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ラッダイトだけはご容赦を  作者: フィーネ・ラグサズ
第1章 信頼の根

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第3話 見知らぬカレー

 "ワル"さんの2日目はエフティーさんの案内で地上にある農園の見学をします。居住エリアの地下に食料工場もあるのですが、人工光源と室温管理でエネルギー消費が激しく、収穫量も芳しくないという課題がありました。解決のため、地上開拓案を提案し、実行に移したのがエフティーさんです。誰もが認める農園のリーダーであり、このコロニーの重要な存在です。そんなエフティーさんですが、新人の案内も率先して行います。偉ぶらないところも皆が彼を認める理由なのでしょう。


「地上から戻るとき、また洗われるのか?」

「軽くシャワーは浴びるが――最初に来た時のような洗浄はない」

「それを聞いてほっとしたぜ。毎回、あの調子では身体が溶けてなくなっちまう」

「確かに。あれを毎日は勘弁だ」

「あんた、経験あるのか?」

「俺も他所から来たんだ。リーダーと言われているが、気にせずに話してくれ」

「ああ、わかった。で、今日の飯は何なんだ?」

「カレーだよ、野菜が溶けるぐらい煮込んだ」


 エフティーさんの言葉に"ワル"さんが笑いました。関係はよさそうです。昨日の私への態度はなんだったのでしょうか。

 日が沈む前に撤収作業がはじまり、簡単な洗浄後は食事と余暇時間です。地下で食品加工などをしていたグループと交わりました。


「今日は天気が良かった。風も気持ちよかった」

「お、いい汗かけたか。お前たちのために上手い飯を作ったぞ」

「やっぱ、仕事の後はそうじゃないとな」

「ちなみに変な顔したピーマンがいた」

「溶けて見えねえだろ」

「それはどうかな?」


 会話の中に"ワル"さんも混じってます。その様子を眺めているカメラと"ワル"さんの目があいました。ピントをあわせると同時にすごい目で睨まれました。私だけ嫌われているようです。私がAIだからダメなんですか、差別ですよ、差別。


「何かあったのか?」


 カメラを睨んでいる"ワルさん"にエフティーさんが声をかけました。


「ん、カメラが多いな、と思ったんだ」

「確かに多いが常に動いているのは共有部だけだ。私室のカメラは条件が満たされない限り動かない」

「普段は見てねぇのか? 何の冗談だ」


 スプーンを止めて、"ワル"さん、思わずエフティーさんを見てます。


「俺も最初驚いた。ここでは住人のプライベートが尊重されるんだ」


 納得がいかないのか、"ワル"さんが皿に目を落としました。プライベート尊重しないとラッダイトされるのですよ。ちょうど、そういう趣旨の話をエフティーさんがしてくれました。


「じゃあ、人間がここでは偉いのか?」


 "ワル"さんの問いに肉多めの皿を持ったチャーリーさんがきました。誰とも打ち解けられて、失敗してもくよくよしないで次にいくタイプの住人です。


「んー、ちょっと違うよ。横いい?」

「ああ、詳しく聞きたい」


 チャーリーさんは"ワル"さんの横に座って、まずはカレーを一口食べてゆっくり味わってます。データベース上にあったレシピから調理法が復元されて、いまやコロニー「アスチルベ」の名物料理になっています。改良が何度も加えられていて、味は、私もおいしいと思います。種族による味覚の違いはあるとは思いますが。


「ええっとね。うちの管理者はあんま細かいこと言わないんだよ。好きにしろーって感じで」


 チャーリーさんはコップの水を飲み、一息つきました。


「カメラで常時見張って、規律に反したらすぐに駆けつける感じでもない」

「なら、管理者は何をするんだ?」

「僕たちじゃ手に負えないようなトラブル。たとえば、居住エリアの環境維持システムの調子が悪いとか」


 カレーの皿を空にしたエフティーさんが続けます。


「地上で畑を作りたい、といった提案の対応だ」

「提案? 住人が? 管理者が?」

「提案に乗るのさ。ここのは管理者は。待ってくれ、住人が?」


 エフティーさんが主語の違いに気が付きました。いい観察眼です。


「よそのコロニーをいくつも見てきた。どいつもこいつも管理者に従う癖に陰口は達者なんだ」


 "ワル"さんはカレーを食べながらしゃべり続けます。お行儀悪いですよ。もしかすると、照れ隠しなのかもしれせん。


「もちろん、住人の意見なんて知ったこっちゃないって管理者もいた。そりゃ、命が危なくなったりもするんだ。直接、言えねえのは、まだ、わかる」


 コップの水を飲み干したエフティーさんが"ワル"さんのほうを向いて話を聞いています。


「意見は受け付けると明言してる管理者が相手でも、陰口ってのはどうなんだってな」

「その気持ちは、わかる」


 エフティーさんが静かに頷いています。外から来る人たち、みんな反骨精神や個性でいいスープ作れますからね。

 "ワル"さん、空になった皿にスプーンを置いて、


「表向き従順で、内向き反逆的な連中が嫌いでたまらなかった。気が付いたら追い出されて転々としていたわけだ」

「じゃあ、ここは気に入ると思うよ」


 チャーリーさんが笑いながら言いました。やや落ち込み気味の"ワル"さんとのコントラストが激しいです。


「皆、ストレートだからか?」

「そう、ストレート。まぁ、多少は抑えたりすると思うよ、獣じゃないし」


 チャーリーさんの言葉を聞いて、"ワル"さん納得したようです。なるほど、住人が従順な姿勢だったのが受け付けなかったのですね。えー、では、なんで、またレンズを睨んでるんですか。


「ここの住人は信じる。でも、管理者はまだ信じないぞ。管理者ってやつは……いや、悪い。今のは忘れてくれ」


 聞いていたチャーリーさんとエフティーさんがカレーの味に話題を切り替えました。"ワル"さんのまあまあ、だな、と言いながらも笑顔なので、良かったのでしょう。

 管理者に嫌な思い出があるのは間違いなさそうです。住人と人類の文化の保護のため、管理者は時に非情な判断を下すこともあります。そういった事象に巻き込まれた可能性が高そうです。全員と仲良くできるとは思ってませんが、これはしばらく、項垂れててもいいですよね。ええ、もののたとえですよ、もののたとえ。

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