深海光夜祭
初めての投稿になります。よろしくお願いします。
―――――ここは遙か深く、天におはします神々すら目の届かない深海奈落の底。
その昔。今は昔。我らが太陽は地を温かく照らし、生きとし生けるものすべてを慈しんでおられた。しかし、いつの頃だったか、魔王が現れ、邪悪なその怪しき技により、陸地が消滅してしまった。陸地に生きていたすべてのものは海へと逃げた。途方もない年月が過ぎ、生きのびたものは静かに息絶え、やがて海は死の国へと姿を変えた。慈しんだものが絶えていく姿を嘆いた太陽は、自らの身を少しずつ削り、自身の光を、海の底へと送り届けた。光は亡骸と混じり合い、新たなヒトが生まれた。だが、それを面白く思わなかった魔王は怒り、太陽を海からしめ出してしまった。そして、海に降り注いだ光は、今も魔王の軍によって回収されている。
深海の奥底。その日、頭頂部に小さいウサギの耳のような髪のハネが2本はえていて、顔を面で覆い隠している面鮹族が集結し、輪の中心にいた婆から歴史を語り継がれていた。
「・・・我らは死後光となり、太陽のもとへ返るが、今はそれもかなわず。誰かが魔王を倒し、太陽にお目通りする必要があるのだ」
1年に1度、天から太陽の光が深海奥底へ舞い散る日、深海光夜祭。大人なら毎年耳にタコができるくらい聞いている話。子どもたちは我こそは魔王を倒すのだ。と意気込む日。
「オモテ、族長様の挨拶の後、我らが巫女姫様の舞が始まる。行くぞ。」
赤い髪色、黄色の眼をもつ青年、面鮹族のオモテは、はい!と返事をしながら、先輩の後をついて行く。この日オモテは巫女姫ウーラの護衛を任されていた。オモテは他の護衛とともに祭会場へ向かった。
面鮹族の族長が、深い偉大さを感じさせる声で口上を述べる。
「我らが面鮹族は暗い深海の中で、太陽の力!――光を宿すことができる入れ物をつくり、暗い世海を初めて照らした一族!こうして皆が光を宿した面をかぶり、今年も皆が光とともにあることをうれしく思う!今よりいっそう力をつけ、豊かに繁栄していこう!さぁ、天より来たる光に感謝を!光を体内へ!」
その言葉とともに、村人それぞれが空から降る光を手で優しく包み、飲みこむ。
光を飲んだ後は、みな音楽を奏で、祝い踊り、語り合うのだ。
「母ちゃん、お光様飲まなきゃだめ?飲むのかわいそうだよ」
「私たち生物は光を飲まないと成長できないの。しっかり飲むのよ」
「こら!お光り様は一人ひとつまで!体調悪くなっちゃうわよ!」
「んぐっ・・・やぁー!!かえしてぇ!」
「だめだめ!1つの光を1年かけて体になじませないといけないのよ。おまえは今年4歳になるだろう?1つ新たな光を飲み、体に4つの光を宿すのよ。2つとったら苦しい目にあいますよ」
「ごくり。これでまた1つ、光の力が宿った!俺はどんどん強くなる!」
「宿っている光の分だけ俺たちは強くなれるからな。族長様はどれくらい宿しているのだろうか?」
「族長様は100歳超えらしいな!とんでもなく強いんだろうな」
「婆様が個人の強さをはかる道具をお持ちらしいぞ。見てもらいたいなぁ」
きれいな楽器の音が響く中、巫女姫ウーラの舞が始まった。会場の誰もが目を奪われる優美な舞。ウーラが腕を天高く掲げ、太陽への感謝の舞を踊る。オモテは、ウーラの舞を見つめていた。
そのときだった。
一瞬、空が緑色に光った。目がくらむ中、誰かが声をあげる。
「強い光が降ってきた!!!!」
すぐさま見上げると、緑色の、まばゆい大きな光がゆっくり墜ちてきている。それと同時にそれを追う影も見える。誰かが口火を切った。
「魔物だー!!!!」
天高く、大きな光のすぐ後ろに身の丈5mほどある黒い、巨大な魔物の姿が見えた。2本の角を激しく揺さぶる。黒い雄牛に魚の尾が生えたような魔物だった。
魔物は光が好物であり、見境なく、光や光を宿すものを襲う。
ざわつき、阿鼻叫喚の渦にさらされる会場。魔物がどちゃんと会場に降り墜ち、すぐに共に落ちてきた巨大な光を丸呑みにした。その後、次々に近くにいる人を襲い始める。先輩達、親族達、次々と。
オモテは逃げ惑う人にぶつかられながら、巫女姫ウーラの姿を探す。ウーラの目の前に魔物が。
「ウーラ様!!!!!!!」
ウーラが魔物に食いつかれる。ブシュッとウーラ様の体から光が漏れ出る。
オモテは目を見開き、逃げ惑う人々を飛び越えウーラの元に駆け寄る。
「(もっと速く走れ・・・動け!)」
ウーラのすぐ後ろについたオモテ。その瞬間、ウーラの体が白く発光し、あたりが強い光に包まれる。
「!」
魔物は目がくらみ咆哮を放った。オモテが次に魔物の姿を捉えたときにはウーラの姿はなかった。猛り狂った魔物は見えないながらもオモテの方に一直線に突進してくる。オモテはひらりと回避し、腰に差していた剣ですぐ魔物の目玉を突く。魔物は悲鳴をあげた。魔物の眼の穴から、緑と白が混じり合った色の、溶岩のようにどろりとした光が漏れ出た。オモテは魔物に馬乗りになり、暴れる魔物の首元を羽交い締めにしつつ、剣を力一杯魔物の脳天の方にねじり込む。魔物はさらに雄叫びを上げる。しだいに暴れるのをやめ、よろよろとする魔物。剣から手を離し、オモテは魔物から飛び降り距離をとる。魔物はもだえ苦しみ、ばたんと倒れ、そのまま動かなくなった。それを見届けてから、オモテは、魔物から剣を引き抜いた。
「(間に合わなかった)」
オモテはウーラを探すため、オモテを丸呑みにできそうなくらい大きな魔物の口を開ける。その後、腹を開く。その瞬間、腹から巨大な白い光の球が飛び出した。
光の球はゆっくりと移動しながら、先ほど姫が食べられた場所に落ちている姫の面の中に吸い込まれていく。
「この光は・・・ウーラ様が放たれていた光と同じ・・・」
オモテは、目がくらみそうになりながらも、面に入り込む光から目を放すまいと見据える。光がすべて入りきった瞬間、ひときわまばゆく面が発光した。その光は、徐々に人の形をなしていく。その姿は、ウーラの姿のようだった。
「ウーラ様!!!」
しかし、ウーラの姿をしたのもつかの間、光はくずれ、仮面の上に小さな白い魚がぽふんっと現れた。