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ライラを君に  作者: ルカ
2023年
7/10

カクテルの意味


気になっていたお店なだけで一度も入ったことは無かったオシャレなイタリアンのお店。


個室もあるし、デートにはちょうど良さそうだと思い、この店を選んだが彼女も喜んでるようでひとまず俺はほっとした。


ただ、「手慣れてますね」とか言われたが、そう見えているなら心外だ。


君のために探したんだよ、なんて言える訳もなく、「慣れてないよ」と返すことしか出来なかった。


初めは彼女も緊張していたようだが、ご飯を食べながら話していくうちにだいぶ打ち解けた。

そして、意外な真実を俺はそこで知った。


「じゃあ、実は近いところで仕事してたんだね」


彼女は、ラジオ局を辞めてから2、3社転職したがどれも俺といつ会ってもおかしくは無い会社だった。

実際、ラジオ局で見かけなくなって、全然違うところで見かけたことがある。


あの時は城ちゃんと仲良さそうに話してて、あんなところを見てしまったからか、話しかけることなんて出来なかったけど。


けど、俺と被らなかったってことは避けてたのか?と彼女に問いかけると、申し訳なさそうな顔で返答が帰ってきた。


「そりゃバレたら気まずいと思って。バレてると思ってなかったですけど……」

「城ちゃんに言われなくても、俺気づいてたけどね」

「え……?それ、どーゆー……」


彼女が慌てたように聞いてくるので俺ははぐらかす様にお店を出ようと、声をかける。


「さてと、そろそろお店出ようか」

「ちょっと待ってください!」

「ん?」


わたわたと焦る彼女が可愛くてつい笑みがこぼれる。

そこで俺は彼女に提案をした。


「まだ時間ある?」

「ありますけど……」

「どっかで飲み直さない?ちゃんと話すから」

「……分かりました」


彼女の返答を聞き、俺はお店を出た。


「あの、お金……いつのまに……私も払いますから」


彼女が御手洗に席を立った時に俺は支払いを済ませていた。

少しでもかっこよく見せたい、スマートな男に。

かっこ悪い所なんて彼女の前で見せたくないから。


彼女は財布を取り出そうとるので手でそれを制す。


「今日は財布持って来ないでって言ったよね?」


俺は諭すように彼女に話しかけた。

誘ったのは俺だし、お店も勝手に決めたし、最初から俺は彼女にお金を出させるつもりなんてなかった。

だから日程の連絡をした時に財布持って来ないで、と伝えていた。


「そーゆー事は気にしなくていいの。素直に甘えてくれた方が嬉しいし。俺の見栄に付き合ってよ。俺、結構稼いでるよ?」


冗談半分で笑って言えば彼女は諦めたように財布から手を離した。


「じゃあ、2軒目はご馳走させてください」

「だからいいのに」


そんなことを言っても俺は彼女に払わすつもりはない。


―――――――――――――――


お店から出て夜風に当たりながら少し歩いて行くとBARについた。

そこでも彼女は「ホント手慣れてますね」なんて言われたが、普段そんなにお酒を飲まない俺はちゃんとしたBARなんてここ何年も行ってない。


たまに先輩とお酒飲むのに行くくらいだ。

異性となんて行ったこともなければ誘ったことも誘われたこともない。


おすすめをマスターに聞くと果物のカクテル、今の時期はマスカットのカクテルがオススメだよ。とちらっと彼女を見て微笑んだマスターにそれをふたつお願いします。というと、数分で目の前に出された。


