浅瀬の国の成り立ちの歌
高らかなラッパの主旋律と、聞いたことのない打楽器の音が心地よく会場に響く。オモテ達はハクゲイに連れられ、宮殿の音楽ホールに招かれていた。音楽ホールの壁には着飾った鰭をもつ人々。すべての人の視線がオモテ達に冷たく向いていた。
全員が座ると会場全体が暗くなり、ステージだけが照らされる。どこからともなく鳴るハープの音色とコーラス。ゆっくりと暗いステージの奥から金の長い髪を後頭部で1つに結び、これまた見事な金の尾鰭をもつ女人がやってきて、浅瀬の国の成り立ちの歌を歌い出した。
――煌めく金の命の光。その熱は海を動かし、緑を育て、我らを育む。
ああ、遠い祖先よ。その姿混じり合わん。
――優しく降り注ぐ慈愛の光。その愛情は我らを繁栄へと導く。
ああ、美しき海の底。アトランティスに栄光あれ。
――朱く燃える空の光。爆風は海を動かし、魔を解き放ち、我らを襲う。
ああ、古の勇者達よ。その姿暗い海底へ。
――遠く隠れた彼の光。その悲しみは海を凍らせ、命を奪い、世海は魔の地と転ず。
ああ、勇者達よ。太陽を救い出せ。
オモテ達以外の観客全員が立ち上がり、全員が黙祷を捧げた。音楽が鳴り終わり、全員が座るとそこからアップテンポの曲に変わり、そのまま歌姫の歌唱が始まった。
――――・・・
演奏会が終わり、オモテ達はハクゲイのいる王の間に通される。
「改めて、遠路はるばるよく参った。深海の勇者達よ。」
ラカンが先頭に位置し、オモテ達はその後ろで全員が膝をつく。
「面をあげよ。久方ぶりの来訪だ。最近の深海事情も詳しく聞きたい。」
「はい。近年ますます太陽の光は降りてこず、今では1年に1度降りてくるだけとなりました。魔王派の勢力が拡大し、民が散る事件が多発しています。」
ラカンが近年のようすを述べる。
「しかし、魔王派の勢力を退ける者達が現れました。それがここにいる3人。オモテ、ビワ、オトヒメです。オモテは面鮹族であり、その秘術により夜を打ち倒しました。ビワは鮟鱇族であり、幻光オチョウの娘で、夜を研究する者です。オトヒメは草魚族であり、武具王イサリビの孫娘。最近では光付与も成功し、鍛冶屋としても活躍しておりました。そして・・・」
ラカンがオモテの肩元にいる白い魚を見る。
「オモテの首元にいる精霊様。元面鮹族の巫女姫で、多くの太陽の欠片をもつ御方です。このあたりは、ワダツミ様から詳しいことはお聞きしているかと。」
「うむ。」
ハクゲイが白い魚を見つめる。白い魚もまっすぐハクゲイを見ていた。
「そして、改めて我が民の心ない発言、申し訳ない。我らは深海に生きる者を死人と思っているのだ。」
「それは、先ほどの歌にあったようにかの?」
ビワが質問する。
「そうだ。太陽が世海より遙か遠くの場所にお隠れになって久しい。魔王が太陽を退けたとき、多くの戦士、民が散った。残った者で多くの亡骸を深海に送ったのだ。深海は死者が眠る場所。死者はそこで安らかに眠り、黄泉の母に抱かれてまた浅瀬の国に還ってくると考えられている。」
「黄泉の母?」
オモテが質問する。
「ああ。黄泉の母だ。またの名をつ―」
「父上!!」
バンッと勢いよく広間に入ってくる者がいた。それは先ほどステージ上で見た歌姫だった。
「わぁ!近くで見ると本当に私たちとは違う色合い!それに根本的に尾鰭の形が違うのね!ねぇ、そんな鰭でどんな風に泳ぐのかしら?」
「失礼だぞキンシャ!」
「まぁ怖い!いいじゃない父上。私、深海の者に用があって来たのよ。」
キンシャと呼ばれた赤い目をした女。ハクゲイほどではないが、高い身長でスラッとしたその姿は見る者に威厳を感じさせる。
「でもそうね。失礼したわ。まずは自己紹介ね。私はハクゲイの娘であり、シャチの人魚のキンシャというの。死者の国の皆様方、よろしくね。」
キンシャは3人を舐めるように見つめ、ニヤニヤと笑う。
「あなたたちは陸に上がる方法を知っている?」
「キンシャ!!!!」
ハクゲイが怖い顔でキンシャに怒鳴る。
「キンシャ。その話は終わったはずだ。お前は自室に戻っていなさい。」
「・・・はーい。またね!」
手を振り、キンシャが王の間を出る。
――・・・
ハクゲイが付き人に飲み物をもらい、一息つく。
「先ほどは我が娘が失礼した。まったく、とんだわがまま娘でな。」
「・・・」
ビワがむず痒いような顔をする。
「姫様は陸にご興味があるのですね。」
「ラカン。どうせお前のところにもあやつは行くだろう。陸の危険性をお前からも言ってやってくれ。」
「陸、とはなんですか?」
オモテが質問する。
これに、ラカンが助け船を出す。
「この者達はこれから天界に向かう運命にあります。陸についての説明を受けるには十分な資格があります。」
「・・・うむ。そうだな。では、明日、太陽の研究所にて、授業を行うとしよう。」




