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浅瀬の国④

書き始めてから1年を迎えることができました。

これも読んでいただいている方がいるからです。いつもありがとうございます。

これからもオモテ達の旅を見守りください。

オモテがアトランティスに帰ってきたほぼ同時刻。

夜の海の中。金の尾鰭(おひれ)をひらめかせ自室の窓辺でその赤い瞳にアトランティス城下を映していたキンシャがいた。


「ずるいわ。なぜ私が深海の者が受けられる陸の講義を受けられないの?」


ずっと前、幼い頃迷い込んだ一際強い太陽の光が降り注ぐ美しい入り江。そこで出会った彼。

またあの場所で。


キンシャがぼうっと昔の事に思いを馳せていると、ふと部屋の明かりが消えた。


「!」


窓のすぐそこに気配がした。


「ご機嫌よう。お姫様。」

「誰!」


キンシャは窓から遠ざかる。


「大丈夫。妾は味方。お姫様、あなた、陸に行きたいんでしょう?」

「!・・・陸への行き方を知っているの?」

「ふふふ。ええ。それはもちろん。妾は陸から来たからね。」


窓からぬるりと人が入ってくるのがわかった。

甘い香りのする女だった。


「あなたは・・・誰?」

「妾はカリプソ。偉大なる海の魔女だよ。」

「海の魔女!!・・・あなたが、あの?」


そこでキンシャの部屋前が騒がしくなった。


「・・・!何?」

「ああ。行方不明になっていた深海の者が帰ってきたようだね。」

「・・・あの赤い者ね。」

「嘆かわしいね。外の者が受けることができて、浅瀬の姫が受けられない講義だなんて。」

「・・・」


そのときキンシャの部屋の扉が叩かれた。


「姫様!誰か来ているのですか?」

「!」

「・・・あなたが望むなら、いつでも陸への行き方を教えましょう。その気になったら魔女の洞へ。また会いましょう。」


そう言って、魔女は窓から出て行った。

キンシャは部屋番に叫ぶ。


「ごめんなさい!寝言言ってたみたい!」


その夜、キンシャは魔女が出て行った窓をいつまでも見つめていた。


――――・・・

オモテがアトランティスに帰ってきて、幾日か経った。その日はラカンがオモテの客室にいた。


「オモテ、今日は話せそうですか?」

「・・・」


オモテは身体の傷こそはだいぶ回復したが、左耳が聞こえない状態は変わらなかった。情緒不安定で、突然大きな声で叫んだかと思えば無気力にベッドに横になっていたり、正常ではないようだった。

何があったのかと医者やビワ、オトヒメに聞かれてもだんまりだった。どんどん憔悴していくオモテをそのままにしておくことはできず、ラカンが3度目の訪問に来たわけだ。


白い魚はぴったりとオモテの体にくっついて離れない。

ラカンはオモテの寝ているベッドの横の椅子にかけてオモテに声をかける。


オモテの瞳が揺れる。

ゆっくりと、口が動く。言うべきか、言わないべきか。迷うように。

かぼそい声で、オモテがつぶやいた。


「?失礼。なんと言いましたか?」


ラカンがオモテの方へ身を近づける。


「ワダツミ様にお会いできないでしょうか。」


オモテがゆっくりとラカンの顔を見る。

白い魚はオモテの顔をじっと見ていた。


「ワダツミ様に、ですか・・・」


ラカンが難しそうな顔をして口をもごもごさせる。


面鮹(めんだこ)族。祝福か、呪いか。定めを与えられし子よ。よくここまで来た。』


オモテがワダツミに会った時に言われた言葉。ワダツミは面鮹族がどういう者なのか知っているようだった。オモテは、答え合わせがしたかった。


「ワダツミ様にお会いすることは難しいです。私では駄目ですか?」

「・・・」


ラカンが悩ましい顔をする。


「ビワにもオトヒメにも言えないとは、いったい何があったんです・・・」

「・・・面鮹族の・・・面鮹族について聞きたいのです。」

「面鮹族について?」

「はい。面鮹族のすべてを知る方に。」

「・・・そういうことでしたら、ハクゲイ様にお聞きするのがいいでしょう。」

「・・・ハクゲイ様に?」


オモテが眉を寄せる。


「あの方は長生きですから。浅瀬の国以外にも、深海のこともお詳しいのですよ。もちろん、面鮹族にも。」


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