ハタグルマの里⑨
里はひどい有様だった。ヌタという司令塔がなくなった魔物はすべてあっけなく討伐され、里に平和が訪れた。しかし、倒壊した建物。亡くなった人々。失ったものが多過ぎた。
オトヒメは衛生兵の看病の元、治療中だ。しかし、まだ意識は戻らない。
イサリビは今、多くの負傷者とオトヒメがいる同じテントの中で最後の言葉をオモテ達に告げようとしていた。
イサリビはオトヒメの横で治療を受けていたが、もうほとんど体に光が残っていなかった。
かすれた声でイサリビは言う。
「オモテ殿・・・ビワ殿・・・オトヒメを・・・救ってくださり・・・」
「「・・・」」
「本当に・・・ありがとうございました・・・」
イサリビは皮膚がただれているオトヒメの顔を見る。
それを見て、イサリビは目から涙をこぼす。
「儂が・・・刀を打っていたばかりに・・・この子を辛い目にあわせてしまった。」
イサリビは左腕をオトヒメの方に動かし、なでようとした。しかし、左腕は無いのだった。その事に気づき、再び涙を流す。
「ああ・・・申し訳ない。オトヒメに・・・あのかわいそうなヌタに・・・」
「イサリビさん・・・」
「武具王イサリビ、あなた無しでは海の雷戦争やオモテの剣の強化はかなわなかった。」
「そうです。オトヒメさんはいつもあなたを尊敬していました。」
「・・・ああ、オトヒメ。・・・こんな・・・儂のもとに産まれて・・・きて・・・くれて・・・ありがとう・・・」
そのとき、オトヒメの目から涙が伝った。
イサリビが弱々しくだが、目を見開く。
ゆっくり、ゆっくりオトヒメがイサリビの方を向いた。
「そう・・・だよ・・・じっさま。・・・わた・・・し・・・じっさまの孫で・・・育って・・・幸せなんだから・・・」
イサリビの目に涙があふれる。
オトヒメの目にも涙があふれる。
「ああ・・・助かって良かった・・・。じっさま・・・これからも・・・もっといい鍛冶屋になるんだから。」
「うむ。」
「だから・・・まだまだ・・・ずっと見てて。」
「うむ。」
「じっさまを・・・追い抜く鍛冶屋になるから・・・」
「うむ。」
「安心してね・・・」
それを聞いたイサリビは、そこでやっと眉間に寄っていた皺をゆるめ、優しく笑った。
「それなら・・・安心だ。なぁ・・・お二人殿・・・」
イサリビは二人にお願いをする。
「もし良ければ何だが・・・これからも、たまにオトヒメを気にかけてやってくれないか?」
オモテは答える。
「もちろんです。」
ビワが答える。
「料理の世話になったからな。」
「ありがとう・・・」
そういうと、イサリビはすぅっと深呼吸をして、息を引き取った。
「・・・じっさま?じっさま?・・・もう、最後まで私の心配ばかり・・・」
オトヒメは泣き、笑い、大きな声で泣いた。
オモテもビワも静かに泣く。
すると、イサリビの口から二つの大きな光が浮き出た。
一つは白い光。もう一つは黄色い光。
白い光はオトヒメの体の中に入っていった。
「「「!」」」
「ああ、じっさま・・・」
オトヒメの脳内に、イサリビの記憶が、感情が流れ込む。
黄色い光は、オモテの肩元にいた白い魚の前に浮かんだ。
白い魚は黄色い光をくるっとつつむように泳ぎ、合体した。
「そうか・・・じっさまは太陽様の能力をお返しするんだね・・・」
そう言って、オトヒメはすぅっと眠りに落ちた。




