チョウチンの里⑥
「ならぬならぬ!!女子は里内で過ごすのだ!!!」
「あぁ~またそんな古い考えを母上!!」
親子喧嘩が始まった。
部屋にいる衛兵はまた始まった、というようなジェスチャーで、上を見上げたり、下を見たりする者達がいた。
白い魚はオチョウの声にビクッとし、うるさい、とでもいうようにオモテの肩から服の中に移動してまた寝始めた。
オモテは衛兵の一人に話しかける。オチョウもビワも二人の世界だ。
「オチョウ様はビワが旅に出ることに反対なんですか?」
「あぁ。鮟鱇族のメスはオスより強い。どっしりその場に構えて、いっきに相手を手玉に取りやっつける、がモットーでな。基本鮟鱇族はこの里を出ない。出るときは結婚相手を探すときなのだ。」
「まぁ、なんだかんだ言って大切な愛娘がケガするのを見たくないんだよ、ウチの里長様はね。」
オモテが衛兵と話していると、他の衛兵も話に混ざってきた。
「今のビワ様の雄々しく格好いい男前なのも、あまりいい顔していないんだ。もっと女らしくあるべきってな。」
「オチョウ様も昔は男勝りだったのに・・・」
そう言いかけた最後の衛兵はどこからともなく飛んできたナイフが自身の顔の横すれすれをシュンッと横切ったのを認識して押し黙った。どこからもなにも、オチョウから飛んできたのであるが。
「なんでいつも反対するんだ母上!!別に結婚相手を探すわけじゃない!ワシは里の外の世界で腕っ節を上げたいんだ!!!」
「鮟鱇族ともあろう娘が何を言っているのじゃ!メスは自分の魅力を磨き上げ、優雅に振る舞うものぞ!近接的な戦いは我らには向かぬ!光を使い、相手の視界を奪い一気に叩く!待ち構える戦法が我らなのだ!!」
「嫌だ!!!直接剣や拳で殴りてぇ!!そっちの方が戦ってるって感じじゃないか!!ワシは姉や達みたいに優秀じゃあない。頭もよくない!女らしくない!男に守られるだけの卑怯者になりたくない!冒険者の一団にいた女のように勇敢な者になりたい!!!母上もできなかった夜をやっつけてやるさ!!!」
「ビワアンコ・チョウチン!!!!」
オチョウが最後に大きな声でビワのフルネームを言い怒鳴りつける。
ビワがビクッとすくむ。
「卑怯者、ねぇ。お前・・・女を、里を、ワシを愚弄するかぇ?」
「ワシは・・・ワシは・・・」
ビワはそんなつもりじゃ、と頭を床に下げる。でも、間違ってもない。というようにぐっと眼を狭め母親を下からにらみつけた。
オチョウがため息をつく。
そして、オモテに顔を向けた。
「オモテ、この馬鹿娘連れて行ってくれるかぇ?」
その発言に、部屋の者みんながオチョウを見る。
「ふん。光ることしかできない娘が何を言っているのか。あそこまで啖呵を切ったんだ。外に出て現実を知ってくるのじゃ。夜を倒すまで帰ってきてはならぬ。」
「里長!!!」
「族長!!!」
「オチョウ様!!!」
「オチョウ様!考え直しください!」
「今の発言はビワ様の冗談です!」
「許してあげてください!」
部屋の者がどよめき、必死でビワのかたをもつ。
オモテは部屋の状況を見守る。なぜかはわからないが、ビワはこの里の女らしさが嫌いみたいだ。里に来た冒険者たちに女がいたのだろうか。刺激を受けて、守られるだけの存在でいたくない、と?
「(だから男らしい格好をしているのだろうか)」
部屋の女中、衛兵、すべての者が反対している。ビワの身を案じているみたいだ。ビワは愛されている。
ビワは下を向いていた顔をがばっと上げ母親の顔を見る。
「ああ!!!出てく!!!」
世話になった、自分を引き留めようとする者に声をかけ部屋を出ようとする。が、言い忘れたというようにビワはオモテの方を向く。
「あ、オモテ!明日の朝ワシは里の門の前にいる!来いよ!!」
そう言って去って行った。
姫様!お待ちください!と数人の女中がビワの後を追う。
残された者は ふぅ、とも はぁ、ともわからないため息をつくのだった。
オチョウは衛兵達にもうよい、各自仕事に戻れと命令し、その後ゆっくりと座り直しオモテに話しかけた。
「こんなことに巻き込んでしまって済まない。オモテ。」
「オチョウ様、今からでもお考え直しください、いくら何でも夜を倒すまで帰ってくるだなんて・・・」
「うるさいオニキンメ!もう決めたことぞ!」
「しかし・・・」
震えた声で発言したオニキンメと呼ばれたイカツイ衛兵は、しゅんとしたようすで顔を下に向ける。
「妾もかつてああいう風に思ったことがあった。ああいうのは言ってもわからん。経験で理解が進むのだ。・・・オモテ、ビワはあんな見てくれだが今まで戦わせてきたことはない。皆に甘やかされたわがままな箱入り娘。能力も光ることしかできない。それでも、一人では外に出せない。一人でメンダコの里からやってきたその腕をみこんで、今一度頼む。娘を、外の世界で学ばせてやってほしい。」
オチョウは沈痛な面持ちでオモテに頼む。
オモテはそんな紹介されては嫌だな、と少し思ったが、夜の対抗策になるので来てもらえるのは大歓迎だ。と割り切った。
「もちろん。オチョウ様のお頼みとあらば。また、ウーラ様を見ていただくためにこの里に戻ります。そのときビワ様が里に入るのを拒否しても、オチョウ様にビワ様のご活躍をお伝え致します。」
「!おお、とてもうれしい。妾からもオオダ殿にお主のこれまでの旅の様子を書簡にて伝えておく。もちろん、ウーラ姫のことも。・・・チョウチンの里はいつでもオモテを歓迎する。里の皆にもオモテとビワのことを伝えておく。そうだオモテ、この里を出て次の行く宛てはあるのかえ?・・・ない?では、次の聖都を目指してみよ。もしかしたら、我が里よりも精霊様に詳しい者がいるかもしれぬからな。・・・今日はもう遅い。夜の襲撃から今までいろいろありがとう。ゆっくり休んでいってくれな。」
そうして、オモテはチョウチンの館でこれまでに見たことも食べたこともないようなごちそうを食べ、ふかふかのベットでぐっすりと寝たのであった。
「(これが都海・・・また来よう。)」




