102.紅砂出動
ちょっと良い宿の一室の様な部屋の中にバレイラとロイは閉じ込められていた。
まだ幼い彼らが見るには時期尚早ないやらしいことを見せられての食事が喉を通るわけもなく、彼らの嫌がる姿を楽しんだディアージャロウは早々に食事が終わり次第に彼らをこの部屋へと閉じ込めた。
「練習しておいて良かったね」
「リウマさんに鍛えられたからね」
入り口の近くに手ごろな罠を作って置いた二人は本棚をよじ登り、天井へ穴を開けた。
開けた方法はロイが魔術を使ったとだけ言っておこう。それから二人は音を立てぬように息を潜めて、周りを見渡す。完全の闇の中でバレイラは少しばかり心細くロイの手に自分の手を重ねた。
「怖い?」
「ん」
ロイに聞かれ、返事をしようとしたそのとき「大丈夫だよぉー」と気の抜けた声がかかる。
「うぅ☆#$%%&’(%#$”#”!!!」
「ひぅ#$%#$”#”$$%&!!!」
二人は心臓が止まるかと思う程驚き、思わず声が出そうになった。
大人の男の手で声は遮られたが、反射的に二人とも隠してあった武器で攻撃しようとして、これも防がれる。
「いやぁ、しぃーだからしぃー。危ないから武器もしまおぉーねぇー」
「アカイさん」
「アカイさん?」
小さな声で怒ると言う器用なロイと疑問を投げかけるバレイラ。
「君らのぉ脱出のぉ、お手伝いをぉ命じられましたぁ。いっくよぉー」
ロイとバレイラを脱力させきるアカイの口調。二人は肩から力を抜いた。
アカイはそんな二人の肩をポンと叩くと、ついてくるように指示をした。
***
竜真を先頭に多数の人物がディアージャロウの宵闇盗賊団のロベル本部内を突き進む。
何事かと顔を出せば駆逐されていくディアージャロウの部下達は何が起こったか分からない内に無力化された。
「ラウ、見てないで手を出そうよ」
「手を出したら、俺もやられそうだから勘弁です」
「探索系の団員いないの?」
「いるけど、リウマさんとこのやつらが早すぎて動けてない感じです」
軽口を述べ、竜真は右手に剣を持ち、ディアージャロウの盗賊団の本部内部に侵攻しているとは思えないほどの大胆な言動で突き進む。
リベラルラウは陽動係りもできやしない。リウマ率いる紅砂の強さに舌を巻く。強いにも程があるし、優秀にも程があると。
「うわっと」
「ほら、たまにはそっちにも敵を流すからさぁ。ボーっとしないでよね!」
リベラルラウは竜真から流されてきた敵を切り伏せると少し上がった心拍数に息をつく。
竜真が一撃に敵を殺さず、どんどん後をついて走るリベラルラウらに押し付けるように任せていく。
部下達の悲鳴も聞こえ始めたところで、1stのリウマと言う恐ろしく強い男の後姿をリベラルラウは憧憬の眼差しで見つめるのだった。
***
「思った以上に侵攻が早いようだ。特2未満の商品を放って少しでもかく乱しろ。特1と2はジュベロの館へと動かせ。資料はベツカに金品はブリュレカへ。私はジュベロに向かう。この館は放棄する。さっさと拠点を移動させようか」
ロイとバレイラが居なくなったと聞いたディアージャロウは考えていた紅砂攻略作戦を一時中断し、退却する方向へと切り替えた。盗賊団の本拠地となる館であるからには秘密の抜け穴の十や二十や三十は当たり前。それらを駆使し、ディアージャロウは部下達に移動を命じた。
ディアージャロウも椅子から立ち上がり、自分の部屋にある棚細工を操作しての抜け道から出るべく動く。
隠し扉の中から今まで使ってきた拠点である自分の部屋を振り返ると、抜け道内部にある細工を動かす。
これで自分は誰に見られることなく外に出られるだろうとほくそ笑んだのだった。
ただディアージャロウは紅砂の力を甘く見ていた。
誰も知らないだろうと思っていた抜け道は全て丸裸にされて見張られていたことに気がつくのはほんの少し先。
***
「アオイ様」
「一網打尽に。逃すな。商品は状態を診て治療のち保護」
紅砂の別動隊を率いて三幹部の一人であるアオイが秘密の通路を全てふさいでいた。
今回、紅砂三幹部の内、二人が動いていた。ロベルの紅砂の支部で経理に勤しんで居たアオイはアカイにたまには現場出ろと連れ出され、バレイラ、ロイの退路確保のために隠し通路の探索をさせられていた。
「バカイのせいで仕事が遅れてしまいます。ロベル支部の件が終わり次第、リウマ様の先に支部立ち上げを行いたいのに」
隠し通路の探索でディアージャロウの本部を丸裸にしてアカイが二人を連れて出てくるのを待って居たのだが、出てくるのはディアージャロウの部下と商品の物や人ばかり。いつまでも出てこないアカイに苛々しているアオイは次々と敵を捕らえ、商品の保護活動に勤しむ。
「――意外に大物が引っかかったな。リウマ様に連絡を。バカイより先に出てくるとは計算違いなことだ」
アオイの部下の中でも腕利きなアイとスイにリョクが少々ボロボロになりながら捕まえてきたのはディアージャロウ本人だった。
「部下を捨て駒に出てきたのも情けなければ、早々に捕まってしまうのも情けない話ですね。全ての証拠はロベル国王にすでに渡っています。騎士団内の清掃が行われ、貴族内にも手が及んでいますので、観念なさってくださいね。まぁ、その三人を見事にボロボロにした実力だけは評価して差し上げましょう。他にも人をつけて護送しろ」
ディアージャロウは腹黒紳士の相貌をギリギリと歯軋りして、一介のチンピラに貶めていた。
アオイは三人の部下に更に護送要員を増やして騎士団本部に移動させるように命令したのだった。