ハタグルマの里④
オモテは腰に下げていた剣をイサリビに見せた。
「この剣の手入れと、光付与を施してもらいたく来ました。自分の光をいつでも剣に通せる剣にしてもらいたいのです。」
イサリビはオモテの面と、差し出された剣を見た。剣にはなにも光付与されていない。
「ほう・・・。ときに面鮹族の御方。『面鮹族は古に光を宿すことができる入れ物をつくり、暗い世海を初めて照らした一族』というのはもちろんご存じですよな?」
「はい。」
「この海で、最初に光付与をした者が面鮹族、という意味だということはご存じで?」
「「「!!」」」
その場にいたオモテ、ビワ、オトヒメはとても驚いた。
「そういうことなのですか頭領!!!」
オトヒメはがばっっと立ち上がりオモテを見る。
「すごいすごいすごい・・・!!!」
きらきらとした目でオモテを見るオトヒメ。
「へぇ、そうなのか。だがコイツは光付与なんて言葉すら知らなかったぞ。」
ビワは頭領に言った。
「それは、光付与は我らが使っている技術だからですな。」
「?えらく含みがある言い方をするな。」
「光付与は真似事なのです。面鮹族の方は厳密には光付与をしておられない。」
オモテが口をはさむ。
「・・・すみません。故郷を早くに離れたもので、全く知りませんでした。詳しく説明してくださいませんか?」
「何か事情があるのでしょうな。こんな老いぼれの知識で良ければ。・・・面鮹族は自由自在に光を扱われる。体の中の光を具現化しなにもない場所から武器をつくることができた。彼らの思い通りに光が動いてくれるのだ。面鮹族以外の我らもその技術がほしかった。しかし、同じように光を扱ってもうまくいかなかった。なんとしてもその能力を物にしたかった我らのご先祖が、面鮹族の方と共同研究を行い、超常的な光の扱い方を理論的に調べ上げ、かろうじて初歩的な印を使う光付与に成功した。その印を生み出した者こそ面鮹族だったのだ。すべての海に生きる者はこの技術により物に光を宿し利用することができるようになった。…儂らが普段使っている提灯や魔道具などだな。」
イサリビはここまで語り、手元に置かれていたお茶をすする。
「しかし我らが扱う光付与は、決まった印の形でしか施せない。面鮹族の方は自在に施す。光に宿る場所を教えてあげるのだそうな。天性の光を扱う才能でな。だから、何が言いたいのかというと、我らがやるよりも貴方様が光付与をされた方がよいということだ。」
イサリビはオモテの剣を指さす。
「手入れの後、うちの工房で剣に印を入れていきなされ。印も貴方様が入れたほうがよろしいでしょう。小さい溶岩炉だが、いい働きをしてくれる。」
「ありがとうございます。ですが、私は鍛冶をやったことがないのですが・・・」
「それはオトヒメにサポートさせればいい。」
オトヒメはびっくりしてイサリビの顔を見た。
「こんな馬鹿孫だが、鍛冶に関しては贔屓抜きにいい腕をしている。面鮹族の方の光付与を見ても、我らは真似できないから技術を盗まれるとかは気にしなくて大丈夫だ。先ほどの非礼の詫びだ。オトヒメ。横で光付与しながら面鮹族の方のサポートをしなさい。旦那、無償でこき使ってやってくれ。」
「いいんじゃねぇのか?」
ビワはオモテの方を向いた。
オモテは頷く。
「はい。ありがたい申し出です。ぜひよろしくお願いします。」
オトヒメは目をパチパチさせていた。
「オトヒメ!彼らは客人だ!あとは任せたぞ!!」
「はいっっっっ!!!!!!!」
イサリビはオトヒメに怒鳴る。反射のようにオトヒメが背筋を正し返事をした。
「では、オモテ様、鮟鱇族のお兄様、すぐ始める?それとも日を改める?」
オモテとビワは二人で顔を見合わせる。
オモテは首元の白い魚を見た。
「明日からでもいいですか?太陽の神殿に向かいたいのです。」
ビワは伸びをする。
「そうだな!じゃあここからは自由行動だ。ワシもさっき知り合い見かけたから会ってくる。」
「わかった。そうね、明日・・・の9時から炉は稼働できるよ。」
「では、明日の9時にここに来ます。」
「おっけ!…その、オモテ様、鮟鱇族のお兄様・・・先ほどは大変失礼な態度、申し訳ありませんでした。」
オトヒメが深く頭を下げた。
オモテはそれを止めさせる。
「構いません。確かにびっくりしましたが、悪気があった訳ではないのでしょうから。」
「すみません・・・」
「こちらこそ、初めての鍛冶ですので、サポートよろしくお願いします。」
「ええ!まかせて!!」
オトヒメは胸をドンっと強く叩いた。
二人が退店する。
「ではまた来ます。」
「はい!お待ちしています!!」
オモテが先に出て、ビワが後に続く。
店から一歩出て、ビワがオトヒメに一言言った。
「あ、あとワシ女じゃからな。」
この日、オトヒメの一番大きな驚く声が響いたという。




