07-救出
【前書き】
開いてくださりありがとうございます。
そしていつも、リアクション・ブックマーク・コメントをいただきありがとうございます。
少しでもこの小説を楽しんでくださいませ。
正直な話、ヴァニタスはこの事件の犯人がノワール第二騎士団団長の仕業ではないと思っていた。
今までの妨害工作の矛先はヴァニタス自身に向けられたものであり、第三者にまで危害を加えたことは今までになかった。そのため今回の御城の誘拐事件はノワールやエリザベートを含めた第二王子派閥による犯行ではないと、そう思いたかった。
しかしヴァルアの魔法によって導き出した御城の居場所はノワール邸宅。
疑惑が確信に変わった瞬間であった。
誘拐はエリザベートの願望をノワールが叶えたという疑惑はあったが、あくまでそれは可能性に過ぎなかった。今回御城の捜索に1週間かかっても大きな成果を得られなかったのはその他の可能性を排除していった結果時間がかかってしまったからだった。
ヴァニタスは腰に携えた剣を握りしめる力が強くなる。
それは怒りによるもので、第三者には危害を加えないと思っていたヴァニタスの想いを裏切られたからではなく、ノワールとエリザベートが怪しいと感じていた時点で真っ先に手を打つべきであった。
だがそれはルークも言っていたように、ノワールは仮にも第二騎士団団長の座についている。加えてエリザベート令嬢とのイザコザを考えると下手に刺激したくない相手ではあった。しかしそんなことを気にしているくらいならもっと早く御城の元へ駆けつけられたのではないかという罪悪感から、自身への不甲斐なさに苛立っていた。
「団長。大丈夫ですか?」
剣を強く握りしめすぎて触れている手を見て、ルークたち騎士は声をかける。
ヴァニタスは一度深呼吸をし、それに答えるように「あぁ」とつぶやく。
「でも、やはりノワール第二騎士団団長がゴジョー様の誘拐犯だったみたいですね。
それにしてもゴジョー様の居場所は分かりましたが、どうやってノワール邸宅に乗り込むんですか?」
ルークがそういうと「それは私に任せてほしい」と騎士たちの後ろから声が聞こえた。
そこには190cmを超える巨漢でファーのついた深紅のマントに鍛えられた胸筋が目立つ白い軍服を着たクーヴェルがそこにはいた。
「こ、国王陛下!なぜこのような場所に。」
「いやいや私もね、ヴァドルから事情は聞いてるんだよ。
カエデ殿を救出しに行くんでしょ?だったら私にも手伝わせてほしい。
それに息子の大事な人だからね。親としては協力するのが当たり前じゃないのかい?」
「陛下...
でもどうするんですか?」
「なに、家には入口があるんだよ。
そこから入ればいいさ。」
「正面から入るということですか?」
「そうだよ。
だって誘拐された可能性があり、我々はその調査に来たんだ。
正面玄関から入って何が悪い?」
そういうとクーヴェルはノワール邸宅へと歩みを進める。クーヴェルは顔だけ振り返り後ろに続けと言わんばかりに顎を動かした。
それを見たヴァニタスと騎士たちはクーヴェルの後を追う。
ノワールの邸宅はさすがは侯爵といったところだろうか。
ノワールはヴァニタスが就任する前の騎士団団長をしており、そのときの騎士としての軍事施策が評価され、その功績として侯爵の位が与えられていた。
その際に広大な土地も与えられておりその土地に邸宅を立てたようで、その広さは16,000坪を超えるほどの大きな家であった。
ヴァニタスとクーヴェルは40人近い騎士たちを連れノワール邸へと乗り込む。
さすがの大人数に気が付いたのか屋敷から使用人が数名出てきたかと思えば、クーヴェルの姿を確認した後、慌てた様子で屋敷に戻っていった。
その後ノワールが不在だったのか、無駄に着飾ったドレス姿の女性が二人、出迎えるように出てきた。一人はあのエリザベート令嬢。もう一人はノワールの伴侶でエリザベートの母親であるプレタ夫人だ。
「これはこれは国王陛下。
屋敷までいらっしゃるなんて、御用がございましたらお呼び出しいただければ、こちらから伺いましたのに。
本日はどうされたのですか?」
「お母さま。ヴァニタス様もいらっしゃるのです。要件は一つでしょう。
ヴァニタス様、私を迎えに来てくださったのですね。
このときを心よりお待ちしておりましたわ。
まさか国王陛下やたくさんの騎士までお連れいただくなんて、これはご挨拶も兼ねてということでしょうか?
