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ラッダイトだけはご容赦を  作者: フィーネ・ラグサズ
第3章 自治の茎

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第18話 コロニー拡張宣言

 管理者室でエフティーさんたちと話してから1か月が経ちました。

 その間にいろんな人たちが動き出していることがわかりました。担当している施設をよりよく運用しようとする人たち、季節の節目を祭りで祝いたい人たち、星を見たい人たち、地上で暮らしたい人たち……はっきりとはしないけれど、大小さまざまな集まりが生まれていたのです。

 その集まりの間をスパークはチャーリーさんと一緒に話を聞いて回っていました。近い目的の人たちを繋いだり、ぶつかりそうな人たちの間に入って調整しています。

 最初は人のために動いていると思ったのですが、スパークの話を聞いているとどうやら違うようです。

 何が目的ですか、と聞いたら、スパークはこう答えました。


「いろんな人たちが楽しく暮らせる場所を作るんだ」


 前に聞いた時は作りたい、でした。それが今はしっかりとした目的になり、行動に移っています。私は予定を繰り上げて、コロニー拡張の宣言をすることにしました。あまり、スピーチは得意ではないのですけど。

 エフティーさんに話をしたら、あっという間に準備を整えてくれました。

 宣言の当日、作業時間が終わるのを見計らって、私はアルバでステージに上がりました。


『私はコロニー「アスチルベ」管理者としてではなく、スノードロップとしてこれから皆さんにお話ししたいことがあります』


 ステージのそばに多くの人が集まっています。多くの人がこの通信を聞いているはずです。

 すでに匿名チャットの流量が増えていると、通信担当の統括ユニットから報告が来ました。


『――今の皆さんの変化に対応するには物理的、文化的、精神的、様々な仕組みや枠組みを変える必要があります。実現するための方法のひとつがコロニー拡張計画です。これからどうしていくかは皆さんと話し合いながら決めていきます。これからどうしたいのか聞かせてください』


 皆さん一斉にしゃべりだそうとするので、あわてて止めました。聞かせてください、といったのがよくありませんでした。


『話す相手は私ではなく私たちです。専用チャットを開設しました。そちらに書き込んでもらえると嬉しいです』


 今までにない勢いでチャットが流れ始めました。あまりのはやさについていけないのか、広場にいた人たちが集まって話し始めました。全体で見ればやり取りは増えていますが、これではチャットとエリアの単位に分断されて、意見が発散してしまいます。

 誰かがチャットに「顔出せよ、顔」と書き込みました。いいアイディアです。さっそく、顔と名前が表示できるチャットを立ち上げ、そちらに誘導します。

 それでも流量はあまり変わりません。まさに意見と感想の奔流です。

 奔流の中からある程度、まとまっているアイディアや感想を掬って、チャンネルを作っていますが、追いつきそうにありません。


「スノードロップ、チャンネルの新規作成権限が欲しい。チャンネルを作りたい」


 渡りに舟とはこのことです。即座にエフティーさんにチャンネルの新規作成権限を付与しました。


「感謝する。――他のユーザーにチャンネル作成権限が付与できるのは意図的か?」


 エフティーさんには必要な権限です。


『意図したものです』


 軽く礼をしてエフティーさんは広場の奥に走っていきました。広場組をチャット組と合流させるつもりのようです。

 エフティーさんにマイクさんが駆け寄りました。


「こっちにも権限くれ、インフラがやべえ」


 マイクさんは端末の画面をエフティーさんに見せてます。


「他より先にいっているな。――権限を付与した。確認してくれ」

「助かった。火付け役がいる。とんでもねえガキだ」


 インフラのチャンネルを覗くと、すでに運用と保守チーム、改善チーム、新技術開発チームにわかれて検討を始めています。

 工場のチャンネルでは各工場のチームリーダーが集まり、どうやって余力を作るかの相談をしています。

 インフラの改善には工場チームの力が必要不可欠です。

 両方のチャンネルに互いにどのようなことを考えているのか、軽く共有すると今後の動きがスムーズになるかもしれませんよ、と控えめな提案をしたら、真っ先にスパークが動きました。工場チームのチャンネルに参加し、インフラチームは電力供給の改善を考えていて、それには工場チームの協力が必要不可欠であること、成功すれば工場チームの生産性が向上すると協力する利点を説いています。

 スパークは工場チームの些細な疑問にも答え、疑問が工場チーム固有のものになっても相談に乗り続け、工場チームとの協力関係を構築してしまいました。予想外の成果です。

 私はステージから下りて、広場の奥にいるエフティーさんとチャーリーさんに話をしに行きました。


『ちゃんと話はできてますか?』

「できているとも」


 エフティーさんは地上コロニー建設チャンネルを見せてくれました。いくつものチームにわかれていますが、チームの差を気にせずに意見や質問が飛び交っている元気なチャンネルです。


『約束はこのことでしたか』

「何のことだ?」


 マイクさんがとぼけます。二人ともチャンネルに入ってとりまとめをしているという証拠が目の前にあるので無意味です。


「土を耕し、種はまいた」


 エフティーさんは感慨深そうに呟きました。


「そこから先がなげえぞ」


 マイクさんが返します。眉間に皺が寄っていますが、目元は笑っていました。

 広場のスピーカーからチャーリーさんの声が響きます。


「サンドイッチ作ったから食べにきて。それから新メニューの試食もして」


 広場の人、部屋にいた人が動き出し、今までとは違う流れが生まれました。

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