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ラッダイトだけはご容赦を  作者: フィーネ・ラグサズ
第3章 自治の茎

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第15.5話 彼のやり方

 コロニー内はスノードロップから施設の管理権限を渡されたことで、いかに使いこなすか、どうやっていくかの議論で盛り上がっている。権限を渡されるかでいうと、チャーリーはすでに権限を託されていた。コロニー内の食事は彼がいつの間にか率いている調理チームが提供しているのだ。食糧生産工場でレトルトパウチも作られるが、こちらは味の評判が悪く、非常食扱いになり、ストック品の賞味期限に合わせて放出される。スノードロップや誰にやれ、と言われたわけではない。居心地とやりがいを考えたら、今の状況になっただけだ。

 フライパンの上でサイコロ状に切った培養肉の火加減を見ながら、チャーリーはほかの住人たちの頑張りと自身を比較した。他の住人たちは変わろうと頑張っているが、自分はこのままでいいのだろうか、と悩んでいると、エフティーとマイクがやってきた。地上コロニーの具体案を話し合っているようだ。マイクの批判にエフティーが検討が必要だ、と頷いていた。彼らのように前に進むことがいるのではないか。


「いい匂いだな。何を焼いてんだ?」

「培養肉のチームとの合作、サイコロステーキだよ。端材を接着したんだ」

「あんたのそういう姿勢は好きだぜ」

「ありがとう。せっかくだから試食してくれないか?」


 焼き上がったサイコロステーキをさらに盛り付け、最後に飴色になるまで焼いたみじん切りの玉ねぎとソイソースを混ぜたタレをかける。

 味見はして美味しいと思ったが、2人がそう思うかは別だ。この瞬間が一番緊張する。


「これは……」


 エフティーは目を閉じて、味わうように咀嚼する。ゆっくりと飲み込んで、


「赤身と脂身を層にしたことで、噛むたびに旨みが広がる。これは、次の名物料理になる」

「端材でも、肉は肉だもんな……」


 マイクもコメントすると、皿の上のサイコロステーキを勢いよく平らげた。互いに同じ量を食べられるよう配慮するのが彼ららしい。


「美味しかった。これで明日も戦えそうだ」


 エフティーの言葉にチャーリーは、


「何と戦うんだい」

「マイクとだ」

「他にもいるだろ」

「いずれにしても手強い」

「冗談だよね」

「真顔で言うのやめろよ」


 マイクの指摘にエフティーは沈黙した。チャーリーも冗談なのか本気なのか悩んだが冗談だと思った。彼らが議論を深めるために異なる意見を出し合うことは知っている。


「マイクの指摘が手強いのは事実だ。しかし、その指摘を無視すれば、失敗や困難と向き合うことになる

「オーバーな表現だぜ、そいつは」

「みんなすごいよ」


チャーリーの言葉に二人は彼を見た。


「俺から見ればあんたは十分すごいぜ」


 マイクは視線を何も残ってない皿からチャーリーに移して、


「このサイコロステーキだっけか。培養肉のチームと協力して作ったんだろ?」

「ああ。彼らが端材を有効活用したいと言うから、一緒に悩んで、くっつけてみたら、と言っただけだよ」


 チャーリーの言葉にエフティーは目をわずかに見開いた。


「たった一言で培養肉チームに解決法を示した。一見簡単だがとても難しいことだ」


 エフティーまで持ち上げるものだから、チャーリーは首を横に振った。ちょっと思いついたことを言って、それを培養肉チームが試行錯誤の末に実現したのだ。賞賛されるべきは彼らだ。


「しかも、一緒に悩むってのがな」


 別の角度から切り込むのは慣れているが、一緒に悩むのは難しい。それが効果的なことはマイクも理解している。しかし、性に合わないのだ。


「同じ目線じゃないと見えないものはたくさんあるだろう?」

「それが貴重なスキルなんだ、チャーリー」


 エフティーは真っ直ぐチャーリーを見て言った。


「そういってもらえるのは嬉しいんだけど」


 チャーリーは二人に何を悩んでいるか話すことにした。何か得られることがあるかもしれない。


「もっと何かできることはないか、か」


 エフティーは目を閉じて何かを考えている。マイクは空になったら皿を見て、


「新しい料理を作るのは、いつも通りか」


 新しい料理はたまに外れることもあるが、日々の生活に刺激という彩りを加えてくれる。もっと外れが減るといいのだが、とマイクは思いながら、言葉を続ける。


「すでに頑張ってるぞ、あんたは」

「んー、もっと、みんなの力になれないかな」

「もし、何かを追加するなら……」


 エフティーが確認するようにゆっくりと言った。


「新しい料理を考えるとき君はどうしている?」

「え、もちろん、一人だよ。自由時間に作ってなんて頼めない」


 自由時間は好きに過ごすものだ。チャーリーは好きでやっているから問題ないが、ほかの人を巻き込むとしたら話は別だ。


「作業時間内に人を巻き込んでほしい」

「え」

「君のやり方を周りに教えるんだ。試行錯誤を通しながら、同じ目線で考えて、はじめて見えることがあるのだと」


 エフティーの仰々しい物言いに思わずチャーリーは笑ってしまった。


「スパークも言ってたぞ、一緒に考えてくれて嬉しかったって」

「そうか、そういうものなのか」


 最初からやることは自分の中にあったのだ。同じ目線で見ると違う世界が見えると教える。あるいは、もっと、いろんな人と同じ目線で悩み、考える。


「ありがとう、話してすっきりした」

「でも、無理はしないでくれ。君が倒れると皆、困る」


 チャーリーはフライパンに残った油を紙でふき取りながら、


「倒れないようにちょっと、一工夫してみるよ」

「一工夫ってなんだよ」

「秘伝のたれを伝えるんだよ。いいレシピの書き方もわかったしね」


 こうやって、話すことで気が付くこともある。自分が話す側になってチャーリーはそれを理解した。

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