チョウチンの里①
オウムが語った話はこうだった。
太陽に近いとされる5つの聖都には太陽を祭る神殿がある。なぜ聖都なのか。それは光の精霊が集まる場所だから。光の精霊は白く、いろいろな形をとる。魚だったり、イカだったり、クラゲだったり。ただの白い生き物ではない。太陽の光でできている。特有の発光がある。光の精霊はその土地についたり、物についたりする。まれに人につくものもいる。精霊につかれた者は精霊つき。太陽の愛し子とされている。
「私の生まれはチョウチンでしてねぇ。」
オウムは懐かしそうに目を細め語った。
「チョウチンの里は聖都の1つなんですよ。ですから、神殿で精霊様は見慣れておりまして。私の故郷では、精霊様は使命を全うした巫女たちの次の姿とされておりました。巫女亡き後。太陽からの恩寵、特別に白き姿に変え天にもどる。とね。」
「亡き後・・・」
「でもまあ、その伝承通りなら精霊様はすぐ天に向かわれるはず。なぜ土地や物につくのか?とずっと幼い頃からずっと疑問には思っておりますけどねぇ!・・・だから恩人様の精霊様を見て『ミコ様』と。」
オウムはそこまで身振り手振りを交えながら語り、オモテに姿勢よく向き直った。
「うむ。詰め寄ってすみませんでした。貴重な情報ありがとう。」
「いえいえ。何やら大事な使命がおありのようで。恩人様の助けになったのなら幸いです。」
それから少しして、商品の点検が済み、馬車が稼働できることがわかった。オモテはチョウチンの里までオウムの馬車に乗せてもらうことになった。恩人様ですので!となかば強引にではあるが。ありがたい申し出である。徒歩よりも早く山を越えられる。
馬車の中で、オモテは白い魚をなでながら考える。
「(ウーラ様は、亡くなってしまったのだろうか。)」
亡くなって、精霊へと姿を変えたのだろうか。だとしたら、もう元の姿には戻れないと言うことか。オウムの話通りなら、姫様は、なぜすぐ天に向かわないのか。・・・ウーラ様の面が光っていたから、白い魚は、おそらく面についている。だから、姫様の面を、太陽へ捧げた方が良いのだろうか。
オモテの脳裏に村の深海光夜祭の日の、あのときの舞を舞うウーラ様の姿がよぎった。
「もう、舞をされる姿は見られないのだろうか。」
族長は悲しむな。婆も・・・と、二人の顔が浮かんだ。
「(ウーラ様は死んだ、俺のせいで。)」
なんとなく、そうだと思った。思ってしまった。オモテは首を勢いよく振り、そんな考えを捨てようとする。首を振った振動で起きた膝の上の白い魚が、どうしたの?というようにオモテの方を見る。
ウーラ様は、生きている。元に戻る。そう思い込むように、繰り返し考え、オモテは魚をなでた。
山の峠をこえたとき、まばゆい光がオモテの目に入ってきた。
「ようこそオモテ様!深海の眠らない里、チョウチンの里ですよ!」
初めてのメンダコの村以外の人里。広大なチョウチンの里はすべてがまばゆく、とても栄えていた。多くの人、建物、露店、にぎやかな声、屋台の香ばしい匂い。オモテは情報が多く、きょろきょろしてしまう。
「では、恩人様。なにかありましたらオウム屋オウムをお呼びください!!命の恩人様ですから、格安にまけておきますよぉ!!では、よい海を~!!」
そういって、オウムは次の里へと移動していった。慌ただしく、うるさくもあったが、いい人だった。オモテは少し別れをさみしく思いながらも、使命を果たすために族長の家を探し始めた。
チョウチンの里、というだけあって、里に多くの提灯が設置されている。里の者の種族はさまざまで、メンダコの村とは全然違った。メンダコの村は面鮹族しかいなかった。だが、ここの里の者は体のどこかには提灯を携帯しているようだ。華やかでまぶしいチョウチンの明かりが里全体を照らしている。
適当な露店に顔を出す。
「いらっしゃい!お客さん旅人さんだね。うちはズワイガニ串がおすすめだよ!」
「やぁ。良い海ですね。2本ください。」
「はいよ~」
香ばしい匂いを放ち、目の前でズワイガニの脚が蒸されていくさまを見ながら、オモテは店主に話しかけた。
「私はこの里が初めてで、おすすめの観光スポットなどはありますか?」
「おお、それははじめまして!我らが里にようこそ。そうだね、なんと言ってもチョウチンの里は提灯が有名だからね!提灯屋は外せないねぇ。お土産に最適さ!そしてここは聖都でもある。神殿の太陽像がおすすめだね。繁華街でおいしいご飯、散策。・・・旅人さん男の人かい?それなら男どものロマン!世界随一の眠らない里、ならではのサービスも有名でおすすめさ。」
「ならでは?」
「にひひ・・・興味あるなら裏通りに行くがいいよ。あとはそうだなぁ、里の中で一際明るい族長の家を眺めるのもおすすめだね~」
「族長の家ですか?」
「ほぉら、あそこ。一番高いところに照らされたチョウチンアンコウの建物があるだろう?あの建物がそうさ。」
「ありがとう」
熱々のズワイガニを食べながら、通りを歩いて行く。しばらく進むと、広場に出た。広場のすぐそこに神殿がある。神殿は白い石造りに太陽のシンボルで装飾されていた。オモテが神殿の方を見ていると、ふいに、オモテの首元から白い魚が抜け出し、神殿へと泳ぎだした。
「姫様!?ちょっとお待ちください!」
すいすいと泳ぎ、神殿へ入っていく白い魚。オモテは魚を追って神殿に入った。