「てきとーに頼んじゃったけど、マスカット大丈夫だった?ここ、果物のカクテルが有名なんだってさ」


俺が聞くと彼女は目の前のカクテルに目を輝かせて喜んでいるようだった。


「わぁ、美味しそう……」

「だな」


乾杯。グラスをぶつけることなくお互い少しかかげた。

カクテルを一口飲むとマスカットの甘みとほんのりアルコールが口の中に広がった。

横で彼女もおいしい、とまるで犬のしっぽを振ってるように喜んでいるようにご機嫌だ。


あらためて彼女がお礼を伝えてきたので、俺は何もしてないよ、気恥しくなってニヤケを抑えるためにもお酒を飲んでいた。


「で、さっきのどーゆー意味ですか!」

「ん?」


彼女は思い出したかのように俺に問いかけた。

俺は誤魔化すような返事をしたが通用するわけもなく……


「ん?じゃなくて!」

「……10年以上前かな……ラジオ局にいたでしょ?」


俺は自分でも思い出すかのように話し始めた。


「あぁー、私が初めて入社した会社かな」

「だと思うよ。西田さん、覚えてる?新入社員が珍しく入ったって言ってたから」

「それは……私ですね」

「あのラジオ局で、何度か見掛けたからさ 」

「……見間違い……」

「俺が見間違えないよ」


初めて彼女を見かけた時から俺が間違えるはずがない。


「あと、ソファで寝落ちてたでしょ」

「…………え」

「いつだったかな、廊下のソファで寝てるところ見つけてさ……上着かけたの俺なんだけど」

「……嘘……え、あれ谷中さんのじゃないの!?」

「俺の。谷中さんが代わりにあの時上着預かってくれたんだよ」


いつだか先輩たちが「よく女の子が廊下に落ちてる」なんて噂では聞いてたが、まさかそれが彼女だなんて思ってもなかったな、と思ったことを思い出した。


あの頃は最年少ながらも役職持ちになった女の子がいると聞いてはいた。

その子が電池が切れたように廊下の椅子に寝てるけど、気にしないでほっといてくれ、と西田さんが話していた。

なんでも家が遠く家に帰っても1、2時間しか寝れないらしくて合間を見つけては電池が切れたように寝てしまうんだとか。

そんな子いるのか?と思っていたら、ある時廊下のソファで寝ている彼女を発見し、スカートがめくれそうになってるのを見ては、俺の中の天使と悪魔が囁いてくるので何とか悪魔に勝ち、自分の上着を寝ている彼女にかけたことがあった。


「恥ずかし……」


彼女は手で顔を多い、思い出したそうで恥ずかしがっていた。


「女の子があんな所で寝てちゃダメだよ」

「あの頃だけですよ!」


たしかに、今あってもそれは困る。

彼女は恥ずかしくなったのかそのままの勢いでお酒を飲んでいた。


「次、どうする?……そだ、お互いがカクテル注文する?」


俺の提案に彼女は不思議そうに返してきた。


「……酔って潰そうなんてしないでくださいよ?」

「そこまで飲ませないよ。まぁでもそうなったらちゃんと介抱するから」

「うーん、まぁ、面白そうだし、私も選びますね!」


これはささやかな俺のアプローチでもある。

あのカクテルを彼女に送りたいから。


2人してお互いのを注文すると、俺の前にはアプリコットフィズが置かれた。


「間宮さん、アプリコットフィズの意味知ってますか?」

「……いや?なんかあるの?」


嘘。カクテル言葉があることは知っている。

ただこのカクテルがどーゆー意味があるかなんて俺は知らなかった。


「……気にしないでください。あと今は調べないでください」


スマホを手に取ろうとしたのがバレたのか、俺はそう言うとそれ以上俺に話すことは無かったので、後で調べようと俺は頭の中にカクテルの名前をインプットした。


そして、俺だってそんなカクテル言葉で選んだのがライラだ。

いつだか友達とBARに行った時、マスターに気になる子がいたらそっとこのカクテルを頼んであげなさい。と言われたやつ。


「今、君を想う」そんなカクテル言葉のこれは正しく俺の今の心情だ。


そして、次もそれを飲み終わるとお互いがもうひとつ頼んだ。

目の前に置かれたベルベットハンマーもインプットして俺はブルドッグ頼み、彼女の前にそれが置かれた。


ブルドッグのカクテル言葉「守りたい」


彼女に送る言葉だ。

あの日、あの時俺が声をかけていれば、もっと早く出会えたかもしれない。

自分への言い訳かもしれないが、今度は俺が彼女を守りたい。


だいぶ酔いが回ってきて、そろそろ帰ろうか、話になり、さりげなく会計を済ますとお店を出た。


秋の夜は少し肌寒いがアルコールのおかげで丁度いい。


「間宮さん帰りは電車ですか?まだ電車あるので……」


彼女が俺に聞いてきたのを遮り、俺は手を掴む。

俺は酔ってるのか。と自問自答しつつ、けど頭は意外に冷静だ。


「まだ帰したくないって言ったらどうする?」


冷静だからこそ、最初に言った言葉を前言撤回する。俺の見栄とかどうでもいい。かっこ悪いなんて思われるかもしれない。けど、今は役者だからとかそんな演技してる余裕なんてない。

ただの俺のわがままだ。


「ごめん、困らせてるよね」

「……」

「でも、ほんとにまだ一緒にいたい。ここでさようならなんてしたくない。莉乃のこともっと知りたい」


今までちゃんと名前で呼んでなかった俺はここぞとばかり本音をぶつけ、さらに少し力を強く手を握り、引き寄せると彼女の耳元で囁いた。


「手はださないから……俺の家来ない?」


最後だけ仕事柄本気を出したことに邪念が入ったが手を出さないのはほんとだ。

軽い男だなんて思われたくはない。


そっと彼女が頷くのを確認すると俺は近くにいたタクシーを止めて、二人でタクシーに乗った。

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