死海の湖
死海の湖へ行くために、オモテは渓谷を歩いていた。チョウチンの里のような明るさ、活気はなく、静かで真っ暗な道が続く。
オモテは面に集中し、目の前の道を照らしながら進んでいた。
ふと、目の端で人影を見た気がした。しかし、暗い海が続くだけでそこには誰もいない。不気味な場所だった。
暗い道の遠くでふわっと明かりが灯った。
「(!・・・死海か?)」
オモテは面の明かりを消し、ゆっくり近づいていく。
面の周りに集まっていた小魚がその光に吸い寄せられていった。
「ーーー!!!ーーーーー!!!!」
遠くの方で人の叫び声が聞こえた。声はどんどん近づいてきて、走りながら、明かりに向かっていく男が見えた。
「ーーりだ!!ーーあーりだ!!あかりだ!!!!!」
狂ったように叫びながら光のもとへ走る男、光にたどり着いたその瞬間、男がのけぞったのが見えた。
「ヒィッ!!!!!ーーー」
光の中に大きい魚の顔が見えた。チョウチンアンコウだ。だが、それは従来のチョウチンアンコウに比べ大きすぎた。全長3mはある、チョウチンアンコウの魔物だった。
「姫様!あの魔物を倒しますよ!」
そう言われた白い魚はオモテの首元から服の中に入り込んだ。
オモテは面の光を足に集め速く走るイメージをし、トンッと地面を蹴って水中をすごい速さで泳ぎ進む。
チョウチンアンコウの魔物の明かりが消えかかっている。捕食したから満足、しばらく獲物はいらないということだろうか。
明かりが消える直前に魔物の元にたどり着き、オモテは魔物のエラから脳まで一気に剣を挿し込む。
「(魚と同じなら、脳の構造も同じであってくれ・・・!!)」
チョウチンアンコウは突然訪れた痛みにひどく暴れ、オモテを剣ごと振り落とす。砂埃が舞う水中で、チョウチンアンコウは血を流しながらチョウチンを灯し、自分に危害を加えた生物を探した。
だが、明かりを灯したのは愚策だった。オモテはよく見えるようになった水中でもう一度同じエラから剣をねじり込んだ。
これが決め手となったのか、魔物は一瞬体を硬直させ、明かりをバツンと消し倒れていった。
オモテの服から白い魚が出て、魔物の体から出た光を食べていく。その様子を見ながら、オモテは魔物の腹を裂いた。
「間に合うか・・・」
胃袋を破き中から男を見つけたが、男は首と胴が分かれていた。
その後も真っ暗な渓谷でオモテはクロモチやチョウチンアンコウのような魔物に会い倒していった。この海で会う魔物は元々この海にいる水生生物に酷似している。クロモチはよくよく観察してみると巨大なナマコの類いのようであるし、今倒した長い触手を操る魔物も、クラゲのような魔物だった。
「(我々も元は原始的な水生生物から進化したと言われているし、もしかしたら魔物も同じ水生生物から変化していったのかもしれないな。)」
オモテの頭上にそびえ立つ渓谷の間を、全長100mはあろうかというタカアシガニの魔物が歩いて渡っていった。そのようすを眺めつつ、オモテは先を急いだ。
「(見えてきたな。)」
渓谷を抜けた先に、大きな湖があった。オモテは湖というものを見たことがない。今まではため池のような小さい水たまりは見たことがあったが、ここまで大きな水たまりは初めてだった。
「(水の中に溶けている物質の種類や量がちがうから、別の層に分かれて見える。これがスープや水たまりの正体だったな。)」
オチョウの話では、死海の湖の名のとおり、触れたら死んでしまう成分が含まれているらしい。確かに、よく見ると湖の中には蟹の骨格や見たことのない生物の死骸が沈んでいた。
「(しかし、湖の周りにも生きている生物がいるのだな。よくわからないチューブ状の生物や貝が密集している。どうやって生きているのだろうか。)」
次にオモテは湖の中央に目をやった。そこには岩山があり、洞窟の入り口にヒカリカイメンの明かりが灯っているのが見えた。どうやら、死海の本拠地はあそこのようだ。
「姫様、これから死海に乗り込みます。危険ですので、決して離れないでいてくださいね。」
白い魚は再びオモテの首元から服の中に隠れた。
死海の湖のモチーフは、地球上に存在する塩水溜まりです。理論的にはなぜ発生するのかわかるのですが、海の中に湖があるなんてとても不思議に感じませんか?