突然の出来事でしたので、何も準備ができておらず申し訳ございません。
立ち話もなんですから、どうぞお上がりくださいませ。」
「そうね。
あなたたち、すぐにお茶の準備をして差し上げて。
陛下、ヴァニタス様もどうぞこちらへ。」
ヴァニタスは目の前の女が何を言っているのか理解ができなかった。
と、いうより理解しようとしなかった。
(エリザベートとかいったか。
この女は何を言っているんだ?全く理解ができない。
迎え?
確かに俺は迎えに来たが、それはこんな女ではなくカエデを迎えに来たのだ。
しかも挨拶を兼ねて陛下や騎士たちと一緒に来た、とかほざいたのか?
この女は正気か?
俺が家族や騎士たちに紹介するのはカエデだけだ。)
「おい女。
カエデはどこだ?」
ヴァニタスは部屋に通される前にそう問う。
それに若干の戸惑いを見せながらもエリザベートが答える。
「女だなんて。
ヴァニタス様、恥ずかしいのは分かりますが名前で呼んでください。
私は以前よりヴァニタス様とお呼びしておりますのに。
それとカエデ?でしたっけ?
そのような人物に心当たりがありませんが、ご希望であれば探させますがいかがでしょうか?」
その瞬間ヴァニタスは剣を抜き、エリザベートの喉元へ突き立て、今までないほど低い声で言い放った。
「貴様がその名を呼ぶな。
その名を呼んでいいのは俺だけだ。」
喉元へ突き立てた剣先がエリザベートの皮膚を貫き、赤い雫が皮膚と剣を伝う。
エリザベートは軽い過呼吸状態になりながら、後ずさりするように後退した。
それとほぼ同時に後ろから怒鳴り声がした。
声の主はノワールであった。ノワールはズカズカと音を立てながらヴァニタスに近づくとヴァニタスの剣を手で軽く払った。
「ヴァニタス騎士団長。これはなんの真似だ?
私の娘に剣を向けるだけではなく、傷を負わせるとはどういうことだ?」
「ノワール第二騎士団団長。あなたは今南門の警備にあたっている時間かと思うのだが、貴様こそ、ここで何をしている?」
「今はそんな話をしているのではない。
娘に傷を負わせたんだ。責任は取ってくれるんだろうな。」
「責任を取る必要はない。これが答えだ。
次は俺の質問に答えてもらおうか。
貴様は騎士の仕事を放棄して、なぜこの場にいる?」
「責任を取る必要がないだと!ふざけているのか?」
話にならないノワールに嫌気が差したのか、クーヴェルが口を開いた。
「ノワール騎士団長の娘が私の息子に無礼を働いたのだ。
本来であれば不敬罪のところを、傷をつけるだけで済ませているのだ。
これの何に文句がある?
それに私からも問おう。貴殿はここで何をしている?」
クーヴェルの声も普段御城に話しかけるような柔らかいものではなく、罪人を捌くときのような冷たく、鋭い声色であった。
それに動揺するかのようにノワールは答える。
「国王陛下がお越しになっていると聞いたので、急いで戻ってきた次第にございます。
「そうか、貴殿は私が家に出向くだけで自身の仕事を放棄し自宅に戻るのか。」
「そ、そういうわけではございません。
それに本日は事前のご連絡もなしにいらいているので、何か特別な事情があるのではないかと思い、仕事は部下に任せ急いで戻ってきた形となります。」
「なるほど。
では貴殿の第二騎士団団長としての任をこの場で解き、騎士としての称号も剥奪するとしよう。」
「............はい?」
ノワールは今目の前にいるクーヴェルが何を言ったのか理解できないでいた。
声にならない声で聞き間違いではないかと思いクーヴェルに聞き返す。
しかしそれを冷たくクーヴェルはあしらう。
「聞こえなかったのか?
