チョウチンの里④
「!何事か!」
オチョウとオモテが窓の外に視線をやる。どうやら里全体で停電のようだ。
そのとき、衛兵が部屋に飛び込んできた。
「オチョウ様!!!!!」
「何事だ!!!」
「緊急であります!!!死海です!!!!アンコ様が誘拐されました!!!!」
「ッーーー!!!!!」
オチョウはその大きな身体をゆらしながら、あわてて窓辺に向かう。
バンッとひらき外に向かって叫ぶ。
「アンコーーー!!!!」
オモテも窓辺へ駆け寄る。
外にはチョウチンの里の里並み。暗く見えづらいが、人々の腰元にぶら下がっている提灯で神殿と、さきほどライブが開催されていた広場が見えた。
ライブ会場は襲撃されたのか、電球は落ちぼろぼろな状態だった。観客やスタッフは眠っている人もいれば、傷ついている人、起きてパニックになっている人もいるようだった。
なにやら部屋の前が騒がしい。
「オチョウ様!!!お逃げくださ」
ザシュッと部屋になだれ込んできた先ほどの衛兵が後ろの者に切りつけられ倒れた。
「チョウチンの里長、オチョウ!!おまえの里は我ら死海がいただくぞ!!!」
死海と名乗ったミズウオの男がオチョウに向かって発砲した。
オモテはオチョウの前に立ち、弾を刀ではじく。
「(面の光を目と脚に・・・!)」
オモテは暗い中でも見えるように目と、速く走れるように脚に集中し、光を集めた。ダンッと勢いをつけてミズウオの男の前に出る。オモテにはミズウオの男の表情がよく見えた。気がついたら目の前にいたオモテに驚く男。そのままオモテは男が持っていた銃を蹴り上げる。男はなにもできず銃を奪われてしまった。
「なっ!!」
オモテはそのままミズウオの男をなぎ倒し、拘束した。
「オチョウ様、この男、どうしましょうか」
オモテがオチョウに話しかける。
「オモテ、ありがとう。後は妾がやろう」
オチョウがそういうと、オチョウの青い髪の先が光り出す。
「死海の者よ、妾を見よ」
「ひっ!!!」
ミズウオの男がオチョウの姿を見た瞬間、だらりと身体の力がぬけてしまった。
オチョウが続けてミズウオの男に問いかける。
「娘。アンコはどこにいる?」
「ぁ・・・びわ・・・あんこ・・・は・・・死・・・海の・・・湖」
「死海のフウセンは今どこにいる?」
「ぼ・・・ぼすも・・・湖・・・」
「衛兵!!だれかいるか!!!この男を拘束せよ!!!!!!!!」
――・・・
生き残っていた衛兵により、目がうつろになったミズウオの男が他の部屋に連れて行かれた。
オチョウは里の停電復旧、警備、残党兵の対処、怪我人の救護を衛兵に言い渡した。
一通り指示を出し終わった後、オチョウはオモテに向き合い、礼を述べる。
「オモテ、先ほどはありがとう。助かったよ。」
「いえ。死海、が襲ってきたようですね。」
「うむ。・・・オモテ、申し訳ないのだが、頼みを聞いてくれないか?」
「もちろんです。オチョウ様。」
「死海を知らぬようだな?」
「はい」
「死海は、いわゆる魔王派なのだ。魔王に襲われないように、おとなしく光を献上しましょう。暗い世界で生きていきましょう。の軍団でな。毎海まばゆく光るこのチョウチンの里が目障りで仕方がないらしい。ちょくちょく襲いに来ていたのだが、ここまで侵略がわからなかったのは初めてだ。里の提灯を傷つけられ、停電状態だ。オモテよ。こんなことを里の外の者に頼んで申し訳ないのだが、腕が立つとお見受けする。どうか娘を救ってくれないか。」
「娘さん、先ほどの男が死海の湖に連れて行ったと言っていましたね。」
「死海の湖は、ここから北東にある渓谷を越えた場所にある。触れると死に至る湖の中心にやつらのアジトがあるようなのだ。我らチョウチンの者はすでに顔が割れているから、湖の上を安全に通り抜けることができぬ。オモテ、お主はまだ向こうに知られていない。頼む。娘を助けてくれ。」
「オチョウ様。もちろんです。すぐに向かいます。」
「あぁ、ありがとう。せめてこれを持って行ってくれ。私の、首飾りだ。」
オモテはオチョウから光る球つきの首飾りをもらった。
「それは道中を照らしてくれ、魚を呼び集めることができる。餌に困らなくなるだろう。ただし、死海の湖では消すんだよ。我らの手先とばれてしまうから。」
ありがとうございます。と、オモテは首飾りを鞄にしまった。