ハタグルマの里⑫
ラカンとの約束が明日に迫った頃、オモテはこんにゃく鍛冶屋を訪れた。
オモテは里で買った屋台の飯を土産に、休業中と札を下げている扉をノックする。
「オトヒメさん、いますか?」
「・・・オモテさん?いいよー、入って。」
鍛冶屋の中から聞こえてくる声はオトヒメのものだった。だが、普段の声とは違った。
オモテが扉を開けるとそこにはオトヒメがいた。
「よかった。もう歩けているのですね。」
「ええ。ありがとう!・・・へへ、やっぱり気になる?」
オモテは上から下までオトヒメの姿を確認した。オトヒメは重度のやけどを負っていたものの、衛生兵から支給された薬により、なんとか日常生活を送れるまでに回復している。しかし、クロモチの胃酸に触れた腕や脚、左顔反面にひどいやけどの跡が残っていた。皮膚はひきつれただれ、喉も焼けたのかハスキーなかすれ声に変化している。初めてオトヒメを見る人は、一瞬お化けでも見たと勘違いしたであろう。
「前より鍛冶屋として箔がついたんじゃないですか?」
オモテがにっこりと笑ってオトヒメの顔を見て言った。
「!・・・そうね!これでもうただの小娘だと侮られないね!」
オトヒメは朗らかに答えた。
「でも、本当に体はもう大丈夫ですか?」
「うん!傷跡は残っちゃったけど、歩けるし、鍛冶だってできるくらいには回復したよ!お薬はすごいねぇ。」
「ただの薬なわけなかろう。」
そこにビワもやってきた。
「ビワ!」
「ビワさん!そうなんですか?」
ビワも薬海藻や滋養にいい食材を買ってきたようで、両手に物を抱えていた。
「あれはリュウグウが渡した里宝級の薬だ。」
さらっとすごいことを言い放った。
「さとほっ!!!!!!!!?」
オモテは目を見開き、オトヒメは大きな声を出す。
「あの事件の発端はリュウグウの兄みたいなもんだからな。結果として武具王イサリビも殺してしまったようなもんだし。・・・荷物重いから、中に入っていいか?」
「!?・・・!?・・・あっ!どうぞどうぞ。」
三人はいつものダイニングに移動した。
持ってきた土産をオトヒメに渡し、オモテがお茶を入れる。
「あ、いいよいいよオモテさん!私が、」
「オトヒメさんは大怪我したんだから、自分がやらせてください。」
「そんな、そっちこそ里を救ってくれた英雄様じゃない。」
「やらせとけオトヒメ。」
「・・・ありがとうございます!」
お茶を飲みながら三人は話を続ける。
「お薬、そんな大変なものだったなんて・・・」
「気にするな。何も言われなかったんだろ?」
オモテがお茶を置いてオトヒメに話を切り出した。
「オトヒメさん。今日は、お礼を言いに来たんです。」
「そんな・・・急に。照れちゃうなぁ!」
オトヒメは照れた素振りをした。
「そんな改まった話。・・・もう行くの?」
「はい。明日。この里を出ます。」
「急だね。・・・」
オトヒメは両手で持っているコップの水面を見つめる。思えば、二人と会ってからいろいろなことがあった。オトヒメは覚悟を決めて顔を上げる。
「オモテさん、ビワさん。私も2人の旅に行くことはできないかな?」
その発言にオモテとビワは目を丸くする。
「今はまだ前ほど鍛冶ができないけど、2人の武具の調整とか、お料理もできるよ!自分で素材集めとか行くから戦うこともできるし!!」
「ですが、オトヒメさん。あなたはまだ病み上がりです。」
「そうだオトヒメ。それに、一緒に来ても炉が無ければ何もできんだろう。」
「炉に関しては大丈夫!私、私!お二人の役に立ちたい!オモテさんは今まで見たことのない光付与をして新しい武器を見せてくれた。ビワさんは私を助けてくれた。ねぇ、お願い!」
オトヒメは二人に頭を下げる。
その様子にオモテとビワはお互いの顔を見る。ビワが眉を上げて頷いた。
「・・・だそうだ、オモテ。」
「・・・そうですね。確かに武具の手入れをしてくださるのは助かります。」
「!なら、決まりね!!さっそく荷物持ってくるんだから!」
そう言ってオトヒメは自室へ向かっていった。
「・・・いいのか?オモテ。」
「そもそも、ビワも強引に一緒に来たようなもんだろ?」
「ん?・・・忘れたの~。」
「・・・」
オトヒメは自室でリュックに荷物を詰める。着替え、鍛冶道具。愛用のハンマー。イサリビとの写真。
オトヒメはじっと写真を見つめる。しばらく見つめて、リュックの中にしまい下の階にいる二人に声をかけつつ部屋を出た。
「・・・お待たせしました!!」