貴殿はもう騎士でもなんでもないよ。
良かったじゃないか。これでいつでも来客対応ができる。」
「な、なぜですか?
私はこれまでこの国のために騎士として、様々な貢献をしてきました。
侯爵の地位も軍事施策の功績があったからです。
それをなぜ騎士団長としての任を解くや、騎士の称号を剥奪されるというお話になるのでしょうか?
も、もしかしてヴァニタス騎士団長の剣を払い除けたからでしょうか?
それはエリザベートが無礼を働いたとはつゆ知らず、咄嗟に娘を庇っただけです。何も剥奪まですることはないでしょう。」
「そうか。
なら爵位も返してもらおうか。そうなれば土地も返してもらうことになりますね。」
クーヴェルの追い打ちは止まることを知らない。
しかし言われっぱなしのノワールではない。あまり対応に国王陛下に対しても物怖じせず言い返す。
「いきなり家に押しかけ、娘に怪我を負わせるだけにとどまらず、騎士として地位も爵位も土地も返還しろとはどういうつもりでしょうか?
いくら国王陛下とはいえ、それはあまりにも暴君がすぎるのではないでしょうか?」
「貴殿は私の息子に対して様々な妨害工作をしていることを、私が知らないとでも思っているのか?」
それを聞いたノワールは明らかに動揺した。
エリザベートのことを振った男に対する腹いせで始めた妨害工作であったが、あくまでもそうするように指示を出しただけで、ノワールは自らの手は汚していない。
妨害工作の実行には部下や逆らうことのできない民間人を使って行っていた。
そのためノワールが妨害工作の主犯格であることは知られていないはずなのにもかからず、クーヴェルはそれを知っていると言ってきた。
「...なんのことでしょうか?」
「この期に及んで知らないフリか?
では別の質問をするとしよう。貴殿が誘拐したカエデ殿は今、どこにいる?
回答を間違えるなよ。」
「...っ!!!」
ノワールは心のどこかで御城の誘拐についてはバレると思っていた。
あの日ヴァニタスの討伐遠征を見送るために出かけたエリザベートが見たものは、好きな人が自分ではない別の人を抱き寄せてキスをする姿であり、帰ってくるなり「殺してやる」と一言。そうなったエリザベートを止めるすべをノワールは一つしか知らない。それは自らの手で罰を与えることであった。
娘の為を言い聞かせて、1週間かけて御城の行動パターンや騎士団寮での部屋の場所を突き止め、あの日の夜犯行に挑んだ。
誘拐自体は案外すんなり終わった。幸いにもあの日の御城はひどく泣きつかれた様子でよっぽどのことでは起きることはなく、邸宅へと運ぶことができた。
普段であれば、誘拐は部下に行かせていただろうが、今回誘拐相手が召喚者であることを知っていたため誰にも代行の依頼をさせることはできず、ノワール自身で行った。
犯行を誰かに見られた訳では無いが、誘拐したのは召喚者。
すぐに捜索が行われることは目に見えていた。
しかし娘であるエリザベートはそんなことはどうてもいいようで、誘拐してきた御城を監禁し、毎日のように暴力を振るっていた。それをノワールは見て見ぬふりをした。
(そうか、今日すべてを失うのか。
娘の育て方をどこで間違えたのか。
...今考えても何も変わらないか。)
ノワールは膝から崩れ落ち、すべてを諦めたような表情で小さく「地下室にいます」と呟いた。
それを聞いたヴァニタスはノワール邸の使用人たちを押しのけ地下室へと走る。それを追いかけるように騎士たちも地下へと向かう。
地下へ向かうヴァニタスを見てエリザベートは泣きじゃくりながら「なんで、なんでなの?私の何が悪いの?」と繰り返し大声で言っていた。
