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第12話 プロトプラネタリー・ビジョン

 キーベックさんからそろそろ、スパークには一人の部屋が必要だ、とアドバイスを受けました。皆さんと同じように検索し、噴水広場の近くの部屋を確保しました。管理者の権限は使っていません。私がちょっとはやいだけです。

 この前の歴史の授業の後、コロニーの各施設の見学に行ってもらいました。それぞれの施設で何をやっているのか深く聞いて、何が不思議で何がわかったのかをスパークは楽しそうに語ってくれました。そのタイミングで見学した施設の人たちからこれは何かの試験か、と問い合わせが何度か来ました。その度に私は、試す意図は一切ないこと、スパークの問いに真摯に応じてくれたことへの感謝を伝えました。途中から問い合わせが無くなったのは、スパークの好奇心旺盛さが広く認識されたからでしょう。各施設の見学ツアーは平均4日ですが、スパークは1週間かけて終えました。

 ツアーが終わってから数日間は部屋にこもって作業をしていたようです。詳しくは言葉にできないと言っていたので、おそらく思考を整理していたのでしょう。そっとしておくに限ります。整理が終わったのか、スパークの質問が表面的なものから概念的なものに変わって来ました。それぞれのエリアにどんな役割があるのか、どんな設備があってどのように繋がっているのか。コロニーの各部分を理解したから今度は全体像を知りたい、と思っているようです。


「発電システムが止まったらどうなるの?」

『予備発電システムに切り替わります。その間に発電システムの復旧を行います』

「できなかったり、予備電力システムも止まっちゃったら?」


 予備発電システムも止まれば、さらにバッテリーに切り替わり、時間の猶予が生まれます。スパークが聞きたいのは全てが止まった時、最悪な状況が来た時にどうなるかでしょう。


『電気はもちろん、電気に依存している水も空気も止まります』

「電気は、すごく大事なんだね」

『ええ、とても、大事なものなんですよ』


 スパークの質問に答えていると、自分はどのような存在なのか問われている気分になります。

 昼の噴水広場は食事中の人で賑わっています。噴水の縁に二人で腰かけて、私はアルバの目でスパークを見ながら問いました。


『どこに興味がありますか?』

「発電システム」


 はっきりと言いました。問いが抽象から具体に戻って来ました。これは大きな変化です。


『それは、どうしてですか?』

「コロニーの根っこだから」


 発電システムの役割を表す適切な例えです。


「農園でエフティーさんが教えてくれたんだ。根が大きくなって、葉っぱも大きく育つんだって」


 楽しそうにスパークは言いました。


「そうです。発電システムはコロニーを支える根です」


 次は丁寧に地下インフラエリアを案内しましょう。


『インフラエリアは最下層にあります。コロニーの活動に必要な設備が揃った重要なエリアです』


 空中投影ディスプレイにインフラエリアの概要図を表示します。中央の巨大な球体が核融合発電システム、周囲には水再生循環システム、空気再生循環システムとコロニー内の生命維持に必要なシステムが並んでいます。


『ここで電気を作り、水と空気を綺麗にして循環させています。定員の1.2倍の人口になっても生活が可能です』

「すごい……もっと、大きくなったらどうなるだろう?」

『大きく、ですか? このコロニーは拡張を想定した作りになっていません』


 シェルター型のコロニーは核攻撃を想定した堅牢なつくりになっています。引き換えに区画を大きくするのは難しいのです。


「窮屈そうに見えたから。そうだ、外はどう? 農園はどんどん大きくなってるよ」


 スパークは天井を指さしました。農園は今も拡大と改良が続いています。確かに外なら自由に家も工場も各インフラも自由に配置ができます。今でもインフラの性能向上のため、改良を施し続けていますが、性能向上に限界が見えてきました。別のアプローチ、つまり、地上に新しいコロニーをつくるのは素晴らしいアイディアです。皆さんが自律して暮らせる拡張性の高いコロニーを作りたい、と思いました。しかし、実現するには多くのリソースが必要です。エネルギー、資材、人、無人作業機械、時間……上げだすときりがありません。将来やりたいことリストに入れて、思考を今に向けます。


『確かに外はいいアイディアです。ただ今すぐ形にするのは難しいです』

「……お母さん」


 心配そうにスパークが覗き込んできます。私は笑顔を作って、話題を変えます。


『話がそれてしまいました。発電システムのどこに興味がありますか?』

「全部」


 全部というのも範囲が難しいです。どのあたりまで含まれているのか確認してみましょう。


『全部というのは構造や原理も含めてですか?』

「うん。核融合炉も、熱発電機構も、電線も、動かし方も!」


 スパークは身を乗り出して、アルバの顔を覗き込んで勢いよくいいました。とても意欲的です。文字通りの全部です。しかも、動かし方まで含まれています。


『どうして、ですか?』

「お母さんの力になりたいから」


 真っすぐ私を見て、明るく笑いながらスパークは言いました。


『嬉しいです、スパーク』

「いつか、おっきなコロニーを作りたいんだ」


 私と同じことを考えているのかもしれません。思わず聞き返します。


『どんなコロニーにしたいですか?』

「いろんな人たちが楽しく過ごせるコロニー! 外が見えて、でも安心もできるような!!」


 夢と言えるほどの大きな目標です。でも、スパークたちとなら実現できるかもしれない、とそう思いました。


『たくさんの人ではないのですね』


 スパークの言葉は数だけではなく、様々な性格や考え方の種類を指しているように聞こえます。


「うん。ここにもいろんな人がいるでしょ? キーベックさんはいつも元気で僕が何を聞いても答えれくた。チャーリーさんは一緒に考えてくれるし……」


 ふいに言葉が途切れました。何か言葉を選んでいるようです。邪魔をしないようそっと続きを促します。


「マイクさんは怖いけど、でも、ちゃんと教えてくれるし」

『いい人ですよ。いつも、別の角度から見てきますが』

「別の角度?」

『この噴水をここから違う位置から見ると印象が変わりますよね』

「うん」

『同じ意見や概念でも角度を変えると、見え方が変わるのですよ』


 この概念を教えるには少しはやいかもしれません。ところでマイクさんはいったい、スパークとどんな会話をしたのでしょうか? 農園のことを聞かれて、答えたのかもしれません。一緒にエフティーさんもどうして農園を作ったのか、これからどうしたいのかの話もしてそうです。それなら彼が地上に興味を持つのも理解できます。ただ、農園はチャレンジ精神旺盛な人たちの集まりなんですよね。


「おっきなコロニーを作るにはいろんなものが必要だと思うんだ。きっと、新しいものも」


 スパークは建物、壁の配管、天井の照明、噴水広場を行き交う人々、最後に私を見ました。


「そのためには今、あるものを知って、誰かに教えることが大事なんだと思う。僕が教えてもらったように」


 スパークの成長は私の予測をはるかに超えていました。嬉しい予想外です。

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