ハタグルマの里⑪
ラカンは二人を自分の研究室へ連れて行った。
「ここに、望遠鏡越しに撮影した写真があるんだ。」
「「シャシン?」」
「ああ、そうだね。“写真”は普通知らないことだ。」
「・・・で、何なんだそれは?」
ラカンは光の灯った本の表面を指でなぞりながら時折タップして作業していく。すると、本がうっすらと光り本の背表紙から3枚の絵が出てきた。
それは本物と瓜二つの精巧な絵が描かれた紙だった。
「これはすごい・・・精巧な絵だな。魔道具か?」
「これは魔道具というよりも、神器に近い。」
「「神器?」」
ラカンは左手で前使用したときに壊れた海神の眼鏡を二人の前に差し出した。
「以前、海神の眼鏡は太陽の研究所と共同研究し開発されたと言いましたね?」
二人は頷いた。
「正確には、これは海神様から授かったモノを精霊研究所と太陽の研究所で加工し、我々でも使いやすくした物なのです。使用するには制約が多すぎて、巷には出回りません。まぁ、その話はいいでしょう。」
「海神様とは?」
オモテはラカンに質問した。
ラカンは写真のカ所を指さし、説明する。
「海神様です。」
「え!?これって。」
一番に声を上げたのはオモテだった。
「・・・どう見ても鯨じゃねぇか。」
「・・・クジラ?太陽の使いだろう?」
「・・・なんだそりゃ。」
二人は顔を見合わせた。
ラカンはオモテの顔を見る。
「・・・ふふ。無理も無い。あの方はいろいろな呼び方をされているからね。でも、“太陽の使い”か。なぜそんな呼び方を?」
ラカンの食い入るような目つきに、オモテはヘビににらまれたカエルのように、一瞬固まった。
「え…太陽の使いは、それは、神々しかったから。大きい体。大きいひれ。歌いながら村の上を通過したのを見たことがあります。確か、太陽の住まう国と、深い我らが住む海の国を行き来しているんですよね。太陽の伝令を国中の偉い人に伝えているのだとか。村では当たり前に言われていたことでした・・・」
ラカンは口元にかすかな笑みを浮かべ、ビワを見た。
「なるほど・・・鮟鱇姫。あなたの里ではなぜ鯨と?」
「・・・ん。別に。里ではそう呼ばれていたからだ。鯨は鯨だ。」
ラカンは写真に目を戻した。
「・・・そう、海神様はさまざまな呼び方をされるのです。クジラ、イサナ、ハコブネ、太陽の使い。面鮹族は少し深いところまで知っているようですね。」
ラカンは海神の眼鏡を触りながら語る。
「海神様は文字通りこの海の神です。この海を実質見守ってくださっている御方だ。海で生まれた精霊様を天海まで送り届けてくださっている。また、太陽の研究所などを通し、太陽の意思を伝えてくださるのだ。」
ビワとオモテはだまって聞いている。
「私は1週間後、太陽の門の先にある太陽の研究所に行く。そこに行けば月に関することも聞けるだろう。君たちは里の恩人だとリュウグウからきつく言われているしな。一緒に行けるよう海神様にお伺いしてみましょう。」
「なぜ海神様に聞く必要があるんだ?」
「君たちは太陽の門の先を見ただろう?」
オモテはヌタとの戦いを思い出した。
門が開いたあと、崖沿いに強い海流が天海に向けて流れていた。人が吸い込まれたら、どうなってしまうのか。
「太陽の門の先には強い海流が天海に向けて流れている。人が吸い込まれたら、その勢いで体がはじけて死んでしまうそうだ。」
「はじけ・・・!?そんな場所の先に行くのか!?」
「そうならないための海神様だ。海神様が我々を五体満足で門の先に連れて行ってくださる。君たちには後で連絡をしよう。では・・・」
そう言ってラカンは席を立ち、写真を持って部屋を出ていこうとした。それをオモテが少し慌てて呼び止める。
「ああ、ラカンさん!自分から別で聞きたいことが。」
「ん?なんだね。」
「前聞きそびれたことです。話す精霊様について何かご存じでないでしょうか?」
「・・・話す精霊様ですか。」
ラカンがオモテの肩元にいる白い魚を見る。
「・・・その精霊様はしゃべるのですか?」
オモテは白い魚を見る。
「いいえ。そうだといいのですが。」
「・・・少なくとも、精霊様で話すことができるものを私は見たことがありません。」
ラカンは考えるように白い魚から視線をそらした。
「他の研究者と話してみましょう。残念ながら私はその精霊様を知らないですが、他の人は知っているかもしれないですからね。」
「ありがとうございます。」
「じゃあ、また行けるかどうか確定したら教えてくれ。ワシたちはここに泊まっている。」
ビワが泊まっている宿を書いたメモをラカンに渡した。




