チョウチンの里⑤
「あぁ~!!!アンコ!!!良かった!!!無事だったのじゃな!!!!!」
ここはチョウチンの里、族長の家。チョウチンの館。ビワの姿を見たオチョウは愛娘を抱きしめて離さない。部屋にはオチョウと衛兵が数人おり、部屋の扉の外にはビワを心配した女中達が様子をうかがっていた。
「だぁーーー!!!!母上!!!!は゛ーな゛ーせ゛ー!!!!!」
とか言いつつ、ビワは普段は黒い顔をほんのり赤くしながらオチョウの胸の中でされるがままになっている。
白い魚はこの再開に興味がないのか、オモテの肩で寝ていた。
「ふぅ・・・オモテや、本当にありがとうな。なんと礼を言ったら良いか。アンコの体内の光は弱く光っておるし、ぼろぼろじゃ。おぉかわいそうに。つやつやのお肌がこんなにもぼろぼろになって・・・」
「だぁーもぉ!!いい加減にしてくれ母上!!」
「ぅぅむ・・・しょうがないのぉ。」
やっと解放されたビワ。
ぶつぶつと人前でどーだ恥ずかしいだどーだつぶやきながらオモテの横に移動した。
「――さて。アンコ、オモテ、死海はどうであった?」
「母上はどこまで知っているんだ?」
「死海の目的はこの里の乗っ取り、ということだのぅ。珍しくな。てっきり光を消しに来たのかと思えば早急に光が必要になったようだ。刺客はそれ以上の事は知らなんだ。」
お手上げ、というようなジェスチャーとともにオチョウは語った。
「夜だ、母上。」
「!」
「ワシはフウセンに捕まった。フウセンは明るい部屋にいた。フウセンはおびえていて、夜がやってくる!と叫び続けていたんだ。どうやら手下が持ち込んだらしい。」
夜?夜だって?とざわざわする室内。不安そうな顔をする女中や青ざめている衛兵、何それ?という顔をしている者がいた。
ビワは続けて話した。
「ワシの他にも光る者達がたくさん捕まっていた。ワシらは発光し続けたが、一人、また一人と倒れていって、アジトが暗くなってしまった。暗くなってからは一瞬だった。手下の一人から夜が現れた。牢屋にいたワシとそこに逃げ込んできたフウセン以外みんな死んだよ。」
オチョウは険しい顔をして話を聞く。
「なんと・・・夜が」
「かろうじてその牢屋の部屋にはヒカリカイメンが活けられていたんだ。体力もない状態で、イカれたフウセンと一緒に牢屋で過ごしていたらオモテが来た。ヒカリカイメンの光がなくなり、また夜が現れた。ワシが発光して、夜を蹴散らして、オモテから母上の首飾りを光らせながら帰ってきたのだ。」
「そうか・・・フウセンは、他の生き残りはいなかったのか?」
「少なくてもアジトの中は壊滅だった。全員、死んだよ。何人かは、夜になったようだ。」
「――――・・・そうか。」
オチョウは、ビワの話を聞いてからゆっくりと立ち上がり、オチョウの部屋の棚の前に移動した。
そして、一冊の本を取り出し座っていた位置に戻る。
「この部屋にいる夜の話を聞いた者達よ、今から夜がなんなのかを話そう。この本は我ら鮟鱇族に伝わる書の一つ。よく聞くが良い。」
そうオチョウが宣言し、本を開き、本を読み出した。
「―――我ら生き物が魔王の手から逃げ、海に逃げ延びるより前から、海には夜がいた。夜は、見てはならぬ。一度見てしまうと、眼に巣くう。夜は眼の闇がゲートである。暗い場所が夜の生きる場所である。夜は眼から現れる。一度見た者は、夜につきまとわれる。夜から逃げろ。さもなくば、夜がやってくる。光る者達よ、屈することなく光り続けよ。たちまち夜は光にかき消されるであろう。耐え抜くのだ。やがて夜を統べる月が現れる。」
そこまで呼んで、オチョウは周りを見渡した。
「妾達のご先祖さまである鮟鱇族は光る仲間を連れこの里をつくったという。古より光を研究する者達。太陽に近づくため、そして、夜に対抗するため。気がついたら歓楽街として有名な観光名所になったこの里であるが、今もなお夜に関して研究をし続け、光り輝き続けている。夜は、光がある場所には絶対に現れぬ。この里には、案外夜から逃げてきた者も多いのだ。」
オチョウは続けて発言する。
「我らの研究では夜は、この海の名残、だと考えておる。」
「名残・・・?」
部屋の誰かが発言した。
「うむ。名残である。かつてその場所にあった者達。夜を見た者は、まるで孵化した卵の殻のような状態になってしまう。身体が夜の者になってしまうらしいのじゃ。かつてこの海にいた者達。その名残。夜は存在しないから、物理的に触れることができぬらしい。」
オモテはおもむろに質問する。
「オチョウ様、質問をいいですか?」
「許す。」
「月とは何なのですか?」
「ううむ、それがの、よくわかっておらぬのじゃ。」
オチョウは顔をしかめた。
「夜を耐え抜いた先に月が現れる、とこの本には書いてあるのじゃが、それ以外に他のどの書にも月に関する事は載っていないのじゃ。」
ビワがオモテの方を向いて発言した。
「だから、ワシらにできることは光を絶えずつけておくこと、っていうのが里の方針なんだ。だからこそ死海の奴らはやっかいだった。光を消せ!魔王を刺激するな!ってな。夜が来て死ぬかもしれねぇってのに。」
続けてビワは言った。
「ワシも初めて夜を見た。あれは、見てはいけないものだ。これからも光り続けなくちゃいかん。」
「うむ。アンコの言うとおりじゃ。オモテ、お主夜を見てしまったのであろう。我が里一番の性能を誇る提灯をやろう。アンコを助けてくれた礼じゃ。」
「!それは大変助かりますオチョウ様!」
オモテ素直に喜んだ。続けて、ビワが大きく頷いて、オチョウを見た。
「うむ!そうだな!オモテはこの精霊様の旅が続くようだし。し・か・し!!母上!!提灯がいつまでも灯り続けるとは限らぬ!!最強の“チョウチン”として!!ワシ様もオモテと旅に出る!!」
そうビワが高らかに宣言したその部屋は、だれもすぐには反応できなかった。
「~~~~~~ッ!!!ならぬ~~~~~ッッッ!!!!!」
オチョウ様の怒声が里中に響き渡った。




