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西の街道① カイメン畑

暗い道の中、淡い光を放つひとつの面と一匹の白い魚が進んでいる。


「村の外に出るのは初めてだ・・・この街道沿いを進んで行けばいいのだよな?」


オモテは族長からもらった地図とにらめっこしながら一人ぶつぶつとつぶやきながら歩いて移動していた。


「面の光はよく道を照らしてくれる。村の外がこんなにも暗いとは・・・」


オモテは集中し、身体から面へ光を流し、前方を照らすように意識しながら歩いていた。やはり、地図を見たり、別のことを考えると集中が切れる。チカチカ明滅を繰り返す光は、傍から見たらかなり怪しい光だ。先祖様たちは大発明をしたのだな。この面がなかったら移動するのもままならなかっただろう。と、オモテは先祖に感謝の念を送る。


「姫様、俺からはぐれないでくださいね。」


相変わらず白い魚はオモテの側から離れない。白い魚も面と同じように淡い白い光を放っている。頭の上がお気に召したようだ。ときおり顔の近くに泳ぎ降りてきては一緒に地図を眺めたりしていた。


「姫様は・・・元に戻るのだろうか。」


白い魚はオモテのつぶやきにそんなのどうでもいい。と反応するようにオモテの目の前をくるりと回って、頭の上へと戻っていった。


「ん?」


オモテの歩く側には、花のようにひょろりと長く伸びた袋状の生物である、肉食性カイメンが群生している。ふと、カイメン畑が不自然にゆれたのを見た。


「何の変哲もないカイメン畑だが・・・―――っ!」


カイメン畑から黒いゼリー状の生物が白い魚に対して飛びかかってきた。


「黒い生物・・・魔物か!」


オモテは剣を抜きゼリーをはじき倒す。何回か剣を叩きこむと、魔物はぼふんと禍々しい黒い煙をあげて消失した。光を取り込んでいたようだ。魔物がいた場所に光が2つほどきらめいていた。


「ウーラ様、大丈夫で・・・あっ!」


白い魚はオモテの呼びかけに答えず、すぃっと光に近づき、そのまま2つ食べてしまった。


「2つとも!?駄目です!!吐き出してください!!!!」


オモテは吐き出させようと白い魚につかみかかるがひらりとかわされてしまう。ひらり、ひらりと交わす攻防戦が繰り広げられる。


「ウーラ様!ご存じでしょう!?我々生物が食べていい光の量は・・・、1年に・・・1個まで!それ以上摂取すると・・・お腹を!・・・壊し!・・・ひどい吐き気がきます!!・・・!・・・!!・・・駄目だ、捕まえられない・・・」


オモテは吐き出させることを諦め、道を進み始めた。


「・・・体調が悪くなったらアピールしてくださいね?」


白い魚はオモテから捕まえられるかどうかぎりぎりの距離を離れて一緒に進む。


あたり一面カイメン畑が永遠に続く。途中途中先ほどの黒いゼリー状の生物が出てきたが,面の力を使いつつ倒し,光は白い魚が食べて回収したり、オモテが面に吸収したりしながら進んで行った。初めて見る外の世界に、ようやく慣れ始め、周りの景色に好奇心が向き始めた。ときおり,ぼんやりと光るカイメンを見つけたり、クラゲが通過したりするので、いくぶん道を進む怖さも薄まってきた。


「外の世界にはクラゲがこんなにもたくさんいるんだな・・・」


村にたまに舞い込むクラゲは人々の目を楽しませていた。きらきら光るクラゲはヒカリマリと呼び、よく投げ合っては遊んだものだった。そんなヒカリマリが視界いっぱいに浮かんではきらきらゆれている。


「姫様、きれいですね」


白い魚はオモテの顔の前でくるりと泳いだ。

オモテは顔をほころばせ、道を進む。


村を出て何時間経っただろうか。クラゲの道を過ぎ、暗い道を歩いて進むうちに、遠くの方からクォォォオオオオオン・・・と高音の音が聞こえてきた。


「この声は!・・・太陽の使いか!」


遠くから聞こえるきれいな声。太陽の使いとよばれる鯨の鳴き声。普段村の中で聞くときはみんなでその声の主をわくわくしながら探し、海を見上げたものだが、しかし。暗い外の世界で、一人のときに聞くこの声はなんとも不気味なことか。


「姫様、覚えていますか?俺が村で見た、太陽の使いは、それは、神々しかった。大きい体。大きいひれ。歌いながら村の上を通過したのを見たことがあります。確か、太陽の住まう国と、深い我らが住む海の国を行き来しているんですよね。太陽の伝令を国中の偉い人に伝えているのだとか。姫様はお話しされたことありますか?」


オモテは頭の上にいる白い魚に対し語りかける。


「・・・寝ていらっしゃる。・・・自分はこんなにしゃべる性格じゃなかったのに。心細いって嫌だな」


オモテは頭をぽりぽりとかきながら、出てきた村のことが頭をよぎる。人々は祭で負傷していたが、無事助かっただろうか。


オモテは歩きながら,白い魚のようすをみていた。今のところ苦しんでいる様子はない。

海の中のスポンジのようなカイメンという生き物をご存じでしょうか?植物のような、珊瑚のような姿をしていますが動物です。スポンジの中で共生するエビなどもいるとか。カラフルでさまざまな姿形をしていて面白いので、よかったら検索してみてください。


今回の光るクラゲ、ヒカリマリのモデルはシンカイウリクラゲです。きれいですね。

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