ハタグルマの里③
オモテ達はカウンターから移動し、店の奥のこじんまりとしたダイニングに移動していた。オモテはダイニングテーブルの椅子に座るよう案内されたので座る。4人がけのテーブルがあり、きれいに使われていることがうかがえた。
オモテ、ビワの向かいにオトヒメと名乗った鍛冶屋の店子が座った。
「改めてお二人様、ハタグルマの里へようこそ。私はこの『こんにゃく鍛冶屋』の若頭、オトヒメと言います。」
この言葉にビワが反応した。
「へぇ!若頭。ずいぶんと若いな。」
「よく言われるよ。でも、腕は気にしなくてもいい。現頭領のお墨付きです!」
えっへん、というようにオトヒメが胸をトンッと打った。
オモテは話を進める。
「それで、自分の剣、ここでは結局自分の光をこめることはできないのでしょうか?」
オトヒメはオモテの顔を見る。好奇心が抑えられない顔をしながら。
「正直、やったことはないの。でも、だからと言って諦めることはしたくない。実際、メンダコ様の面はその効果が付与されているのでしょう?」
「メンダコ様・・・自分の名前はオモテです。ですが、いたずらに光付与されても困るのですが・・・」
「そうだな。メリットがない。」
ビワは腕を組んでオトヒメを見る。
「オモテ様ですか!!そうだと思います。大切な面だもの。ですので、その面について詳しく説明してもらえない?製法、光付与の仕方!!ウチで再現させるから!!!」
「・・・お前、何言ってんのかわかってんのか?」
ビワが唸った。
女であるが、ガタイがよく、高身長で顔が整っている。一見男に見えるビワがすごむととても怖い。ダイニングに緊張が走る。
「鍛冶屋、お前も面について知らねぇってことは、面は一族の秘術かもしらんじゃろ。軽率な。お前に技術を教えてオモテに何のメリットがある?タダで教えろってか?ここにオモテの望む光付与の方法がないのであれば、確実に術がある面鮹族の村に帰ればいいだけだ。」
「ビワ、ありがとう。そこまででいいよ。」
オモテがビワに声をかけた。白い魚がオモテからビワの首元に移動した。首元でくるくる泳ぎ回っている。ビワは精霊様が初めて自分から近づき、コミュニケーションしてくれていることに感動したようで、一瞬ニヤっと笑い、またどすんと深く腰掛けた。
オトヒメは顔を青くして縮こまって黙り込んでいる。
「その通りだ、孫娘が失礼なことをした。」
「頭領!」
オトヒメが頭領と呼んだずんぐりむっくりした男がダイニングに入ってきた。
身長2mはあるだろうか、右腕が無く、オトヒメと似た形をした耳ヒレをもち、耳ヒレがそのまま顎髭のようにつながった大きいヒレを顔に蓄えた初老の男だった。
オトヒメの横に腰掛け、オトヒメの頭をがっしりつかみ、一緒に頭を下げる。
「ぐえっ!」
「面鮹族の方のお隣におはすのは鮟鱇族オチョウ様の親族の方とお見受け致す。お叱りの言葉、大変ありがとうございました。」
「・・・わかるか。」
「はい。その髪の色、発光器、そして間違えようのないほど似ていらっしゃいます。そのお顔。」
ビワはそっぽを向いた。
「そして、お会いできて光栄です、面鮹族の御方。」
「頭領、頭を上げてください。」
頭領が頭を上げ、オモテの方を向いた。
「儂の名前はイサリビ。かつてオチョウ様、オオダ殿と共に戦場を駆けた事があります。」
この発言にオモテとビワは驚いた。
「族長を知っておられますか。」
「はい。あなた様の頭にはオオダ殿と同じ頭耳、そして面。最後にお会いしたのは、100年ほど前ですな。」
「100年前、海の雷戦争か。」
「そうです鮟鱇族の方。最初は、天海から巨大なヘビが雷をまとい現れました。面鮹族の村さらに奥、この世界で最も深い場所から遠いハタグルマの里まで届くような雷を、世海の海々に落とし始めたのです。」
そう言ってから、イサリビは100年前の戦争について語り出した。
100年前。ある日天海から巨大な白いウミヘビのような生物が白いまばゆい光と雷を放ちながら落ちてきた。落ちる勢いのまま深海奥底の割れ目に落ち、それ以降海の各地で激しい稲妻が走るようになった。
稲妻により住処は壊され、人々は死に、多くの物が光になってしまった。そして、各里や村から能力ある者が選ばれ、ヘビ討伐をすることになったのだった。その当時の代表の中にオチョウ、オオダ、イサリビがいたのだ。
ある者はヘビを切りつけ切断し、ある者は負傷者を癒やし、その当時、幼かったオチョウはその能力で、ヘビの目を盗み視界を遮った。イサリビは武器を絶え間なく作り、またその武器を手に戦った。そして最後、オオダが討伐したヘビから出た白い光を新たに作った面に封印したのだった。
「・・・母様からも聞いたことがある。そうか、お主が武具王イサリビか。」
「その名も久しいですな。」
オモテは軽く気になったのでイサリビに質問する。
「しかし、なんでそんな活躍した者がこんな小さな店に?」
それまで話を聞いていたオトヒメが口をはさむ。
「私のせいさ。」
「オトヒメ、」
「私は、頭領の腕を奪ってしまった。」
ビワとオモテはイサリビの無い右腕を見る。
「私は駄目だと言われていたけれど、小さな頃から頭領の工房に入り浸っていた。5つのとき、一人で勝手に頭領の工房に入って溶岩炉に落ちかけたことがあるんだ。溶岩炉に落ちかけた私を救ったのが頭領だった。頭領は両手で私を掴んだんだけれど、その拍子に横にあった鎚が溶岩炉に落ちて、爆ぜた溶岩が頭領の片腕にかかり腕が溶けてしまった。それからはあっという間だった。私はたくさんの人に責められた。頭領は英雄だ。かつてのように武器を作ることができなくなってしまった頭領は引退。持っていた工房を弟子に引き渡し、両親は戦争で死んでいたから、頭領と私はハタグルマに移って暮らすことになった・・・」
オトヒメの目に涙がにじみだした。
「私がいなければ・・・」
「オトヒメ、もう済んだことだ。あれは周りの大人、そして儂が悪いのだ。お前は悪くない。」
「・・・」
「・・・話がそれてしまったな。それで、お二人はなぜこの店に?」




