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浅瀬の国③

目の前の薄闇の中に夜がいる。背後からも何かが水をかいて追いかけてくるのを感じる。

薄闇の中に赤いブーツの先が見えたと思ったとき、頭上で眩しい閃光が放たれた。


「見つけたぞ!!!!!!!!!」


ビワがグローブを使ってすごいスピードでオモテの元まで泳ぎやってきた。

オモテがヘロヘロなようすを見て、オモテを片手で抱き支え片手でグローブを使い海面に向かってまっすぐ飛び泳ぐ。ビワは途中でオトヒメに合流した。


「アンコ!オモテさん!」

「オトヒメ!オモテを見つけたぞ!夜が来ている!アトランティス城下まで逃げ切るぞ!!」


死の気配はゆっくり霧散していった。暗い闇の中、クロモチの群れと共にものすごいスピードで光りながら遠ざかっていく3人を眺める女がいた。


「・・・また会おうね。オモテ。」


――――・・・

村を、里を襲うたびに光を吸収する。吸収してある程度光を溜めると分裂する。何回分裂しただろうか。おそらくこれが自分の固有の能力なのだろう。魔物ではなく、自分のコピーを生み出す能力。

自分であるが、自分でない同一の存在。自分のコピーが多く生まれ、それぞれを区別するために名前をつけた。はじめは仲間ができるのは頼もしかった。しかし、分裂するたびに能力にばらつきが生じ、性別・性格・身長の違いなどといった突然変異が起きていった。最悪だったのは分裂するたびに記憶が薄れていくことだった。この頃には、なぜ他の生き物を襲わなければいけないのかと主張する個体も出てきていた。そこで我々は自分自身に光を溜めず、別の道具に溜める方法を開発した。杖、剣、グローブ。個体によって作れる物は違ったが、全員が共通して作れた物は面だった。それぞれが生まれたとき、珊瑚を削り各々の面を作る。気がついたら、我々は面鮹(めんだこ)族と呼ばれる組織となっていた。

――――・・・


オモテはアトランティス城の中で目を覚ました。

頭が重い。まだ脳内をまさぐる触手がいるような気がした。


面鮹(めんだこ)族は、」


・・・元は魔物だったのか。徐々に世代交代を重ねるうちに、自分たちが魔物であることを忘れ、他の人と同じように過ごしてきたのだろうか。この後も知り得ない記憶を見ることになるのだろうか。

婆に会いたい。族長に会いたい。この記憶のことを2人は知っているのだろうか。


白い魚がオモテの視界に入ってくる。

白い魚がオモテの顔を覗きこんだようだ。


「姫様・・・」


白い魚はオモテの顔にすり寄る。


「ご心配おかけしました。そして、助けてくださりありがとうございます。」


部屋の扉が開く。ビワとオトヒメが訪れた。


「オモテ!」

「オモテさん!」


2人が駆け寄る。オモテはだるい体を動かし、やっとの思いで顔を2人に向けた。


「よかった~!オモテさん1週間も寝てたんだよ!」


1週間!


「無理するなオモテ。お主、頭に深刻なダメージをおっていてな。いったい何があったのだ?」


頭――――。そういえば、左耳がまったく聞こえない。


「・・・ヒト型の魔物に頭の中を触手でまさぐられたんだ。」


2人が息を飲む。


「触手が、頭内に・・・?」

「体調はどうだ?」

「・・・最悪だ。」

「私、オモテさんが起きたこと伝えてくるね。」


オトヒメが部屋を出る。


「ビワ、助かった。・・・夜が来ていて、もう駄目かと思ったよ。」

「ああ。間一髪だったの。間に合って本当によかった。夜の目の前でぐったりしているお主を見たときは死体でも見たかと思ったぞ。」

「・・・」

「オモテ?・・・寝たか。ゆっくり休んでくれな。」


また来る、と薄れていく意識の中ビワが部屋を出て行く音がした。白い魚の顔を見ながら、オモテの意識はそこで途切れた。


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