呟いていた竜真は顔を上げるとロイに指示を出す。
ロイは頷くと宿の人物と接触するために部屋の外へ出た。
「もしかして時間が止まっているとか、繰り返しているとかなのかな」と竜真の呟きを聞いていたバレイラが聞く。
「そんなことが起こることがあるのか」
イナザは驚愕に二人の顔を交互に見やると竜真は「だからロイに確認に行かせたんだよ」とバレイラを落ち着かせるように頭を撫でてやる。
しばらくしてロイが帰ってきた。
「リウマさんが考えている通りのようです。この町は四日前で止まっているようです」
その時だった。
「おや、わたくしの遊びに気がついたのかえ」
軽やかな鈴の音の様な気持ちよい男の声が部屋に響いた。
全員が戦闘体勢をとる。
「リリィシュの欠片を纏う子が町を抜けようとしていたのを捕まえたのだが……お主等の仲間のようじゃな」
男が部屋に現れた。生糸のように滑らかで光沢のある黒く長い髪でローブを着ている。一見、女にも見えるがその節がある手や精悍な顔つきが彼を男と認識できるようにしていた。
薄く軽薄そうな唇に嬉しいとばかりの笑みを乗せて。
そして、その男の傍らに透明な球体が現れた。中にシンを入れて。
「リリィシュを消したのはお主等かえ。あの可愛い子を消したのは主等か」
球体の中のシンが男の激昂に合わせて苦しむ。いつも一行の良心として暖かな笑みを浮かべているシンが胸をつかみ、冷や汗と涎を流しながら苦しんでいる。
「あぁ、可愛そうなリリィシュ。わたくしが仇を打ってあげましょう」
男がいきなり手を振った。
どごぉぉぉぉぉんとすさまじい音がする。竜真達がいるすぐ横の壁が大きな音を立てて外へと消え去った。