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ラッダイトだけはご容赦を  作者: フィーネ・ラグサズ
第3章 自治の茎

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第17話 疑問と答え

 管理者室にはエフティーさん、チャーリーさん、マイクさん、それにスパークと錚々たるメンバーが揃っています。中央に座るエフティーさんがとても真剣な眼差しで私を見て言いました。


「君が権限委譲する理由を聞かせてほしい」


 駆け引きなしの問いです。


『私だけが知っていて、皆さんが知らない状態が不健全だと思ったからです』

「それだけなのか?」

『理由はそれだけです』


 マイクさんが鼻で笑ってから、口を開きました。


「理由は、か。じゃあ、目的があるんだろ? 宇宙に行きたいとかよ」

『目的はあります。でも、管理者を辞めません。――コロニーの管理中枢である以上は、辞めようがありません』

「……でもよ、管理者と呼ぶのは違うだろ」


 マイクさんの問いに考えます。

 私が私である限り、管理者の権限は手放すことはできません。

 そう、私が持っているのは権限です。私と、権限は別のものです。

 問いの答えは単純です。


『なら、スノードロップと呼んでください』

「ねえ、スノードロップ。目的の話がまだだけどサプライズなのかい?」


 チャーリーさんは微笑をしたまま言葉を続けます。


「サプライズには、いいのと悪いのがあるよ」

『悪いサプライズではないのですが、皆さんには先に共有します』


 少し間をあけて、


『コロニーの拡張を考えています』


 しん、と部屋が一瞬だけ静まり、すぐにエフティーさんが言いました。


「拡張か。悪くはないが……」


 腕を組んで考え込むエフティーさん、逆に腕組みを解いてテーブルに肘をついて身を乗りだしたマイクさんが言います。


「どうして、今なんだ?」


 問いに答える前にチャーリーさんとマイクさんがほぼ同時に喋りました。


「今だからだよ」

「今こそ、じゃない?」


 今だから、この話ができるのです。


『権限を委譲する第1段階、責務と権限を知る第2段階、責務と権限で何をしたいのか考える第3段階、その目標に向かって小さく計画、実践、評価する第4段階です。』

「先が思いやられるぜ」

『すでに第2段階まで進行しています』


 皆さんそれぞれ自分に何ができるかを知り、何かをやりたいか考えつつあります。目の前にいる四人は一歩先に進んでいます。


「なるほど、君がやりたいことは理解できた。しかし、目標が欠けている」


 エフティーさん、鋭いです。


『それは皆で考えます』

「スノードロップ、その皆の中に君自身は入っているのか?」


 その質問に私は思わず、目を丸くして、それからすぐに微笑みました。


『はい』

「それを聞いて安心した」


 一拍の間をあけて、エフティーさんは言葉を続けます。


「理には適っている」

「とんでもなくでかい話だぞ」


 マイクさんが指摘します。とても、大きくてあいまいな話です。


「マイク、俺たちは連作障害を乗り越え、農園を大きくした」

「畑とコロニーじゃわけが違うだろ」

「でも、やることは一緒だよ」


 スパークの言葉に、チャーリーさんがうんうん、と頷いて、


「フラクタル構造か。いい洞察だね」

『そうです。同じパターンを繰り返して成長するんです』

「ようやく、言いたいことがわかってきたぜ。俺たちを共犯者にするつもりか?」


 マイクさんは鋭いですが、切りすぎです。


『私は私の考えを共有しただけです。もう一度いいますが、どうするかは皆で決めます』

「安心しろ、マイク。俺たちはいつも通りでいい」

「いつも通りだって? そりゃ、似たようなもんかもしれねぇが……コロニーじゃ規模が違うだろ」

「規模が大きいなら、小さくしてやればいい」


 エフティーさんは確信に満ちた声で言いました。小さな畑を大きな農園に育てたエフティーさんならではの視点かもしれません。


「困難は分割せよ、だね」


 とチャーリーさんが言います。聞くに徹していたマイクさんが口を開きます。


「そいつは、スノードロップの言っていた段階をさらに砕いて」


 マイクさんは言葉を探すように視線を宙にさまよわせて、


「俺は今日何をするって言える状態にするってことだぞ?」


 マイクさんはエフティーさん、チャーリーさん、スパークを順に見ます。最初に口を開いたのはスパークです。


「大ごとだし、大変だってことはわかってる。それでも、この先を僕は見てみたいんだ」


 マイクさんは勘弁してくれ、という顔でエフティーさんを見ました。


「農園に家を建てたことを覚えているか、マイク」

「忘れるもんか。――その時がもう一度、来たってことか」

「何があったんだい?」


 チャーリーさんがマイクさんに尋ねました。マイクさんはちらっと、エフティーさんを見てから、


「その辺の岩と、木で家を作ろうとしたんだよ。ところが、うまくいかなかった。岩は形が悪いし、木は育ちが悪い」


 木もマイクさんに育ちが悪いとは言われたくないでしょう。


「いろいろあったが、まぁ、最終的に俺たちは、俺たちの家を建てたんだ」

「あそこまで障害が多いとは思っていなかった」


 エフティーさんが素直に見通しの甘さを認めました。


「だが、俺たちは乗り越えた――」

「乗り越えたときを思い出せ、か」


 続きの言葉をマイクさんに奪われてエフティーさんが笑います。


「そうだ。その時にどうやったのかを皆に見せるんだ」

「背中で語るのかい?」

「近い。行動で示す」


 エフティーさんははっきりと言いました。チャーリーさんは二人の言葉にうなずき、スパークは目を輝かせて楽しそうに聞いています。もうすぐ第3段階に突入しそうです。


「ああ、マイク、あの約束は覚えているか」

「覚えてるよ。お前はとんでもねえ奴だ」

「どんな約束?」


 スパークがマイクさんに聞きました。


「そいつは後のお楽しみだ」


 なんのことかよくわかりませんが、私も楽しみが一つ増えました。

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