残った騎士たちにクーヴェルはノワール、プレタ、エリザベートを拘束するように命じた。エリザベートは自分が仕出かした事の大きさを理解していないのか騎士たちに「離しなさい」と叫んでいるが、ノワールとプレタは大人しくしていた。
おそらくはどのような処罰がくだされるのか理解しているのだろう。
(カエデ殿、生きていてくれ。)
クーヴェルは空を見上げて神へと祈った。
■ ■ ■ ■ ■
地下へ進むにつれて、鉄となにかを燃やしたかのような匂いが強くなっていった。
殺されていないことを祈り、ヴァニタスは足を更に早めた。
いくつかの部屋を通り抜け、ようやく見つけた御城を見てヴァニタスは言葉を失った。
そこには大量の血を流しながら横たわっている御城がいた。
足は鎖で繋がれ、脱出できないようになっており、両腕は背中で縛られ、左肩が大きく腫れ上がっていた。おそらく下手に動かせないようにするために脱臼させられたのだろう。上半身の服は剥ぎ取られており、腹は肌の色が黒に近い紫に変わるほど蹴られた後があった。
「カエデ!」
大きくそう叫んだヴァニタスは御城に近づき抱き寄せる。
「カエデ、大丈夫か?カエデ!カエデ!」
「.........っぅ.........ぁっ.........っ」
呼吸していることを確認し、一安心するが抱きかかえたときの手に違和感を覚えた。
生暖かいが、不快感を感じるような感触でヌチャヌチャと音を立てていた。恐る恐るヴァニタスは自分の手を確認するとそこには大量の血液と白く柔らかい何かが付いていた。
ヴァニタスはそれがなんなのかわかっていた。
肉だ。
ヴァニタスはゆっくり御城の背中を確認するとそこには爛れた皮膚があった。雑な焼き印をいくつもされたようで、鉄と何かを燃やしたかのような匂いに正体はこれだった。
ヴァニタスの後を追ってきた騎士たちは御城の悲惨な状況を見て「うっ」と口元を抑える者もいた。魔物との戦闘で怪我など見慣れている騎士が吐くということは相当な状況だということが伺える。
このままでは御城の命はない。
今すぐに病院へ運ばなければ。
しかしヴァニタスが御城の抱きかかえると、どうやっても傷口に直接触れてしまうことになる。現に苦痛の表情を浮かべる御城はすでに声を発することができないほど衰弱が進んでいた。
「誰か風魔法が使える者はいないか?
背中の損傷がひどすぎる。抱えて運ぶのはカエデの体力的にも不可能だ。
誰かいないか?」
切羽詰まる状況はヴァニタスは声を荒げる。
その瞬間、地下室に凄まじい勢いの風が吹いた。
「にぃさん!僕が運ぶ!にぃさんも掴まって。」
危機的状況に現れたのは第二王子のヴァドルであった。ヴァドルは自身の属性である嵐が扱うことのできる風魔法で御城を宙に浮かせると、地下室にいる騎士たちに向け
「天井を破壊して最短ルートでゴジョー様を運ぶ。
極力瓦礫が落ちてこないようにするけど、完全に防ぐことはできないから注意して!
僕もだいぶ頭にはキてるんだ。」と叫ぶ。
ヴァドルは天井に向け手をかざすと風魔法の上位互換である雷魔法を使い、レールガンのような雷の砲弾を放った。その砲弾はノワール邸を貫通し、雲をすら越えた。
そうしてできた外へとつながる道を使い、ヴァドルは風魔法で御城とヴァニタスを支え一気に空へと飛び、そのまま王宮へと3人は向かった。
■ ■ ■ ■ ■
王宮についた3人はそのまま医務室へ向かった。
医務室にはすでに多くの聖属性の魔法が使える者が待機していた。
「これは...?」
ヴァニタスが驚いていると、魔力切れを起こして倒れたはずのヴァルアが指揮を取っていた。その足元には何本もの魔力回復薬のビンが散らばっていた。
「私が事前に呼んでいたの。
ヴァドル!早くゴジョー様を!」
「わかってる!
