刀鍛冶
「あとで説明してくれよ、ビワ。」
それでは3日後。しっかり準備をしておいてくれ。とリュウグウに言われ、その日は城を出た。結局、なぜリュウグウが白い魚のことを知っていたのかは聞くことができなかった。
帰り道にビワにリュウグウのことを聞く。
「・・・つまり、リュウグウ様は未来が見えるということか?」
ビワはもう少し声を落とせ、とオモテに注意する。
「・・・そういうことだ。これは本来族長のみ知ることだから、絶対他言無用だぞ。」
「わかった。」
「だが、100%確定という訳では無いんだ。そのルートをたどる未来があるらしい。でも今回あいつはその結果をどうしようもないと言った。きっと、回避方法を模索しても、結果的には死海がくるんだろうよ。」
「リュウグウ様は自分が光る剣で戦い、ビワが光ると言っていたな。」
「つまり、お主は光付与を成功させるということだ!3日だ。今日はもう休んで、鍛冶に専念してくれよ。事件が片付いたら、あいつから精霊様について聞くことができるだろうよ。」
「そうだな・・・」
「・・・お主と初めて会ったときも死海がらみだったな。」
「死海は魔王万歳の派閥だったよな?」
「そうだ。魔王に抵抗しなければ魔王の恩寵を受けられるだろう。と思っている奴らだ。実際、死海に属していると魔物に襲われづらくなるらしい。」
「そうなのか?」
「ああ。死海と死海じゃないものがその場にいたとき、魔物は死海じゃない方を襲うそうだ。」
「(死海と魔物に関係があるのか。)」
「年々魔物に屈してる村も増えてきたんだ。一年前、年に二度生け贄を捧げることで他の村人が襲われずに過ごせている村があってな。母上が派遣した兵士のレポートによると、死海がその方法を教えてくれたみたいだった。結局、生け贄が続かなくて村は壊滅していたが。」
「・・・魔物に屈しているだけでは自分たちは繁栄できない。」
「そうだ。だが、民は命がけだ。魔物に常に襲われない平和は魅力的らしい。チョウチンの里では、死海が魔王と取引したのでは無いかという声も出ていたんだ。魔王は手駒の魔物が減らず、定期的に光を回収でき、ワシたち人を飼い殺しにすることができる。・・・だから、死海のフウセンと話す機会をずっとうかがっていたんだが・・・」
「牢で話せなかったのか?」
「お主も見ただろ?あいつは狂ってた。・・・できれば今度の死海のヤツから、魔王との関係をつかめるといいんだがな。」
「死海と魔王の関係か。・・・何にせよ、自分たちができることは今以上に鍛えること。休むこと。準備をすることだな。」
「ああ。」
そんな話をしていると宿泊している宿に着いた。
「じゃあオモテ、ワシは明日オウムのとこにリュウグウの情報をチョウチンの里に渡すように頼んでくる。」
「わかった。自分は剣の完成だな。鍛冶工房にいるよ。」
「おう。じゃあ、よい海を。」
「よい海を。」
翌日。オモテは朝早くからこんにゃく鍛冶屋でオトヒメと刀に向き合っていた。二人の周りには何本もの剣が無造作に置かれていた。
「あらかたすべての印の光付与ができるようになりましたね。ではオモテさん。ここからです。次の刀に光るように彫りを入れてください。」
「はい。」
オトヒメの協力もあり、オモテは本に書かれている印を彫り、さらには自分の光をこめて光付与ができるようになっていた。あとは本命の発光する刀を創るだけだ。
オモテは自分で作った鉄の剣に金属の加工に用いる工具、鏨と福鎚を使い、刀身に絵付けしたところを掘り進めていった。
「(どうか、光れ。自分の光を吸収してくれ。夜を打ち払え。)」
思いを込めて掘り進める。そして印を彫り終えた。
「ふぅーーーー。」
「・・・できましたね。荒削りですが、いい印です。では、試してみてください。」
「はい。」
深呼吸して、剣に向き合う。
「(どうか。)」
オモテが剣に光を流す。すると、剣にわずかに自分の光が入ったのを感じた。
「・・・!!!!入った!!!」
「ほんとですか!!!!!!!!!!!!!」
「ああ!!!・・・ああ。でも。」
オモテの手の先から3cmくらいまでは光が通るのだが、すぐ手に戻ってきてしまう。刀に定着しない。
「・・・だめだ。もう一振り。」
「大進歩です!!!これはできますよ!!!!次行きましょう!!!!」
「はい!!」
オモテはそこから何本刀を彫り光付与したか。結局、求めていた刀を作ることができなかった。
リュウグウとの約束の日の朝。リュウグウとあってから3日後の早朝になってしまった。
「(・・・結局つくることができなかった。)」
オモテの目の下に隈ができている。
「・・・オモテさん、結局寝なかったの?」
オトヒメが寝起きの顔でオモテのところにやってきた。
「はい。・・・結局、つくれませんでした。」
「・・・でも、おしいところまでいったよ。剣に自分の光を流すところまではいったんです。これはすごいことなんですよ。」
「・・・」
オモテはうつむいている。
「・・・私、なにか温かいもの持ってくるよ。休憩しよ。」
オモテは今まで彫り上げた剣を見つめていた。
「(いったい、何がだめなんだ・・・)」
オトヒメに言われたとおり、本に書かれていたとおり、イサリビに指導してもらったとおりに光付与を行った。しかし、満足いくものはできなかった。
オモテはメンダコの村から持ってきた相棒の剣をもつ。イサリビによって剣先まで整えられた刀身。使用者の無事を祈って装飾された飾り紐。それらをぼーっと見ながらオモテは面を彫ったときの事を思い出していた。
―――オモテ、いい面ができたね。
記憶の中の婆がオモテに話しかけた。
―――面はその人を反映する。この面はお前の両親の面にそっくりだね。二人がいつでもお前を守ってくれるだろうよ。
オモテは婆に面を渡した。
――――じゃあ、最後に婆のお守りも授けようね。
婆の手が光る。オモテが彫ったカ所に婆の光が込められる。オモテの印を婆の光がなぞる。面自体がうっすら光った。
――――これをかぶればお前は無敵。忘れるな。我らはいつでもお前の家族。味方だ。
オモテは目を開けた。なんとなく、そうした方がいい気がした。手に持っていた相棒の刀身を抜く。なんとなく、彫ることに鏨と福鎚はいらない気がした。
オモテは自分の指先に光をこめ、刀が彫れるくらい強い力を出すことを意識した。
爪先がうっすらと光る。カリカリと刀身を削っていった。
「(どんな敵からもウーラ様を助けられるような。自分の手足となる剣に。どんな魔物も打ち払えるような剣に。)」
するすると爪を使い自分だけの印を描いていく。その印はまるでウーラの面と自分の面を合わせたような絵印になった。大きな鹿の角のような長いとげとげした耳のメンダコの紋様。
「(父よ、母よ。私をお守りください。)」
印を彫り終え、自身の光で印をなでた。すると、印に込めた光がぱっと優しく光り、オモテと刀身の間を一周駆け巡った。
オモテは最初何がおきたかわからなかった。が、1テンポ遅れて大きく目を見開いた。
がばっと体勢を起こし、震えた手でもう一度剣に光を込めた。
剣はこれに答え、刀身の中を軽々と光で満たした。
早朝、薄暗い部屋がぼんやり剣によって明るく照らされる。
オモテは剣を呆然として見ていた。




