クジラの体内
新章突入です。
ラカンが鳥かごの形をした提灯の青い光を灯し、クジラの口の中を進む。その後ろをオモテ、ビワ、オトヒメがついて行く。白い魚は相変わらずオモテの肩元にいた。
クジラの体内壁は不思議な模様が浮かび上がっては消えていた。青白い線。美しかった。
「さぁ、着きました。」
「着いたって、なにもない空間じゃないか。」
「まぁまぁ。」
ラカンがビワをなだめ、鳥かご型提灯の扉を開ける。すると中からふわっと青い光が飛び出し、一際大きく光り、光る扉を作った。
「さぁ、参りましょう。」
オモテ達が光の扉をくぐると広い空間に出た。
「これは、」
「な、なに、これ!」
「とんでもないの・・・」
オモテ達は絶句しながらあたりを見回す。床がすごいスピードで動いていたのだ。床だけじゃない。上も、横も全方位。うっすらクジラに着いていた体表の傷、まるで水底に映る水面の模様のようなものが浮かび上がっては消えていった。
「ここは海神様の体内です。体内から外の様子が透けて見えるのですよ。」
ラカンがうっすら笑ってオモテ達に説明した。
「う。・・・なんか、私が動いていないのに、動いてるみたいで気持ち悪くなるね。」
「ああ、わかる。気持ち悪い感じだの。」
オトヒメとビワが顔を青くしている。
「オモテさんは大丈夫ですか?」
ラカンがオモテに聞いた。
「はい。自分は大丈夫なようです。」
「オモテは狂ってるからな。」
「ふふ・・・。さぁ、みなさん。海神様がお待ちです。もう少し頑張って。」
ラカンに連れられ、広間の中心に向かう。
オモテ達が近づくと、床の中心にキラキラと光る渦が生じ、一人の年老いた男が出てきた。
「・・・」
長い白い顎髭を蓄え、鋭い眼光に厳しさをたたえた瞳を持つ体躯の良い男。薄青の装飾と黒の衣がクジラの体表の模様のようで、クジラをそのまま人の形にしたような男だった。
ラカンが男に向かって膝をつく。
「お久しぶりです。」
そのようすに、男がゆっくりと口を開いた。
「うむ。息災でなにより。そして。」
男がオモテを見て、肩にいる白い魚を見た。男の目に同情の念が浮かぶ。
「よく来た。定めの子達。お前達に会えるのを待っていたよ。」
白い魚がオモテの肩元から離れ、男の方へと泳いだ。
「!」
オモテは驚き身じろいだ。
「(姫様?)」
男は右手の平をゆっくり胸元まであげ、白い魚はその手の平まで泳ぎ止まった。
そのとき、白い魚の体が白い光、緑色の光、黄色の光の3色の光を出し輝いた。それを見て男が口を開く。
「・・・ああ、3つも集めたのだな。」
オモテはその見覚えのある光を思い出していた。緑色の光は深海光夜祭で見た、魔物が追いかけていた光で、黄色の光はイサリビから出てきた光だった。
男が白い魚を見つめて言う。
「お前はこのあとどうするつもりか。」
白い魚も男を見つめているようだった。
「・・・そうか。その道を行くか。」
男が白い魚からオモテの方を見つめながら白い魚に問う。
「だが、本当にそれでいいのか?」
白い魚は光るのを止めた。
「そうか。」
そう男が言い終わると、白い魚はオモテの方へ泳ぎ戻ってきた。
男が改めてオモテ達を見る。
「自己紹介が遅れたな。我はこの海の守護者、ワダツミである。皆のことは上から見ていた。」
ワダツミがビワを見る。
「お前はチョウチンの里のじゃじゃ馬姫だな。深海光夜祭では里を抜け出そうとして母親に怒られていたな。」
「!!?」
ビワが驚いて目を見開き変な顔をした。
「お前はチシマにいた娘だな。皆に愛され赤子のときから鎚を持ってはしゃぎまわっていた怪力娘だった。」
オトヒメも目を丸くした。口元がなぜそれを、と声なくつぶやいていた。
「そして、面鮹族。祝福か、呪いか。定めを与えられし子よ。よくここまで来た。」
「それは・・・どういう・・・」
オモテが口を開きかける。が、ワダツミが口をはさむ。
「オモテ。お前はこの白い魚を天海まで連れて行くのだ。そこにお前の求める答えがあるだろう。」
「!?・・・なぜ、」
「今はまだ詳しくは話せぬ。このまま旅を続け、その結末を見届けるのだ。」
オモテには何が何なのかわからなかった。なぜ。だが、神の威光か何かは知らないが、有無を言わせない存在感をオモテ達は浴びていた。だからか、気がついたらオモテ以外のビワ、オトヒメ、ラカンはワダツミにひざまずいていた。
その場に立っていたのはオモテとワダツミだけだった。
「定めの子よ。すまぬな。その白い魚を任せる。」
そういうと、ワダツミはラカンの方を向いた。