でもゴジョー様の背中はひどく爛れてるし、正面も怪我をしてるから仰向けもうつ伏せもできない。
僕が浮かせ続けるから、この状態で治療はできる?」
「問題ないわ。
この場にいる全員でゴジョー様を助けるわよ。」
「...全員の魔力のバックアップは俺がする。
俺には聖属性魔法は使えない。俺にはこれくらいしかできない。
カエデは俺の大切な人なんだ。救ってほしい。」
そしてヴァニタスは医務室にいる全員に頭を下げる。
「礼ならあとでたっぷりもらいますからね!」
「人を救うために聖属性魔法があるんです。
任せてください!」
「聖人様の命を救った医者として大々的に俺たちのことを発表してくださいよ!」
「..よし!始めるよ!」
ヴァルアの一声で全員一斉に御城へと手をかざした。
ヴァルアは精霊を介し生命力を付与し、ヴァドルは御城を浮かせ、医師たちは聖属性魔法で治癒を施し、ヴァニタスはその全員の魔力をバックアップする。
御城はほぼ瀕死の状態であり、そのためその分魔力の消費量も異常であった。ヴァニタスは何度も魔力回復薬を服用し、魔力を送り続けた。
御城の治療は7時間ほどかかった。
「峠は越えたみたいだね。
みんな本当にお疲れ様でした。」
「呼吸も安定してきてます。
あとは本人が目覚めるのを待つしかないですね。」
「ヴァニタス様、申し訳ございません。
聖人様の背中の傷ですが、完全には治癒することはできませんでした。」
聖属性魔法の治癒は完全ではない。
聖属性魔法の本来の能力は自己治癒力の向上や促進であり、魔力を糧に怪我を修復するものではない。そのため欠損した部位を修復したり、自己治癒が機能しない髪や壊死した組織の修復は不可能である。そういった類の修復が可能なのは召喚者のみが扱える聖なる力だけだ。
そのため皮膚が爛れ、細胞が壊死してしまった御城の背中は、ある程度回復はするも、背中には無惨で痛々しい傷跡が残ってしまった。
「謝ることはない。
ここにいるみんなには感謝しかない。
カエデを救ってくれて本当にありがとう。」
「ヴァニタス。王族が何度も頭を下げるものじゃないですよ。
皆さん今日は疲れたでしょ。今日はもう休みましょ。
...ヴァニタスはどうする?この一週間ろくに寝てないでしょ?それに魔力をバックアップするためにどれだけの魔力回復薬を空けたの?
本当はあなたに一番休んでもらいたいんだけど。」
「...カエデの側にいてやりたい。」
「...そうよね。
でも、あなたが倒れて一番悲しむのはゴジョー様でしょ。って今のあなたに言っても無駄よね。
わかったわ。
ただし適度に仮眠したり、軽くても食事は取ること!
この部屋は当分誰も出入りできないようにするから、気が済むまでそばにいてあげなさい。
そして目覚めたら、約束通りゴジョー様のことを紹介すること!
いいね?」
「...はい。ありがとうございます。」
ヴァルアは「私たちは先に休ませていただきましょうか。」と言い、ヴァドルと医師たちを連れて医務室から出ていった。
ヴァニタスは医務室から出ていく後ろ姿を見送ると、御城が寝ているベッドの横にイスを置きそっと座る。布団の中から御城の手を取ると祈るように握りしめる。
「...俺のせいでごめん。
あの日カエデが付けていたピアスを見て、カエデは俺のことを不要に思ったんじゃないかって思ったんだ。ピアスの魔道具にカエデの横に立つ権利と取られたみたいですごく嫌だった。
あれは嫉妬って言うんだってね。俺は知らなかったよ。
嫉妬が苛立ちに変わって、カエデを傷つけた。ほんとにごめん。
しかも俺が討伐遠征に行くときにキスしただろ。あれのせいでこんなひどい怪我を負うことになったんだ。
全部俺が悪い。
全部俺が悪いんだ。
許してもらおうだなんて思ってない。一生かけて償うよ。
許してもらわなくていいから、もう一度カエデと話したい。
カエデの名前を呼びたい。
カエデの声が聞きたい。
カエデの行きたいところに連れていきたい。
カエデの作るご飯が食べたい。
カエデの笑ってるところが見たい。
カエデを家族に紹介したい。
カエデの作るワガシが食べたい。
カエデと共に生きたい。」
ヴァニタスは頬を伝う涙を一切気にすることなく、ヴァニタスに思いの丈を伝える。
そしてヴァニタスも御城が助かった安心感と魔力切れや睡眠不足による身体の不調により、糸の切れた操り人形のように御城の眠るベッドに顔を埋めた。
【後書き】
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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もし気に入っていただけましたら、残して言っていただけると嬉しいです。
よろしくお願いいたします。
それではまた次のお話でお会いしましょう。