ハタグルマの里⑥
オモテがオトヒメと共に鍛冶を初めて1週間が経った。
鍛冶屋には必ず熱水噴出口がある。熱水噴出口とは、海の奥底から出る、熱水が出る大地の亀裂である。吹き出す熱水は数百度にも達し、噴出口の周りには様々な金属が析出・沈殿してできたチムニーと呼ばれる煙突状の構造物ができている。そこにはさまざまな鉱石堆積物があり、鍛冶屋はそれらを削り出し、様々な物に造り替えている。とても熱い工房の中で、オモテはオトヒメから道具の使い方、炉の使い方、金属片を使い、印の彫り方などを少しずつ学んでいた。
「飲み込みが早いですねオモテさん!この調子なら、いよいよ剣への彫り練習に入れるよ。」
「!ああ、ありがとう。」
「おーい!オモテはいるかぁ?」
ビワが工房に入ってきた。
「ビワ!どうかしたか?」
オモテは基本誰に対しても敬語を使う。だが、ビワに対してはだいぶ言葉が砕けてきたようだ。それがビワにとってはうれしかった。
「なんだビワ。にやにやして。」
「・・・いやぁ?なんでもねぇよ。それより、オモテに会いたがっているやつがいるんだ。」
そう言って、ビワはビワの後ろにいた人物を工房に招いた。
その人物を見てオモテは驚いた。
「あ!オウムさん!」
ビワの後ろから鸚鵡貝のオウムが入ってきた。
「命の恩人オモテ様!!!」
オウムは両手をがばっとあげてオモテをハグした。
「びっくりしたよ。オモテとオウムが知り合いだったなんてな。」
「ええ、ええ!チョウチンの里に来る途中、クロモチの群れに襲われて商品も駄目になり、ついにこれまでかと覚悟を決めていたところを助けていただいた命の恩人様ですよ。」
オウムはオモテの背中をバンバン叩く。
ビワは呆れた顔で会話を続けた。
「あー、さっきも聞いたぜ。」
「いたた。はは。そんなこともありましたね。自分もびっくりです。ビワも知り合いだったんだな。」
「はぁい!!私、チョウチンの里出身でして、姫様の事はこんな小さい頃から存じています!!」
「そういうわけだ。」
「そうでした。チョウチンの里出身でしたね。」
「ええ!ええ!ええ!!本当にお会いできて良かった。ご無事で何より!!」
オウムはオモテの両手をとり、ぶんぶんと上下に振り握手をして再会を喜ぶ。
「オモテさん、ここじゃあ熱すぎるから工房の奥上がってもらって!お茶用意してくるね。」
そう言ってオトヒメはキッチンへと向かった。
「そうですね。自分たちも行きましょう。」
キッチンに向かい、オモテ、ビワ、オウムは席に着いた。オトヒメはお茶を準備している。
「先に重要な用事を片付けてしまいましょう。オモテ様、こちらお預かりしてきました。」
オウムはそう言って、背負っていたリュックサックからメンダコをとりだした。
メンダコはオウムの手のひらの上でリラックスするようにぺったりと広がって耳を動かしている。
「これは婆のメンダコではないですか!」
オモテはびっくりしながらやさしくメンダコを受け取った。
「オモテ様と別れたあと行商をしている最中に面鮹族の一団に会いました。オモテ様に助けてもらったと話したら一人の方からこのメンダコを渡すように言われたのです。」
――――面鮹族の一団?また村で何かあったのか?
オモテはオウムから情報を探る。
「オウムさんありがとうございます。その一団の顔や特徴何か覚えていますか?」
「そうですね・・・4人組でした。一人は大きい男、一人は小さなおばあちゃん、あと二人は若者でした。全員同じ装束でしたよ。全員面をしていました。メンダコはおばあちゃんから預かったのです。」
「そうでしたか、ありがとうございます。」
婆が村の外に出た?何か嫌な予感を感じたが、まずは手元のメンダコを対処することにした。
オモテはメンダコの右耳を1回、正面から見て左側にある2番目の足を3回なでた。
するとメンダコは姿を変え、指輪へと変化した。
指輪は婆が持っていた光鉢のような色をした、黄色の石がはめられていた。オモテは直感的に”光鉢”だと思った。
「不肖このオウム、面鮹族の伝達術は初めて見ました。」
オウムがしげしげと指輪を見つめながら言った。
「逆に自分は面鮹族の伝達術しか見たことが無いですね。」
「本当ですか!ではお見せしましょう。」
そう言ってオウムは手のひらを上に向けた。20秒ほど経ち、手のひらからポンッとオウムガイが出た。
そのオウムガイはふよふよオモテの元まで泳いできたので、オモテは両手のひらをオウムガイの前に差し出す。
オウムガイから『私を両手で覆ってください』と念話を通し聞こえてきたので、オモテはそのまま両手のひらでオウムガイを包み込んだ。手の中でオウムガイの形が変化したのがわかったので、手を広げた。
手の中に小さな珊瑚が入っていた。
「プレゼントです。」
「ありがとうございます。オウムガイも可愛いですね。」
「でしょうでしょう!私のオウムガイは殻の筋の形が格好いいのです!」
「伝達術はその種族の元になった水生生物が伝達精霊として顕現されるからな。ワシ様だって格好いいビワアンコウだぞ!」
そう言ってビワも手からビワアンコウを出す。小ぶりな黒いビワアンコウで、きれいな光をまとっていた。
「おお!姫様のビワアンコウちゃん!ツヤに磨きがかかっていますねぇ!」
「だろう!」
「はい。お茶お待たせしました~」
オトヒメが帰ってきて、みんなの前にカイメン茶を出した。
「で、オモテ様、お届け物は何でしたので?」




