浅瀬の国➀
ところで皆様は覚えていますでしょうか。オモテ達面鮹族には頭頂部に小さいウサギの耳のような髪のハネがはえています。いわゆるメンダコの耳、ヒレです。
※グロテスクな表現があります。
「なにがあった!」
ビワとオトヒメがラカンに駆け寄る。
全力で走ってきたのか、ラカンは息を切らしながら答えた。
「海神の眼鏡を使い、所長とオモテと私で白い魚の精霊様の記憶を確認していたのです。太陽はとっくに削られ切っているのではないかとね。所長の見解も聞きたくて。そんな話をしていたら突然。突然黒い大きな魔物が部屋の窓から入ってきて、オモテを連れ去ってしまったんだ。」
「魔物!?こんな白昼にですか!?」
マンダイが口に手を当て、顔を青くする。
「その魔物は今どこだ!!」
「わからない・・・今太陽の神殿の者がハクゲイ様に報告に行った。これから捜索だ。」
「アンコ!私達も行って探そう!」
「ああ!」
――――――・・・
オモテは自分が別の場所に移動しきったを感じた。今まで感じていた水の中を移動する感覚が無くなったからだ。
目の前は暗く、もがいてもぶよぶよした物に包まれているのか、自分がどこにいるのかわからない。
「ん~。良かったよ。無事にここに連れて来ることができて。」
低い女の声がオモテの耳元で聞こえた。
「!?誰だ!」
「大変だったよ。表層は明るいね。君を包み込んで助けたんだから感謝しなよ。」
「(助けた?)」
オモテは頭のヒレが触られたのを感じた。
「!?」
「やっぱりこれ長い耳だよね。じゃあ、仲間だろう?」
そう言って声の主はオモテの拘束をゆっくりと解いた。わずかなランタンの明かりに照らされた薄暗い洞窟の中で、オモテは女と対峙していた。
何かに包まれていると思っていたが、それはどうやら女の下半身のドレスだったようだ。
まるでナマコ。黒いひらひらした飾りはついているとはいえ、ゼリー状のぶよぶよした黒いドレスに女は身を包んでいた。
オモテは女の顔を見る。頭に2本の角のような触角がはえた黒い長い髪をもつ女。黒い2つの目がオモテをじっと見ている。
「長い頭耳を持つモノは仲間の証。そうだろう?深海の兄弟に会えてうれしいよ。私は浅瀬の管轄でね。弟であるお前が仕事をしないから、わざわざ深海まで可愛い子達を派遣していたんだよ?感謝するがいい。」
「・・・なんの話だ。」
オモテがそう言うと、女が片眉を上げてオモテを見る。
「ふむ?・・・お前、ヌタや魔物を殺したろう。なぜだ?」
「!!・・・なぜお前がヌタを知っている!?」
女の顔が険しくなった。
「・・・」
女が右手をあげた。それは一瞬だった。女の右手が変形して何本もの触手状になったかと思えば、気がついたらオモテの耳に触手が挿入されていた。
「ア“ッ!!!」
女がオモテの脳をかき混ぜる。
クチュクチュという音が洞窟内に響く。
かき混ぜられるたび、最近の出来事から順に過去を遡っていくように、オモテの記憶が脳内にパッパッパッと映像として映し出されては消えていった。
「ああ。いいなぁ。お前、仲間がいるの。・・・ああ。ヌタを力で殺したのか。・・・私の可愛い子達も沢山殺してくれたね。・・・」
ピタッとかき混ぜる行為が止まった。それはメンダコ村の記憶だった。族長、婆、村の人々との日々。そして、深海光夜祭の記憶。丁寧に村での記憶を見て、女はすぐまた遡って記憶を見始めた。
「・・・なるほど。お前記憶が無いの。どうりでね。・・・こんなことってあるんだ。・・・でも頭耳とその臭い。間違いなくお前は仲間だよ。」
オモテのすべての記憶を見てから、女は丁寧にオモテの脳内をまさぐる。
ずるるっと這うような嫌な感覚が頭からする。
ぐちゅぐちゅという音も不快だった。体は引きつけを起こし、穴という穴から汁が出ていた。
「・・・ああ。ここに隠されているじゃないか。」
ぐちゅっ!っとオモテの脳内で何かが物理的にはじけた。
その瞬間、オモテは自分が経験していないが、経験したことのある記憶が思い起こされた。
それは、オモテからしたら信じたくない悪夢の記憶。
ちゅるんと手元にもどった触手は、いつの間にか元のヒトの手の形に戻っていた。
「歓迎するよ、兄弟。」




