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ラッダイトだけはご容赦を  作者: フィーネ・ラグサズ
第2章 知恵の枝葉

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第9話 大地の恵み

 クストスは収穫物の入ったコンテナと一緒に居住エリアに向けて運搬用のエレベーターで移動中です。洗浄ゾーンに入る前にクストスが身体を震わせて、土や砂を落とします。私ならジャンプして落とすのですが、どこで覚えているのでしょうか。ジャンプより効率はよさそうなので、私も次は同じようにしようと思います。エレベーターが洗浄ゾーンに入りました。大きなごみや汚れを圧縮空気で吹き飛ばします。次に殺菌のために消毒液をたっぷりかけます。消毒液を大量の水で洗い流した後、乾燥のために圧縮空気をかけて仕上げです。コンテナの中は地上の農園で消毒が行われているので、ここでは省略です。

 エレベーターは洗浄ゾーンを抜けて、居住エリアに到着しました。隔壁が開くと、キーベックさんの操るフォークリフトがコンテナを居住エリアの加工工場に運んで行きます。ついでにクストスも載せて運んでもらいました。加工工場内では皆さんが収穫物を仕分け、洗浄、加工を手分けしてやっています。地下の工場が自動化されていることを考えると、ここは加工場と表現したほうが適切でしょう。ここでアルバが到着したのでアルバ視点に切り替えます。目線が高くなり、皆さんと近くなりました。クストスは運搬を頼まれたので後はお任せします。


「やあ、スノードロップ。今日は両方で来たのかい」


 チャーリーさんが声をかけてきました。カメラにも向けて手を振ってくれるところがとても、律儀です。


『はい。人の感覚で確かめたいことがありましたから』

「ああ……」


 あの人参に心当たりがあるのでしょう。とても、苦いものを食べたときの顔をしています。


「あれを食べたんだね」

『食べました。大変、まずい状況です』

「煮ても焼いても駄目だった。ちなみに生はもっと、ひどかった」

『あれを食べようとしたんですか?』

「エフティーたちが手塩をかけて育ててくれたものを捨てるわけにはいかないよ」


 近くでじゃがいもを切っていた人たちがそうだ、そうだ、と頷きます。


「流石に手に負えなかったけどね」


 チャーリーさんは笑いました。


「でも、マイクがいい案を持ってきたそうじゃないか」


 とセブンさんが大鍋を混ぜる動きを止めずに言いました。もう地上での動きが伝わっているようです。


『はい。原因にあたりがつきました』

「3か月後が楽しみだよ。ああ、そうだ、スノードロップ。せっかくだから、名物のカレーを食べていってくれよ」

『ありがとうございます。辛口ではありませんよね』

「はは、野菜の味が楽しめる甘口だよ」


 セブンさんの大鍋からカレーの香りが漂ってきます。収穫から加工、調理の流れは一通り知っています。地上農園ができてからの数年間続けられてきたことです。農園の計画もエレベーターの運搬計画も居住エリアの一部を加工工場にするのも協力しています。

 広場にテーブルと椅子を並べたり、配膳の手伝いをしながら私は、アルバを通してみるとこんなに解釈が違うのかを考えていました。

 チャーリーさんがぱんと手を鳴らして、まわりの視線を集めます。


「さて、みんな、冷めないうちに食べよう」

「いただきます」


 あちこちで声がきこえ、私も習ってつぶやきます。


『いただきます』


 スプーンで口に運んで、豊かな香りと味に衝撃を受けました。材料や調理法が大きく変わったわけではありません。アルバの味覚も変えていません。変わったのは私自身です。今日見てきたものと皆と食べることが味の評価を変えたのです。

 味わいながら食べ終えたところに標準服に着替えたエフティーさんたちがやってきました。


「あまりにも美味そうに食べているのがうれしくてな」

『ごちそうさまでした』


 後ろにいたマイクさんがこちらを見ています。目があうと、めんどくさそうな顔で自身の口元を指しています。この仕草は自分の口元を見てほしい、の意味です。カメラをアルバに向けると口元にカレーがついています。何食わぬ顔をしてナプキンで拭いました。


「これがローテーションの計画だ」


 彼は自身の端末を操作して空中投影ディスプレイに農園の配置図を出しました。左に現在、右に変更後のローテーション図が4つあります。ローテーション計画のほかに作物が病にかかった場合の対策まで言及されていました。


『もうここまでできたんですか?』

「あんだけ頭数がいてできない方がおかしいぜ」


 マイクさんが言いました。得意げなニュアンスを感じましたが、指摘するのも無粋なので触れません。連作障害のことから、ほかにも起こり得そうな問題の対策も提案したのでしょう。配置はパズルが得意なトーマスさん、作図は思い当たる人がいないのですが、皆で得意を出し合った結果だと思います。もしかすると、エフティーさんがずっと温めていた素案があるのかもしれません。


「無人作業機械の力も借りたい。協力してもらえるか?」

『問題ありません。協力させてください』


 快諾した私にマイクさんが突っ込んできます。


「それは、下から目線だぞ、スノードロップ。協力する、でいい」

『初対面で睨んできた人に言われたくありません』


 私の言葉にマイクさんは渋い顔をしました。


「……あん時は悪かったよ」

『今、こうやって話せるのが嬉しいです』


 マイクさんがさらに渋い顔をしました。私、悪いこと言いましたか?


『ところで、住居の建築は人員のローテーションが目的ですか?』

「そうだ。資材の確保は地上で行う予定だ」


 エフティーさんははっきりといいました。地上で行う、つまり森を切り開くということです。100年単位で人が立ち入ってない森は、人間にとって過酷な環境です。


「あくまで何本か伐採して資材にするだけだ」

『開墾の練習ですか?』

「そうだ。いずれは必要になる技術だ」


 農園を広げるにしても、それ以外のものを作るにしても必要な技術と経験です。


『了解です。地下の加工工場と連携は?』

「それはこれからとるつもりだ。手に負えなかったら、助っ人をお願いしたい」

『任せてください』


 エフティーさんがこぶしを前に出してきました。私もこぶしを作って、エフティーさんのこぶしに軽くぶつけます。フィストバンプ成立です。


「どこにフィストバンプする管理者がいるんだよ」

『目の前にいますよ』

「現実って面白いよね」


 近くでテーブルを拭いていたチャーリーさんが笑いました。

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